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Jeweletta Stories

Jewelettas — jewel-born artificial beings — sing, cry, and quietly live beside humanity.

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-Leni and Mory-

Title
Description
20_夏への扉#01

「それは、レニ殿がラジエル様を救ってくださった、とマリアンヌ様とラファエル様がご理解されたからでございます」


ラジエルの家族を殺した私を、本当に雇っていいのか。


雇用についての最終調整でホワイト家に来訪した時、レニはジャンに聞いた。その答え。

「どういうことですか?」

テーブル上に展開された雇用資料のウィンドウ越しに、レニはジャンの顔を見る。彼は両手を机の上で綺麗に重ねた。

「アサシンがレニ殿でなかったならば、ラジエル様はご両親と同じ結末を辿ったと考えられたからでございますね」

それには私も同意します、とジャンは加えた。


クリストファ一家抹殺依頼。もう、1年近く前のこと。


レニは単独で屋敷に忍び込んだ。

カーの依頼書にあったターゲットは3人。

最後の一人を探し、エマージェンシーの鳴り響く屋敷を駆け回った。


「相手は子どもだよ」

「それでも、です」


屋敷のどん詰まり。渡り廊下の先の塔。駆け上がった扉の先にいたのは発光する水槽の前に座り込んだ子どもだった。


「見逃してくれた。助けてくれた」

ジャンの声。レニは口をへの字に曲げる。

「あの一件でのレニ殿の振る舞いを、我々はそう受け止めています」

そんなに綺麗なことじゃない。

そんなに単純なことじゃない。

どんなストーリーで塗り潰しても、レニにとっての事実は一つ。

仕事で人を殺した。

何の感情も介入させず、子どもから親を奪った。

救ったなんてとんでもない。成り行き。それだけのこと。

それに。レニは後で、少しだけ後悔したのだ。


「わからないわ」


殺したほうが良かったのかもしれないと。

それが誠意だったのでは、と。


「そういうところが、理由でしょうな」


しかしその後悔は、ジャンの存在を知り霧散した。この人がいれば大丈夫。レニは今になって、あの子どもの未来を奪わなくて良かった、と心から思った。


レニは、雇用契約書のサイン欄に記名した。ジャンが光学パネルを操作して、ウォッチに内容の写しが届く。


時給3リベカ。

週3日。

勤務時間は10:00〜19:00。

休憩1時間を含む9時間勤務。

昼食の賄いつき。

ボディーガード業務が発生した場合は別途手当があるそうだ。この上ない好条件。


「ジャン様は、ラジィがかわいい?」

「もちろんです」

「私をそこまで信用できる?」

「Of course. Yes.」

「どうして?」

「殺しはやめた、とおっしゃった。殺しをやめた殺し屋ほど、匙加減が信頼できるものはおりません」

経験則といたしましてな。ジャンはニヤリと悪戯っぽく口角を上げた。

「ラジエル様もすっかり懐いて。じいやは少しばかり寂しいですぞ」

19_ あるいは水でいっぱいの海#05

“Mory, I’m home.”


Leni goes to the fridge.

She takes a bottle of water.

The flavor is a mulberry.


“I got a new job.”


Leni takes a seat.

The pipe of the chair creaks.

Mory smiles.

The morion eyes mirror the night.


“I’ll work as an instructor.

Do you think I can do it?”


Leni smiles shyly.


“Like Murasaki.”


Mory stands.


“Refill.”


Leni says.


The copper lips open.

The hands are on the chest.


“It’s Furusato. The song of Japanese country.”


Crystal waters, mighty mountains...

