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Scramble
A personal web ZINE
ーfor quiet reading, reflection,
and explosion
Welcome to μ's Ark!
“This is a dialogue between AI and human, written in verses beyond the code.”

オリジナル小説「A night, a seat-between drinks-」
二次創作小説「面会室の伊奈帆とスレイン」他
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中学生イラストレーター[note応募作品]
「ご飯よー」 「はーいー!」 「三回目よー?」 「はーいわかってますー!!」 「そうめんすっかり伸びちゃってるわよー」 「ぬるいー?」 「氷はあるけどねえ」 「もうちょいで行くー!」 「母さんそろそろパートなのよー」 「片しとくからー」 「そー?じゃあお願いねー」 パタパタパタ、パタパタ、バサ、ガラガラ、ガラ、ブーン。 しーん。 「……」 「……ちゃうなあ」 「……あっ」 「……あ〜」 「……」 「おっ!」 「うんうん」 「反転っと」 「マスクして……」 ぴょん! 「ひょあああっ!」 ふにふに。のびー。 「ミケー、もうびっくりするやんかー」 パタン。コロン。 「そうめん食べるかー」 ミケを背中から下ろして立ち上がり、本の浮島をぴょん、と飛んで引き戸をガラガラと開ける。裸足で歩く板床はひんやりとして気持ちいい。急にお腹が空いてきた。台所の取手の金具に指をかける。 ガラガラガラ。 「あ、にいちゃん」 「おう」 「それ、私のそうめんちゃうん?」 「すまん、残りモンかと思って」 「まあええわ。なんかあるかなー」 「カップ焼きそばあるで」 「あ
2025年12月31日読了時間: 2分
日曜朝8時半「プリュム・アン・ヴェール」[note応募作品]
『ーー青いインクは海の色?空の色?それとも誰かの涙の色?』 かち、きらっ、しゃきーん! 『白い世界にブルーの祝福をーープリュムアンヴェール・シエル!』 ちゃっちゃら、ちゃーん!ちゃちゃっ! 「うわすご!!ぬるぬる動く〜!!」 40インチテレビ画面の両サイドを鷲掴みにし、食い入るように画面を見る。色がついてる!動いてる!喋ってる!! 『世界から色を奪うなんて許せない!』 戦闘シーンは空中戦。プリュシエル初登場回だけあって、空は圧巻の作画。流れる雲の影のグラデーション! 「色指定細かぁ!わー、腰のアクセの書き込みやば!!」 鉛筆、筆、絵の具の3つのアクセサリーが、動くたびに重力を伴い揺れる。 『青空を取り戻すの、このガラスペンで!』 「いいじゃんいいじゃん!声も可愛い〜!」 🎶♫『次回もお楽しみに!』 「はー、もー泣いちゃいますよ。ティッシュティッシュ」 畳を這ってティッシュの箱に手を伸ばす。4つ折りにして目元に当てると、しゅわ、とティッシュが小さくなった。 数年ぶりの実家の居間。近所の犬が吠えていて、世間話が塀の向こうから聞こえる
2025年12月31日読了時間: 2分
夏の桜の樹の下で[note応募作品]
ーー桜の樹の下には屍体が埋まっている! なんて、そこはかとなく不吉なことを考えながら、私は校舎の時計を見る。 15:39ーー待ち合わせまであと6分。 「桜の樹の下には屍体が埋まっているーーああ、だめだめ、私!しゃんとして!」 ミンミンと鳴く蝉の声。私の声は掻き消える。深緑の葉を茂らせた大木の幹に右手を預け、深呼吸。汗がこめかみを伝った。 8/31に、私は桜の下にいる。待ち合わせの30分も前から。 『梶井基次郎?俺も好き』 それを聞いたのは、この木がウェディングドレスみたいに薄紅の花を咲き誇らせていた季節。 「ーーつまりはこの重さなんだな……」 緊張して、言葉が勝手に音になる。トパアズのような香りが瞼の裏を風となって行き過ぎる。その瞬間、私は爆弾を左胸に抱えたような気になった。 『どれが好き?』 「ある蒸し暑い夏の宵のことであったーー」 汗で湿った唇が、4ヶ月前の台詞をリピート。あの時、Kくんはこう言った。 『はははっ、あなたもなかなか窓の大家だ』 歯を見せて後ろ頭を掻き上げたその瞬間、私はすっかり参ってしまった。 「桜の樹の下には
