バブル・パンセとブラックコーヒー[note応募作品]
- μ

- 2025年12月31日
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「あらあら。今日はエラ呼吸の日ね」
朝。レースカーテンを透過する光の中に、白銀のバブルがコポコポと螺旋を描いて立ち昇る。
リビングを進む足取りも、ふわふわふわり。着地までのタイムラグ、踊る髪が波をはらむ。
「おはよう。いつからいるの?」
南国色の、小さな魚たちに問いかける。私の足元を回遊し、観葉植物の狭間へ。
「うーんっ!夏の朝には、こういう趣向もいいわねぇ」
窓辺で大きく背伸びをし、私はキッチンへと向かう。ほよんふよんと床を蹴り、パステルカラーのガウンの裾が大きく広がる。
コーヒーメーカーに粉と水をセット。光射す海底に、目覚めの香りがふわりと広がる。
「さてと。始めますか」
身支度を終え、沈没船のブリッジへ。デスクトップはレーダーと羅針盤。舵輪はキーボード。ログブックはアクセサリ・メモ。
マグカップのコーヒーを一口。うん。美味しい。
『センチョー!オモカジイッパイ!』
『イッパイイッパイ!』
「え?何かあった?……ありゃーしまった。今日か」
船員たちのSOSでメールを確認。フラグ付きにしてたのに、すっかり忘れた〆切一つ。
「うーん。ログは真っ白。難航しております」
『ネタナシ?』
『ハクシ』
エーッ!という甲高い悲鳴も、海底では時間差。
「ま、これを飲んだらアイデアの一つや二つ、三つや四つ、ぽんぽんぽんっと浮かびますよ。コーヒーって、そういう飲み物なんだから」
数秒感。瞼の裏に星の煌めきを予感。視界は夜。波はない。満天の星を水面に、私は甲板で手を伸ばす。
アンタレス。
シリウス。
オリオン。
ペテルギウス。
あ、北十字。
「よし。掴んだ」
瞼を開く。世界の姿がブラインドみたいに刷新。東京都心の自宅のデスク。引っ越したばかりで、真新しい家具が朝の光を無機質に反射。香りだけを残したコーヒーカップを傍に寄せ、私はひとつ腕まくりをして、キーボードを爆速で打つ。




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