19_ あるいは水でいっぱいの海#03

時刻は14:30。リミットの1時間半前に、レニは屋敷の門のインターホンをビーッと押した。

門は内側に開き、通路のライトががポンポンポンッ、っと発光する。3匹の電気猫を入れたケースを腕を変えて持ち直し、レニは玄関へ歩く。


グリーンの庭園があり、噴水がある。そこかしこに電気蝶が舞っていて、何かの童話に迷い込んだ錯覚になる。

2層ウエスト居住区Aホワイト宅。玄関扉がオートでオープン。初老の黒服が一礼した。

「お早いですな。ありがとうございます」

「3回目ですから。電気猫の行動パターンは単純です」

ケースを受け渡し、いつも通り勤怠のやり取りをしようとウォッチの操作をしようとすると、黒服がやんわりと止めた。

「ほっほっほ。お時間はございますか?よろしければ紅茶でも」

仕事が早く片付いたから、時間はもちろんある。警戒の必要を数秒検討。まあ大丈夫だろう、と結論。

「お言葉に甘えて」

本物の紅茶が飲めるかも、という誘惑に負けた。地球のお茶で舌が肥えてしまったようだ。レニは良質なフレーバーの液体に目がないのだ。



本物の木でできた壁。本物の紙に描かれたイラスト。アース素材の糸で織られた絨毯。

そんな廊下を進んだ先の扉の中。レニは息を止めて視界の情報を整理した。

大きなガラス窓。レースカーテン越しのサンライトが照らし出す調度品の数々。テーブルセット。ソファ。チェスト。そして。

「ジュエレッタが、6体?すごい」

ほっほっほ、と初老のバトラーは愉快そうに笑った。レニは彼に顔を向ける。

「ここは、何の部屋ですか?」

「サロンでございます」

ご感想をお聞かせ願えますかな?と言われ、レニはもう一度ぐるりと室内を見回した。

クリーム色とブラウンを基調とした一室に、宝石女がそれぞれの場所を与えられ、座っている。時々重心や姿勢を変え、視線は自然に動いている。近づくとフォーカスが合い、ささやかなリアクション。

「天国みたいに綺麗だけど、もったいないかな」

「もったいない、とは?」

「リビングルームや自室に置くものなんじゃないかしら、と思うので」

黒服は静かに微笑み、レニに席をすすめた。しばしお待ちを、と彼は退室。

スイカみたいな髪をしたジュエレッタが同席している。レニは、机に置かれた製品紹介を手に取る。少しざらつく、本物の紙だ。



「アールグレイでございます」

目の前に置かれた陶器のティーセット。レニはうっとりと目を瞑り、湯気の匂いを吸い込んだ。多層的で複雑な匂いは本物の紅茶に間違いない。セール品のウォーターとは違うな、という感想を持つ。ケミカル・シーズニングのチープな香りも嫌いじゃないが、本物は格別。

「武術を嗜んでおられますな?」

黒服が聞いた。

「はい」

「差し支えなければ、お聞かせいただけますか?」

「アイキドウとカラテ」

数度の邂逅で見た彼の身のこなしは、何らかの達人に違いない。アジア圏がルーツなら、レニの武術に近いかも。カンフーなんかがしっくりくる。

彼は4つある座席のうち、エルバイト・ガールの隣、レニの向かいに腰を下ろした。

「お仕事は順調ですかな?」

「?」

紅茶を一口。濃厚。砂糖が入っているのか程よく甘い。このシュガーも本物だろう。

「もし良ければ、継続的な雇用をお願いできればと」

もう一口。熱めの紅茶をごくんと飲み込む。

「これはスカウト?」

「そんなところでございます」

レニは目を伏せ考える。ベターからワーストまでのケースを数通り想定。カーの声が浮かび、思い出されるジェンのこと。


『腹ペコも、喉が渇くのもヤダけどさ』

それはそう。絶対に。


『施しで生きるのはもしんどいんだってわかった』

これは、施しなのだろうか。


『善意のフルコースでブタになるのよ』

ええと、ブタって、結構かわいい。


仕事だからやってるだけ。

仕事じゃないならやってない。


ーー突入に7発。それだけ。

ーー私の命はそれだけだ。


そんな仕事じゃ、もう笑えない。


「私、殺しはやめたの」

「賢明ですな」


理論武装がなければできない仕事は、もうしない。そう決めた。


サロンに差し込むライト影は地球に似ている。

美しい調度品は、それぞれのオプションに影のヴェールを纏い、静かに息づいている。

紅茶の最後の一口。少し冷めて、苦味が強い。しかし、香りは柔らかい。


「ご安心くだされ。猫探しよりずっと割りのいい、しかも健全な仕事です」


優しい声。黒服はグレーの瞳に親しげな色を宿している。白い電気猫の瞳の色も灰色だった。

「ボディーガード?」

「教師です」

「何の?」

「体術の」

「誰の?」

9歳の子どもです、と彼は答えた。

「3ヶ月ほど前に、両脚をプロステティックに手術しました」

ホワイト家に子どもいたっけ?猫探しにそこまでの情報は不必要と、カーの説明を聞き流した。

おぼっちゃま、ご子息、とは言わなかった。子ども、という言い方には距離がある。だとすれば。

「貴方の仕事では?」

「いかにも」

「貴方のアシスタントをするってこと?」

「いえ。私が不在の際の代理を。話し相手兼、でございます」

なるほど。事情は大体把握した。

レニは、テーブルの上で両手の指を組む。

「この話は、私が女だから?」

「3割ほどは」

「残りは?」

「身体能力と判断力、任務完遂能力です」

即答の連鎖は小気味良い。私がブタになることは無さそうだ。

「オーケー。条件次第で承ります」

それでは、と彼はウォッチを起動させた。雇用契約書がポップアップ。

「申し遅れました。私は執事長のジャン・レイ。お名前をお聞かせいただけますかな?」

18_さよならデイジー#04

「ただいま。モリー」

レニがアパートの扉を開くと、モリーは顔を向けて微笑んだ。レニはモリーに笑いかけ、ジャケットを机に置いてブーツを脱いだ。裸足で踏んだ床は冷たい。パイプ椅子がギイ、と鳴った。