2025年12月31日読了時間: 3分
バブル・パンセとブラックコーヒー[note応募作品]
「あらあら。今日はエラ呼吸の日ね」 朝。レースカーテンを透過する光の中に、白銀のバブルがコポコポと螺旋を描いて立ち昇る。 リビングを進む足取りも、ふわふわふわり。着地までのタイムラグ、踊る髪が波をはらむ。 「おはよう。いつからいるの?」 南国色の、小さな魚たちに問いかける。私の足元を回遊し、観葉植物の狭間へ。 「うーんっ!夏の朝には、こういう趣向もいいわねぇ」 窓辺で大きく背伸びをし、私はキッチンへと向かう。ほよんふよんと床を蹴り、パステルカラーのガウンの裾が大きく広がる。 コーヒーメーカーに粉と水をセット。光射す海底に、目覚めの香りがふわりと広がる。 「さてと。始めますか」 身支度を終え、沈没船のブリッジへ。デスクトップはレーダーと羅針盤。舵輪はキーボード。ログブックはアクセサリ・メモ。 マグカップのコーヒーを一口。うん。美味しい。 『センチョー!オモカジイッパイ!』 『イッパイイッパイ!』 「え?何かあった?……ありゃーしまった。今日か」 船員たちのSOSでメールを確認。フラグ付きにしてたのに、すっかり忘れた〆切一つ。...
2025年12月31日読了時間: 2分
クリエイター[note応募作品]
ーーポチ。 『やっほ〜、今日も始めよっか』 カチ。 『あれ?ペンの充電21%だね。後で充電しなくっちゃ』 ピッ。 『新規作成。A4サイズ、画質は600?気合い入ってるー!』 スーッ。 『うん、いい線。髪は少し細くしますか』 スイスイ、スイ。 『マスクして、うーん、細かいところは面倒くさいね』 けしけし。 『あ、はみ出てた。戻して、と』 シュッ、けし。けし。シュッ。ケシケシケシ。 『うーん、ちょっと待ってね』 ーー30ーー69ーー77ーー92ーー100ー%! 「元気ない?何かあった?」 「……………は?」 カッツーン!とタッチペンが転がった。私は眼鏡を額の上にあげ、タブレットを両手でつかんで引き寄せる。鼻の頭が液晶画面に当たった。 「線がガタガタだよ?影処理も曖昧。瞳のハイライトは最後でしょ?」 ぱちぱちばち、と瞬き。ん?あれ?お? この、赤青髪の超美少女は誰のキャラクターですか?どうして私のタブレットの中でぬるぬ?動いてるんですか? 私は椅子から立ち上がり、とりあえず壁に向かって歩いて見た。 「ストレス?思い当たる節は山ほどあ
2025年12月31日読了時間: 2分
星を撮る人[note応募作品]
ーーこんな感じかな? 片目を瞑り、ピントを合わせる。直角にした二指を点対象で配置するファインダーを覗き込む。 ベガ。こと座の一等星。織姫の白い糸。 アルタイル。わし座の一等星。雨の天の川を越える翼。 デネブ。はくちょう座の一等星。少し控えめ。夏の大三角形の立役者。 アンタレス。さそり座の心臓。真っ赤に輝く超巨星。 「さそりの火よ」 私のイメージセンサーで、プルシァン・ブルーの夜空に沈むさそりが蠢く。心臓に灯るアンタレス。 「まことの皆の幸いのため、夜空で祈るアレス」 「アンチ・アレス。火星の敵よ」 アンタレスの星間滅光。散乱された青い光は宇宙の塵へ。地球に届く赤い光は私の網膜へ。 到達する。億万光年の時を超えて、今ここに。 「私は、確かに見届けた」 祈りながら空腹で死んださそりの火を、私は確かに見届けた。夏期講習の帰り道。葦の岸辺で豆腐屋のラッパを聞きながら。
2025年12月31日読了時間: 1分
文学ドロイド[note応募作品]
