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新聞部の少女["Here we are"表紙SS]

  • 執筆者の写真: μ
    μ
  • 2025年10月29日
  • 読了時間: 3分

 雨上がりの庭は雫がきらきら光って、アニメ映画の世界みたい。花の名前はわからないけど、オレンジや黄色の花々は夏らしくてとても好き。

 中庭の見える窓際席に一人で座り、私はメニュー表をまた広げた。もう注文は済んでいるのに、手持ち無沙汰で何度も開いてしまう。写真のないメニュー表はレトロな感じが物珍しい。左下の余白に、それほど上手ではない素朴なクリームソーダのイラストがある。

 メロンソーダ、早く来ないかな。

 午前十時の店内は、半分くらい埋まっている。客層はお母さん世代と老人。一緒に来たお母さんは、知り合いを見つけ同席し、私は一人席になった。中学生は私一人。知らない人がチラチラ見てくる。夏休みなのに、ズル休みしているみたいに居心地が悪い。

一人で喫茶店のテーブル席に着く。こんなのって初めてだからキンチョーする。なんか都会の人みたい。

私はメニューを閉じ、朝から何度も鏡の前で確かめた自分の服装チェックをする。マリンボーダーのカットソーとショートパンツ。白いサンダル。この前、買ってもらったばかりの新品。うん。結構いけてるんじゃない? このお店に初めて来た時は、クタクタのTシャツと、ダメージ加工でも何でもない穴の空いたジーパンにビーサンだったもんね。あれは恥ずかしかった。リベンジ成功。

 だってカフェなんて洒落たもの、生まれて初めてだったんだもん。

 喫茶海猫。私の街にオープンした喫茶店。市街地からは結構遠くて、自転車なんかじゃ行けないところ。大人は車があるからいいなあ。あーあ、早く大人になりたい。

「お待たせいたしました」

 ドキン、と心臓が跳ねる。体に電流が走ったみたいに背筋が伸びた。学校でもしないような膝に手を置くいい姿勢で、私は顔をパッと向ける。

 店員のアメさんがにっこり笑った。金髪猫毛の先っぽが、外の光を透かしてキレイ。

「庭を眺めてらしたんですか? ありがとうございます。僕が手入れしているんですよ」

 彼の目が庭に向いた。私はドギマギしながら、必死に言葉を探す。

「えっ、あの、はい……! オレンジ色が綺麗だなって」

「オレンジ色? ……ああ、本当ですね」

 アメさんは微笑んで、トレイのドリンクをテーブルに置く。音が全くしないのがすごい。

 泡が弾けるエメラルドグリーンのソーダ。トッピングはまん丸のバニラアイス、真っ赤なチェリー。ストローとスプーンを紙ナプキンの上に置いた。男の人の手ってあんまり近くで見たことないかも。肌は白くて、大きさの割に細くて関節が出っ張ってる。爪は深爪したのかなって心配になるくらい短い。指先の皮膚は乾燥して少し荒れてけれど、私は綺麗な手だと思う。

「お先にメロンソーダです。パンケーキは、もう少々お待ちくださいね」

 ぺこり、とわかりやすい会釈をしてアメさんは背中を向けて去っていった。後ろ姿が外国映画の俳優さんみたい。

はあー、かっこいいなぁ。

「ねえ、アメさんこっち」

「はい。ご注文ですか?」

「コーヒーのおかわりいただける?」

 お母さんたちのテーブルに捕まって、少し立ち話。お母さんたら声が大きくて恥ずかしい。ここまで聞こえてくるんだけど……。

「ねえ、アメさんご結婚は?」

「いえ、今は」

「誰か紹介しましょうか?」

「えっと、その、間に合ってますので……」

「アメさん。これ運んで」

 男の人の声が割って入った。はっと顔を向けるけど、カウンターは壁に遮られて見えない。

「あ、なおくん。はい。ご注文は以上ですね。では、僕はこれで」

 タタッ、とアメさんがカウンターに向かった。トレイに大盛りのパンケーキを乗せてやってくるのを、私は庭に顔を向けて待つことにする。

 
 
 

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