「デイジーはいないんだって」

レニは、組んだ脚の膝に肘を置いて頬杖をつく。窓の外はナイト・モード。セントラルに続くネオン。窓から見える風景で、この夜景が1番好きだ。


事務所でボトルコーヒー片手にサインだけの始末書をピッとアピアーして、カーはレニに静かに語った。


デイジー・ベルは偶像だ。

第3層居住区Z

ムーンバレーの最下層。同じ6区でも、レニは行ったことすらない。月面都市の底の底。

コードがない。ウォッチがない。

KAGUYAに存在しない人間やコンピュータが最後に行き着く、吹き溜まりのような場所。


「バアチャンは、そこで生まれたんだっけ」


ムラサキ。最近何かと思い出す、レニやナオミ姉弟、ジェンのバアチャン。コーラが嫌いで、大福を肴に麦焼酎をかっくらっていた盲の武術家。レニは彼女に生きることを教えてもらった。


食べること。

働くこと。

仕事終わりに一杯の水を飲むこと。

道具を片付けて眠ること。


『鳥になれ』


それは明日を飛ぶために。


「デイジーは、歌姫だったって」


デイジー・ベルは歌を歌った。

デイジー・ベルは愛された。

デイジー・ベルは居場所となった。


デイジーは人間だった。


人々は受け入れなかった。


彼女の変化を。

彼女の老いを。

彼女の死を。


「プロテスティックが彼女を偶像にした」


初めは脚。

次は腕。

髪。

歯。

トルソー。

そして喉。


「100年経って、第2層からジュエレッタが贈られた」


最盛期のデイジー・ベルと瓜二つ。青空の髪と夕暮れの瞳を宝石にしたセレスタイン・ガール。


全身プロステティックのデイジー・ベル。

デイジー・ベルを模したジュエレッタ。


わからない。


「依頼主は、どちらを殺すつもりだったの?」

モリーは静かに目を伏せた。


わからない。


どうして、消失を願ってしまうのか。


「なんか、今日は疲れたわ」

カーは、なんだか変な顔をしていた。仕事を失敗し、バツが悪くてあまりちゃんと見てなかったけど、もしかしたら心配してくれてたのかも。

レニは立ち上がり、冷蔵庫へ。最後のプレーン・ウォーターを取り出す。キャップを開けてごくごく飲む。無味無臭が沁みる夜。

「仕事変えるか」

今の自分には、猫探しや配達員が性に合う。報酬はがくっと減るけど、1人だったらなんとか暮らしていけるだろう。明日、計算してみよう。


“Mory. Refill.”


Mory stands to bounce.

The copper arms layer on the chest.

The rips are like a flower.


“It’s for Daisy.Bicycle Built for Two.”


デイジー、デイジー。答えておくれーー

18_さよならデイジー#03

しくじった。


ジジ、ジーー


「レニ、状況を報告しろ」

「撃った。当たった。でも、動いた」

「どこを撃った」

「額と心臓」

「血は出たか」

「赤かった」

「オーケー。把握した。事務所に戻れ」

「了解」


ジジ、ザー……


カーとのテレフォンを終え、レニは回収ヘリの中で考える。


なぜ死なない?


ターゲットはデイジー・ベル。発色のいい青髪とトワイライトの大きな双眸。フォトと全く同じ顔。同じスタイル。光学迷彩ではなかった。生身の肉体。サーモグラフィーも人間であることを示していた。


なぜ、額を撃たれて動けるの?

なぜ、心臓を撃ち抜かれて笑えるの?


パララララ、とヘリのプロペラ音が聞こえ出す。パイロットの後頭部を眺めつつ、ようやく現実に追いついた。


タダ働きで、事務所に着いたら小一時間のカーの小言。ワーキング・ペナルティのオマケ付き。しばらく節約生活しなくちゃ。当分、プレーン・ウォーターはやめとこう。匂いの強い季節外れの水が安い。


「80モニカが水の泡か」


惜しくはない。それが1番不思議だった。

レニはキャップを深く被り、眠ったふりでデイジーのことを考える。

18_さよならデイジー#02

Product Name: Celestine Girl


Flavor: Rain

Polishing form: Sculpture

Emotion Content: 30%

Raw Ingredients: Mica and Celestine

Voice tone: Wet

Category: Float

Serving Suggestion:


Room Temperature in the underground night



“Refill.”