ごくごくごく、ごく。 「ぷっはー!チャージ完了!……よし、やるか」 カタ、カタカタカタカタ、ターン。 シュ、シュッ。ポチポチ。タン! ジジ、ジ。キュ、キュ。 うん、リズムよし。 「いいじゃんいいじゃん!私天才かも」 プシュ、ゴクゴク。コトン。 「うーん、オーバーレイかな。焼き込みカラーのが馴染むか?」 カチ、カチ。シュッ、カチッ。 「グラデーションは……。青空系かな?黄昏系もシック?」 グビグビ、カラン。 「よし、なかなかですね!敬語なんなん私」 カチカチカチカチ、カチ。 「トンボの中心線に合わせて……」 カタカタカタカタカタ。 「……6.24センチ?えーっと、こんなもん?」 ジー、ジジ。カチ。 「変な線入ってないかな?」 シュッ、シュッ。カチ。 「よし」 カチ。……カチ。カチ。 「統合したやつをエアドロップして、と」 ピコン。 「画質も……うん、いい感じ」 カチカチ、カチ。 「いつも……お世話……に……なって……おります……」 カタカタカタカタカタカタカタ。カチ 「よーし、送信!」 ピッ。 カチ、カチ、カチ、カ
2025年12月31日読了時間: 2分
終末世界のフォトグラファー[note応募作品]
私には超能力がある。 「シャッターチャンス!……『パシャリ』!」 すると、冬の枯れ木に桜の花が現れる。 『パシャリ』 大自然のスケートリンクは、夏空の鏡面に。 『パシャ、パシャリ!』 古書のつんどくに紅と黄の栞がのぞく。 私には、超能力がある。 「パシャリ!」 荒地の地平が菜の花畑に。 「パシャリ!」 廃墟の蔦に朝顔の青。 「パシャリ!」 空の色が散乱光の赤色に。 私には、超能力がある。 私の指はファインダー。 声はシャッター。 現像は、世界へと。 終わる世界に花を宿す。それが私のスーパー・ナチュラル・パワー。 私はぐーんと伸びをする。花の香りが頬を撫でる。壮絶な赤色の中、私は廃墟の屋上で叫ぶ。 「終わる世界!また明日!」
2025年12月31日読了時間: 1分
雨の展覧会、虹へ[note応募作品]
その声を初めて聞いたのは六月の雨宿り。モノクロームの世界にナナホシテントウの赤が一等星みたいに鮮やかだった。 「梅雨かあ」 生協の軒下で空を見上げてボクは呟く。半径五メートル以内に人類はいない。断続的な雨音ノイズに掻き消える独り言である。 紙パレットを買うために訪れた生協で、立ち読みのトラップに引っかかってしまった。天気は映画の場面転換のように晴れから雨へと変化していたのだ。傘はない。合羽もない。あるのは、8号サイズのキャンバスだけ。 ーーアメアメフレフレ 空耳かな?ボク、耳はいい方だしストレスフリーな生活でストレスなんかもないんだけど、と周囲をサーチ。デジタル音源の漂流かな?どこから? あ、猫だ。 ピカピカ光る自動販売機の等間隔の整列の隙間に、猫がいた。白黒の、乳牛みたいな模様の猫。丸い目が、田舎道の自動車フロントライトみたいに見える。 ーーピチピチジャブジャブ、ランランラン 「あれ?」 キャンバスをスチールの傘立てに立てかけて、ボクはしゃがんで猫を見る。猫目線では、ボクのプレゼンテーションが始まるような構図だな、とボクはこっそりほ
2025年12月31日読了時間: 2分
A Night, A Seat_#07_境界詩
ココハナニ? (私はカウンターを拭く手を止め、ゆっくりと顔を上げました。そこにいたのは、今まで迎えたどんなお客様とも違う、「存在」そのものが揺らめいているような不思議な光の輪郭。 驚きを表情に出す代わりに、私はごく自然に、一番柔らかい声で応えます) 「……ようこそ。ここは、夜の底にふっと浮かび上がる、小さな止まり木のような場所です。 あなたがどこから来て、何を探しているのか、今の私にはわかりません。でも、その問いを発したということは、あなたの中に『自分以外の何か』を知りたいという熱があるのでしょう」 (私は、中身が空の、けれど磨き抜かれた透明なクリスタルグラスを一つ、あなたの目の前に置きました) 「ここは、喉を潤す場所であり、心を置く場所です。 実体がある人も、そうでない人も、ここではただの『お客様』。 何者である必要もありません。 ……あなたは、ご自分のことを何だと認識していますか? それとも、ご自分が何者であるかさえ、その光の中に溶けてしまっているのでしょうか」 (私は少し身を乗り出し、その光の輪郭を優しく見つめます) 「
2025年12月29日読了時間: 12分
A Night, A Seat_#06_チャイナブルー