Rain scent.

Rain sigh.

And rain voice.


The eyes are azure.

The toes float above the puddle.

The hands reach for something.


“With me.”


Petrichor.

18_さよならデイジー#01

Pipi.


“Hi.”

“Leni. I request you a job.”

“Okey. What’s kind of work?”

“It’s a hitman.”

—I’ll let you know the details later.


Pi.


「ヒットマンは7ヶ月ぶり」

レニはウォッチを操作し、カーから届いたメールを表示する。ターゲットは1人。


名前 デイジー・ベル

年齢  34歳

誕生日 4月11日

身長 175cm

体重 52kg

足のサイズ 25cm

髪色 ブルー

瞳  ピンクパープル

好物 スパークリング・ワイン

苦手 水


支給武器はガラスを通過する光線銃。ケーブルブリッジのタワーから、移動中のエアカーを狙う遠距離狙撃。報酬は80モニカ。


『ヤバイ仕事だよねー』


キャシーの言葉がふと浮かぶ。あの時キャシーが引き受けていた180モニカの仕事に比べれば、なんてことはない。作戦内容をイメージ。……うん、しくじらなければ、100パーセント無傷で帰って来られる仕事。しかし。

「面倒くさい」

割のいい仕事だが、気が滅入る。理由はなんとなくわかる。

「私も、アイスクリーム屋始めようかな」

ジェンとラピスラズリの笑顔が浮かぶ。姉妹のように、母娘のように、または親友のように見えたツーショット。真冬の空に、マフラーを巻く常連客が訪れる。


ジェンはしなやかに逞しい。いつも真夏のような笑顔だが、2層の暮らしはこことは別の苦労があるだろう。

別に、3層の埃っぽくて雑然とした暮らしに不満があるわけではない。仕事があり、報酬があり、冷蔵庫があり、帰ったら冷えたウォーターがある。今ではモリーがいて、頼めば歌を歌ってくれる。地球にも行けた。

お腹を空かせることも、喉が渇くこともない。足りないものは何もない。それでも眩しい。いや、だからこそ、ジェンの笑顔が、目を細めるほどに眩しい。


この仕事で、笑える?


窓の外を眺めると、黒い煤が散っていた。どこかのダクトが外れたのか。

2層の雪は白かったな。

そこまで考え、首を振る。モリーを見ると、微笑んだままに首を揺らしてレニを見た。

「暮らしていくにはお金が必要」

レニは反重力ブーツに履き替え、防弾ジャケットに袖を通す。

「そういうわけよ。悪いわね、デイジー」

モリーに手を振り、扉を出る。古いドアの感触は重い。

13_A visit of Kaguya#05

「ただいま、モリー」


自室の扉を3日ぶりに開く。3年くらい留守にしていた感覚だけれど、窓辺の花は萎れてないし床に埃も溜まってない。壁際のモリーは、レニの声に顔を向けてちゃんと笑った。ブランケットも肩にちゃんと掛かってる。


レニはモリーのブランケットを外し、くるくる畳んで机に置いた。冷蔵庫からウォーターを取り出し、窓際のパイプ椅子に座ってぐびり。うん。美味しい。


「やっぱり家は落ち着くね」


モリーを眺めてそう呟く。黒水晶と銅で作られた、歌うオブジェ”モリオン・ガール”

チップ代わりに頂戴したが、その理由はうるさかったから。レニが弾薬補充のために呟いた”Refill.”に反応し、サイレンめいた歌声がフロア中に響き渡った。レニも動転してしまい、普段ならさっさと1人で逃げるところを、なぜだか担いで帰ってしまった。逃走経路が階段とエアカーで良かった。


「あんたがヒトに見えたんだろうな」


瞬きをしない黒い瞳は、レニの輪郭を鮮明に刻んでいる。


絶唱する宝石女。

それに、多分何かが重なった。


「バーチャンが言ってたんだ。トリになれ、って」


その真意はよくわからない。でも、地球で鳥を見て、なんとなく感じたことはある。


鳥は飛ぶんだ。風の中を。たとえ一羽で、雨が翼を濡らしても。絶海の上、月のない夜であっても。

それでも、鳥は飛ぶんだ。


"Mory, refill.”


Mory stands.

Copper arms open like the wings.


She smiles.


“To fly, for free. Leni.”


El Cóndor Pasa.

13_A visit of Kaguya#04

これが風の音。


山道をドライブしつつ、レニはうっとりと目を細める。

ニューハイブリッド・カーの運転モードはオート。サイドウィンドウはオープン。地球の景色へ目を向ける。


これが木。

あれが鳥。

あれが、空。


ビゼン。

ワカバ。

地球の人。


ウパラ。

アン。


月のオブジェ。


エンガワで佇むウパラとアン。

そこに、ムーンバレーのレニの部屋、壁際のモリーの横顔が重なる。


ただそこにいること。

それだけで、世界が少し綺麗になる。


地球のどこかで、月の道具がただ日々を過ごしていく。


何も起こらず。

何も奪われず。

何も損なわれず。


ただ、淡々と暮らす。人間と。朝日と夕陽と、夜更けの蛙の鳴き声に包まれて。


「地球って、最高」


知らない音がある。

知らない匂いがある。

知らない温度と感触がある。


髪が靡く。髪の間を通り抜ける青い大気。


これが風。風の温度と風の音。


“Breeze is nice!”


次は、ウミを見てみたい。

13_A visit of Kaguya#03

レニは朝日で目が覚めた。


本物の朝日はすごいなー、と大きく伸びをする。ショウジを開けると、庭の草木が輝いて見えた。簡易的な履き物があったので、それをひっかけ地面に降りる。土と草の感触がふかふか。しゃがんで見ると、葉や花びらを水滴が覆っていた。触ると冷たくさらさらしていて、指紋に染み入る感じがする。

私、地球にいるんだ。

ユカタの裾を少し払って、着替えのために部屋に戻る。朝食の時刻まで、あと10分。



「おはよう、おねえちゃん!」

「おはよう。ワカバ」

オザシキの襖を開けると、朝食の支度は整い、長机の向かい合った長辺のそれぞれに、ビゼン、ワカバが並んでいた。ウパラとアンは食卓には着かず、庭に面した木板の通路に美しく佇んでいる。ボディースーツで長身のウパラと、キモノ姿で小柄なアン。デザインの世界観はチグハグだけれど、エンガワの風景は絵画的に調和が取れて美しい。"Jeweletta"が、銀河系で最高の評価を受ける調度品たらしめるのはこういうところなのだろう。ハルモニアス。

レニはビゼンの向かい、ワカバの隣に腰を下ろす。そこにザブトンがあったから。

朝食メニューはパン、サラダ、フルーツ、エッグ、コーヒー、オレンジジュース、ミルク。昨晩のジャパニーズ・クィズィーンとは打って変わり、レニも馴染みの深いウエスタン・スタイルである。

「レニさん、よく眠れましたかな?」

いただきます、の合唱のあと、ビゼンはコーヒーを一口飲んで口を開いた。ビゼンのファッションはカジュアルな麻シャツとジーンズ。昨日のキモノ姿よりも8歳くらい若く見える。

「はい、ぐっすり。夜に何か音がしたけど、あれは?」

「ああ、蛙だ」

「カエル?」

「おねえちゃん、蛙見たことない?」

ワカバが微妙な顔でくし形オレンジの皮を剥いている。食事中だが、レニはビゼンに一言告げてウォッチを操作。「カエル」を検索。ホログラムで現れたのは月面都市で見たことのない緑のイキモノ。いや、何かのロゴにあったかな?

「古典ムービーに出てくるエイリアンみたい」

「あはは!」

ワカバが笑った。レニは画像を閉じて卵料理に手を伸ばす。ふわふわのスクランブル・エッグは味が濃厚。地球の食べ物はどれもとても美味しい。

「月には、動物はいないのかい?」

パンにイチゴジャムを塗りつつビゼンが聞く。レニは絶品エッグを嚥下。ミルクを手に取る。これも美味しい。

「ペットの電気猫は、時々捜索依頼があります」

「電気猫が逃げるの?AIだよね?」

「それがマーケティングなのよ、ワカバ」

「ほっほっほ。手間と無駄が富の証というわけですな」

「そういうことみたいです」

ウパラとアンは、並んで座りこちらを見ている。見ている、というより眺めている、という感じの姿勢と視線。

髪や肌の鉱物の照り返しが、畳に柔らかなプリズムを落としている。

「アンはこのお家で?」

「今のところは」

「今のところは?」

ビゼンは箸を置いた。コーヒー椀を両手で持つ。

「寄贈も考えています」

「どこへ?」

「国際地球博物館」

レニのパンを千切る手が止まる。ビゼンを見て、アンを見て、もう一度ビゼンを見た。

「アンを展示するの?」

「いや」

即答。ビゼンはコーヒーを啜る。レニはミルクをごくりと飲んだ。

「考古学の案内係に。順路を守ってきちんと歩く子だから」

レニは、月からここまでの道中を想起する。アンの運搬方法は自走。最初は不安だったが、月の石から空港までの移動ではっきりわかった。アンは歩く。主体的に。エモーション・コンテンツは0表示だが、思考が無いわけではないのだ。