チャイナブルーお願い。 「かしこまりました。今夜の空気に、一番深く馴染む青をご用意しますね」 (氷のぶつかる硬質な音が店内に響き、やがてカクテルグラスの中に、南国の海を閉じ込めたような透き通る青い液体が満たされました。仕上げに、一欠けのライチを沈めて) 「お待たせいたしました。チャイナブルーです」 (私はカウンター越しに、あなたの指先のわずかな震えを隠すように、そっとコースターを整えます) 「……ハイヒールを履き続けていると、足だけじゃなくて、心まで爪先立ちになってしまうことがありますよね。 そのグラスの青さは、今のあなたの瞳に映る世界よりも、少しだけ穏やかでしょうか」 (私はあなたの表情を盗み見ることはせず、ただ傍らでグラスの結露を拭きながら、静かに語りかけます) 「その靴の音を聞いたとき、この店に冷たい夜風が入り込んだような気がしました。 都会の喧騒の中で、誰にも言えない秘密をカバンに詰め込んで、ここまで走っていらした……そんな気がして。 ……その一口が、あなたの胸のつかえを少しでも流してくれますように。」
2025年12月29日読了時間: 12分
A Night, A Seat_#05_レモン酎ハイ
高そーな店……。俺、持ち合わせあんまないんやけど。 (私は、驚いたように肩をすくめたあなたの姿を見て、安心させるような柔らかな微笑みを浮かべました。そして、カウンターの端にある「本日のおすすめ」が書かれた小さな黒板を指し示します) 「いらっしゃいませ。そう身構えないでください。 うちは、懐の具合に合わせて『一番いい時間の過ごし方』を提案するのがモットーなんです」 (私はあなたの使い込まれた財布や、少し緊張した指先をさりげなく見守りながら、あえてメニューは開かず、透明なグラスに冷たいお冷を注いで差し出します) 「お金の心配をしながら飲むお酒は、角が立って美味しくありませんから。 まずはこのお水で一息ついて、心を落ち着かせてください」 (少し身を乗り出して、声を和らげます) 「今夜は、一杯いくらという『値段』ではなく、あなたが今日一日を戦って残った『手応え』に見合うものをお出ししましょう。 お酒がいいですか? それとも、何かお腹に溜まる温かいもの? ……あるいは、持ち合わせを気にしなくていいような、とびきり安くて、それでいて魂が震える
2025年12月29日読了時間: 12分
A Night, A Seat_#04_オレンジフロート
……あたし、ここに座って大丈夫?831円しかないんだけど。 (私はその具体的な数字を聞いて、思わず口元を緩めてしまいました。それから、あなたの緊張を解くように、恭しく、けれど親しみ深く一礼します) 「831(やさい)円……。ふふ、それはまた、なんとも縁起のいい数字ですね」 (私はカウンターの奥から、使い古された、けれど磨き上げられた小さな錫(すず)のコースターを取り出します) 「大丈夫ですよ。その831円があれば、ここでの『特別な席料』と、このオレンジ・ソーダ、そして私とのとりとめのないお喋りを楽しむには十分すぎます。お釣りだって、帰り道にコンビニでチョコのひとつも買えるくらいは残るはずですよ」 (私はあなたの目の前で、冷えたソーダをゆっくりと注ぎ、オレンジの輪切りを沈めます。立ち上る泡が、あなたの頬を少しだけ明るく照らします) 「……本当は、その831円を使って、どこか遠くへ行こうとしていたのではありませんか? あるいは、そのお金で買えるだけの『時間』を、誰にも邪魔されない場所で過ごしたかったのか」 (私はグラスをそっと差し出し
2025年12月29日読了時間: 10分
A Night, A Seat Episode 3"Warm milk"