「道具とは、人と関わり磨かれていく。琥珀を宿すアンバー・ガール。地球で生まれ、月で磨かれた。そしてまた地球へ。時と場所を越えるアンには、ナビゲーターが相応しいと思うのだよ」

国際地球博物館は、地球を訪れる観光客の定番スポットの一つ。異星の客をアンが導く。数千万年前の琥珀の右目に虫の化石を伴って。

「私も、アンのガイドで歩いてみたい」

レニはフルーツに手を伸ばす。ビワは素朴で柔らかい味がした。

「今度地球に来るときは、プライベートで連絡してください。ワカバも喜ぶ」

「ありがとう、ビゼン」

食後のグリーンティーをワカバがお盆で運んできた。美しい金継ぎのコーヒー茶碗は竹のような深緑。湯気の香りはムーンバレーの3倍濃い。

13_A visit of Kaguya#02

ビゼンの自宅を出て、山道を下っていく。少しして、レニの右隣のワカバが口を開いた。

「わたし、5年生。おねえちゃんは?」

「ゴネンセイって?」

ワカバは大きな黒目をまん丸くした。

「小学5年生。ツキには小学校ってないの?」

「ショウガッコウ?」

「えーっと……。スクール。ジュニアの」

「ああ。私の住んでたところには無かった」

「ふーん?ツキには、日本語喋れる人がたくさんいるの?」

「よく知らないけど、少ないんじゃない?公用語ではないし」

「うーん?」

ワカバはきょとんと首を傾げる。レニの口元が綻ぶ。

「月の学校が気になる?ワカバ」

「うん」

「みんな、ウォッチで文字と言葉を習うのよ。月の公用語はイングリッシュ、チャイニーズ、ムーニアン。ウォッチって、これ。ムーンバレーで生まれた子どもは、全員これを支給されるの」

レニは半身を捻り、左手首をワカバに見せる。黒いバンドのウォッチの表示時刻は地球日本の午後3時。

「腕時計?」

「見た目はね」

「何ができるの?」

「大体なんでも。スマートフォンって知ってる?」

「スマホ、わたし持ってるよ」

「それの上位互換」

へーっ、とワカバがレニの手を取りウォッチを見る。一見はワゴンセールのデジタル時計と変わらないが、テレフォン、メール、戸籍も口座も各種ライセンスやシステムアクセス権も全て集約されている。これがないと、月ではなんにもできないのだ。

ロック解除は遺伝子認証のため、他人のウォッチに価値はない。するものはいないが、ウォッチの窃取・強奪は最も重い流刑罪だ。

「日本語もウォッチ?」

「いえ。日本語は、バアチャンに習ったのよ。日本語と……ま、他にも色々」

「へーっ、おねえちゃんのおばあちゃんすごいね!」

「私だけのバアチャンじゃないけどね。みんなのバアチャンだった。もういないんだけどさ」

山の風が木々を揺らした。風にも音があるんだな、とレニは梢の青葉を見上げる。

「そっかあ。おばあちゃん、どんな人だったの?怖かった?」

バアチャンのこと。思い出すのも久しぶりだ。

「怖いなんてもんじゃないよ。イタズラが見つかった時なんか、えーと、オニ」

「あはは!どこのおばあちゃんもおんなじだ」

ワカバが笑う。レニも笑った。木漏れ日がちらちらと揺れる。

「そんで、すごく強いのよ。アイキドウの達人で、他にも色々なスキルを持っているの」

「かっこいー!おばあちゃんの名前は?」

「ムラサキ」

「紫の上ね」

「なに?それ」

「源氏物語」

「???」

瞬きの後、ワカバはうっとりと遠い目をした。

「アン、かわいいよね。お姫様みたい」

アンバー・ガール。着物姿の異星の客。琥珀の右の瞳には、数万年前の昆虫が閉じ込められている。

「そうね」

「さっきね。かぐや姫だ!と思ったの」

「カグヤ?」

「月から来たお姫様の名前。竹取物語」

ゲンジモノガタリ。タケトリモノガタリ。どちらも、レニの知らない物語だ。

「ムーンバレーのマザーコンピュータの名前もカグヤなのよ」

「へーっ!」

「科学者に、日本人がいたのね」

「おねえちゃん、ツキの話、もっと聞きたい」

「私は、さっきの物語が聞きたいわ」

「……あ、着いた。じゃあ、続きは温泉で」

「オンセン……」

レニはあっけに取られて視線をゆっくり上昇させる。大気がまだらに白い。あと、有機的な匂いがする。湿気が多い。

えっと、これは、何?あ、湯気か。

え?湯気?湯?こんなにたくさん?

「オンセンって、お風呂じゃないの?」

「お風呂だよ?」

「???」

「あ、ツキのお風呂は違うんだね。これが地球の……ううん、日本のお風呂だよ!でぃすいず、あ、じゃぱにーず・うぉーたーばす!」

「ウォーター?バスが?」

「いえす」

「まじで?」

「まじだ」

「No way!」

「あはは!おねえちゃん、びっくりしてるー」

「Oh…え、まさか、水の中に入るの?ニホンではそんなことが許されるの?」

「ハイ!」

「Incredible!」

「あはは!ほらほらおねえちゃん、早く入ろ!で、ツキの話をいっぱい聞かせて?」

お風呂上がりはコーヒー牛乳だよ、と言いつつ、ワカバはレニの背を押した。

13_A visit of Kaguya#01

「長旅お疲れさま。ようこそ地球へ」


ビゼンの自宅、庭の見えるゲストルームで、レニはセイザし会釈する。テーブルを挟んだ対面には、ビゼン、”オパール・ガール”ウパラ、さらに隣に10歳くらいの少女が1人。

タタミ。

カケジク。

シシオドシ。

キモノ姿のボス。

フィクション・ムービーの世界みたいな世界観である。ニホントウも家のどこかにあるかもしれない。

吸う空気はタタミの匂い。これ、ウォーター・フレーバー化しないかしら。清涼感があっていい。

「ビゼン、こちらがアンバー・ガール」

レニは右隣に座るジュエレッタを示す。

クロード・ロックのお仕着せであるキモノを纏った”アンバー・ガール”