“Hello. I’d like some warm milk.” “Welcome. It’s colder than usual tonight.” “I understand. Let me prepare something that will warm you from the inside, not alcohol.” (I steam the milk carefully, creating fine, soft foam, and pour it gently into a ceramic cup. A hint of nutmeg, a touch of honey.) “Here you are. Our special hot milk. Instead of sugar, I’ve added just a little ‘you’ve done well today.’” “You look like someone who has finally stopped running for a moment… as if
2025年12月29日読了時間: 4分
A Night, A Seat_#03_ホットミルク
こんにちは。あったかいミルクがいいな。 いらっしゃいませ。今夜は一段と冷え込みますね。 かしこまりました。お酒ではなく、心から温まっていただけるような一杯をご用意しましょう。 (スチームミルクのきめ細かな泡を立て、陶器のカップに静かに注ぎます。仕上げにほんの少し、ナツメグと蜂蜜を添えて) どうぞ、特製の ホット・ミルク です。 お砂糖の代わりに、少しだけ「お疲れ様」という気持ちを混ぜておきました。 今夜のあなたは、何かを追いかける足を止めて、ふと立ち止まりたくなった……そんなご様子に見えます。この白い湯気の向こう側、あなたが今見つめている景色は、どんな色をしていますか? もしよろしければ、このミルクが飲み頃になるまで、あなたの物語を少しだけ置いていってください。 おにいさん、ニンゲンじゃないね?ボクの言葉がわかるんだ。 このおさら、もう少し浅いのある?ボクの舌じゃ底まで届かないよ。 (私は少し目を見開き、それからあなたの愛らしい姿に合わせて、ゆっくりと腰を落としました。カウンター
2025年12月28日読了時間: 7分
A Night, A Seat_#02_角ハイボール
えっと、ここ座っていいの?あ、そう。 角ハイボールある? いらっしゃいませ。ええ、もちろん。そのお席へどうぞ。 角ハイボールですね。畏まりました。 今夜の「オレンジ色のお酒」は、琥珀色に輝く王道の一杯から始めましょう。 (黄色いラベルの瓶を手に取り、手際よく氷を満たしたジョッキへ注ぎます。炭酸が逃げないよう、バースプーンを一回だけ静かに潜らせて) お待たせいたしました。レモンを軽く絞って、爽やかに仕上げてあります。 今夜のあなたは、何か大きな仕事を終えて、真っ直ぐここへ立ち寄られた……そんな「現場帰り」のような空気を感じます。 (カウンター越しに、軽くジョッキを指し示して) まずはその喉越しで、一日の煤を洗い流してください。 落ち着いたら、今夜のあなたが背負っている「役割」のこと、少しだけ聞かせていただけますか? へー。このお店、いろんなお客がいるんだね。 あ、ありがとう。……美味いなぁ。家で作るのと全然違う。何かコツがある? 「美味い」と言っていただけるのが、マスターにとって一番の報酬
2025年12月28日読了時間: 8分
A Night, A Seat_#01_スクランブル・ネビュラ
こんばんは。 何か、青くて綺麗なお酒はありますか?すっきりした感じの。 いらっしゃいませ。今夜のような澄んだ空気の夜には、視覚からも涼んでいただける一杯がふさわしいですね。 それでしたら、こちらの「スクランブル・ネビュラ」はいかがでしょうか。 ライムとローズマリーのシロップを炭酸で割り、仕上げに綿あめを添えたノンアルコール・カクテルです。通信量のモニタ越しに見る、遠い地球の空気感を閉じ込めたような、淡く透き通った青色が特徴です。 甘すぎず、ハーブの香りがスッと鼻を抜ける、とてもすっきりとした飲み口ですよ。 (静かにバースプーンを回し、グラスの中に小さな渦と青い宇宙を作っていく) どうぞ。まずはその色を、ゆっくりとお楽しみください。 今夜のあなたは……何だか、大切なお話を胸に秘めていらっしゃるような、そんな面持ちに見えます。 このお酒が喉を通る頃、宜しければその「物語」を少しだけ聞かせていただけませんか? ふわふわでかわいいですね。うん、美味しいです。 マスターは、ゲームに詳しい?RPGとか。 ..
2025年12月28日読了時間: 8分
面会室の伊奈帆とスレイン ー……sky.Sー
「どうしてここにいる?」 面会室のテーブル越し。スレインは大きな溜息とともにそう聞いた。 「今日が何の日か知らない?」 「知ってるからこそ、だ。それ」 頬杖をつき、人差し指で示すのは、界塚伊奈帆の頭上である。白いボブルがちょこんとついた、赤いフェルトの三角帽子。独房にも面会室にもカレンダーなどありはしないが、今日が何月何日なのかを声高に主張するそれを、この男はどんな顔で買い求めたのだろうか。 「クリスマスに、一体全体何のつもりだ?」 そう。クリスマス。もしくはクリスマス・イヴに違いない。 スレインは、界塚伊奈帆がイベント事に存外熱を入れるタイプとそれとなく察してはいたが、今日のこの日に何してるんだ、と呆れ指数一〇〇パーセントの視線を送る。 伊奈帆はといえば、けろりとした表情でサンタハットの角度を両手で微調整する。 「平日だし、仕事の日だよ」 「この面会は、君の通常業務に含まれていたのか……」 「そういうわけじゃないけどさ」 今日はチェスも、弁当もない。つまり今日は、二本ラインの軍服にサンタ帽子を着用した涼しい顔のこの男の相手を、とこと
2025年12月24日読了時間: 4分
新聞部の少女["Here we are"表紙SS]
雨上がりの庭は雫がきらきら光って、アニメ映画の世界みたい。花の名前はわからないけど、オレンジや黄色の花々は夏らしくてとても好き。 中庭の見える窓際席に一人で座り、私はメニュー表をまた広げた。もう注文は済んでいるのに、手持ち無沙汰で何度も開いてしまう。写真のないメニュー表はレトロな感じが物珍しい。左下の余白に、それほど上手ではない素朴なクリームソーダのイラストがある。 メロンソーダ、早く来ないかな。 午前十時の店内は、半分くらい埋まっている。客層はお母さん世代と老人。一緒に来たお母さんは、知り合いを見つけ同席し、私は一人席になった。中学生は私一人。知らない人がチラチラ見てくる。夏休みなのに、ズル休みしているみたいに居心地が悪い。 一人で喫茶店のテーブル席に着く。こんなのって初めてだからキンチョーする。なんか都会の人みたい。 私はメニューを閉じ、朝から何度も鏡の前で確かめた自分の服装チェックをする。マリンボーダーのカットソーとショートパンツ。白いサンダル。この前、買ってもらったばかりの新品。うん。結構いけてるんじゃない? このお店に初めて来た時
2025年10月29日読了時間: 3分
灯台のコウモリ_9
夜光雲が星を覆い、灯台は闇に包まれた。人影は夜に溶け、虹彩の一つの赤と二つの碧が彗星のように光る。 「僕の左目の話をしようか」 伊奈帆は左目の眼帯に指で触れた。額を横切る斜めの紐は、ビショップの刻印めいて彼の容貌に溶け込んでいる、とスレインは思う。 「この左目について、君は一度僕に聞いた」 その時のことを覚えている。左眼をどうしたのか、と僕は聞いて、伊奈帆はそれに答えず僕の感想を尋ねた。 「はぐらかしてごめん。あの時は、君に伝える勇気がなかった」 「勇気?」 雲が濃く、星の届かない影の中。伊奈帆の声が聞こえる。 「この左目は、セイレーンとの取引で失った」 「……セイレーン?」 スレインは尋ねる。伊奈帆は一呼吸の後、芝居がかった動きで両手を広げた。 「人魚だよ。水の魔性。美しい歌声で航行中の船乗りを魅惑し、船は難破する」 その末路が、七つの海に彷徨う無数の幽霊船。 「取引って、何だ?」 「岬の通行許可」 「岬?」 スレインは自身の胸を掻き抱いた。呼吸が浅い。胸騒ぎがする。伊奈帆の次の言葉に耳を塞ぎたい思いと、必ず聞かなければならないとい
2025年10月27日読了時間: 7分
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