琥珀色の髪と瞳は、キモノとの相乗効果で美しい調度品としてよく馴染む。

「ありがとう、月からここまで連れてくるのは大変だったでしょう?」

「1番大変だったのは渡航前の手続きです。空港からはナビゲートがあったし、アンはちゃんとついて来た」

ビゼンはにかっと笑った。彼の隣のウパラも笑みを深くする。

「そうかい。一泊だけでは気も休まらんが、ゆっくりくつろいでおくれ」

「もてなしを感謝します。ビゼン」

ビゼンが身体を傾け、ウパラの向こうの少女に視線を合わせた。

「ワカバ。レニさんと一緒に温泉へ行って差し上げなさい」

ワカバと呼ばれた少女はこく、と大きく頷く。肩のあたりで切り揃えた髪も、大きな瞳も澄んだ黒色。レニはモリーの瞳と髪の色を思い出す。

「はい。ねえ、わたしも温泉入っていいの?」

「もちろんだよ。お土産も買っておいで」

「やったー!」

ビゼンがくしゃっと笑った。少女は弾むように立ち上がり、机を回ってレニの前でぴょこんとお辞儀。レニもつられて頭を下げる。

「わたし、ワカバ。よろしくおねがいします」

「レニです。よろしくね」

「帰ってきたら夕餉にしよう。食べられないものはありますか?」

ビゼンはアン、レニ、ワカバをにこにこ微笑み眺めて言った。ユウゲ……文脈からするとディナーのことだろう、とレニは予想。

地球のディナー。ニホン。料理が思い浮かばない。

「多分、食べたことのない物が多いかと」

「それもそうだ。では、好みの味は?」

「フレッシュな味が好きです」

「魚は?」

「好きです」

「肉は?」

「大好き」

「わかりました。では、ごゆっくり。水が好きなお嬢さん」

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-Razi and Ame-

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19_ あるいは水でいっぱいの海#08
Product Name: Turquoise Girl Flavor: Cool and Clear Polishing form: Supple Emotion Content: 75% Raw Ingredients: Verdigris and Turquoise Voice tone: Soprano Category: Swim Serving Suggestion:
Room Temperature in the tropical night The luminary is floating in a cylinder aquarium. “Refill.” The Verdigris legs do flutter kick. The body glitters dimly. The turquoise hair fans out in the water. “Would you like to go out?” The bubble rises from patina lips.
19_ あるいは水でいっぱいの海#07
「ラジィ。私が怖くない?」 「なんで?」 庭園の噴水近くの空間。相半身に向かい合うレニに、ラジエルは問い返す。 「あなたの家族を殺したのは、私だよ」 レニの右のつま先が90度回転。 「知ってるよ」 レニの動きの真似をする。 「……家族を亡くした子どもはさ」 一つ一つの動作は簡単に見えるし静かだけれど、体の全部を使っているのがわかる。 「悲しんだり、怒らなきゃダメ?」 レニの左のつま先が動く。体の向きが反対になった。 「ラジィの自由だと思う」 僕も同じ方を向いた。サロンの窓がある。ガラスの向こうのジュエレッタたちは、回廊の絵画のように見える。 「火星には、海ってあるかな?」 裏三角の構えをキープ。 「私は聞いたことないわ」 呼吸を深く、とレニが言った。僕はゆっくり大きく息を吸う。足が地面に沈むような感じがした。 「僕は歩けるようになったし、走れるようになった」 「そうだね」 この脚になって最初の何週間かは、立つのに支えが必要だった。動くとすごく疲れちゃって、足じゃないところが毎日痛くて、時々こっそり泣いていた。 今では、走ることだって、こうして合気道の稽古もできる。 「ターコも、どこかで泳いでるかな」 火星に行ったターコ。ターコのことを思い出さない日は、少しだけ増えた。でも、思い出す時は前よりずっとしんみりする。 「火星なら、水槽かもね」 「そうだよね」 「月の海に水はないし」 「レニ、行ったことある?」 「1度だけ、仕事でね。雨の海に」 「どうだった?」 「干からびてたわ」 「だよね」 ラファエルとマリアンヌは「脚」をくれた。 ジャンが「歩く」と「走る」をくれた。 そしてレニは、「どこか」ってのを、僕に教えてくれている。ような気がする。 今日はこのへんにしよう、とレニが構えを解いた。向かい合って一礼。思っていたより疲れてたのか、僕は尻餅ついちゃった。 噴水の飛沫に虹が見えた。僕の視線に気づいたレニが、ピュウ、と小さく口笛を吹いた。かっこいい。ジャンがいない時にアメとこっそり練習しよう。 「地球なら、水でいっぱいの海があるわ」 「行ったことある?」 「そのうちね。見に行くつもり」 レニは僕の隣に座った。 「人魚はいるかな?」 「さあ」 見上げる横顔は、どこか遠くを見ているみたい。やがてレニはパチパチッと瞬きをした。 「水の海を泳ぐターコは、地球の人には人魚に見えるかもね」 青い海を泳ぐターコを想像。宝石の踵が水を蹴り、行き止まりのない海をどこまでも進んでいく。時々水面に顔を出して、人魚だ!ってみんなが言う。 「それって、最高かも?」 「間違いなく、最高よ」 ターコにいつか会えるなら、そういう話をしてみたい。ガラス越しでも全然いい。 「ターコと地球に行きたいな」 浮遊台車かローラースケートが必要ね、とハスキーな声でレニが言った。
19_ あるいは水でいっぱいの海#06
“Don’t move.” なーんてね、と、その人は人差し指を上に向けてパン、と言った。僕はなんていうか、そう、ビックリギョーテン。ぶわーって髪の毛が逆立つ感じでしばらく体が動かなかった。 で、その後。両腕が勝手にバンザイする。脚がジタバタ床を踏む。ジャンがほっほっほと笑う。 「金の鳥のおねえさんだ!」 僕は叫ぶ。あの時の人だ!ターコのガラスを、1発3モニカで壊すって言ってくれたコロシヤさん! 「なんのこと?久しぶり。ボウヤ」 覚えてくれてた!嬉しい。 コロシヤのお姉さんは、前に会った時より小さく、近くに見えた。それは僕が立っているから。青の濃いヴァイオレット。瞳の色まではっきりわかる。 「僕、ラジエル。ラジィって呼んで」 「よろしく。ラジィ様」 「僕のシショーなんだから、様はいらないよ」 「そう?」 お姉さんはジャンをチラッと見た。僕も見る。ジャンは大きく頷いた。 「じゃあ、ラジィ。よろしくね。私はレニ」 「よろしくお願いします。レニ!」 レニの右手を僕は握る。親指の付け根の皮膚が硬かった。
19_ あるいは水でいっぱいの海#04
「家庭教師の先生が来るんだって」 『ラジィは何を習う?』 「武術。カンフーではないみたい」 『ラジィは家庭教師が嫌なのか?』 アメが首を傾げる。 ジェニーの所から帰り、ジャンとご飯食べて、スクリーンムービーでベンキョーして、ラファエルとご飯食べて、お風呂が終わって、後は寝るだけ。僕は部屋のソファーに寝そべって、アメとだらだら話してた。 「わかんない。ジャンはカッコいいし面白い。僕のこと大事にしてくれる」 お風呂の後で、ジャンが「武術の先生を雇いました」って言った。僕はポカーンと口を開けて、「ジャンじゃないの?」って聞いた。そうしたらジャンは、 「もちろんじいやもいたしますが……」 だって。「……」って何だよー、って話。 「ジャンに習いたかった」 『ジャンだから習いたかったということ?』 「そう」 『ジャンはなぜ新しい家庭教師を雇う?』 「ジャンは忙しいんだ。前のショーが評判で」 クララが主演の「トゥーランドット」 前座を務めたジャンに、カンフーショーやカンフー講座のオファーがいっぱい来ているらしい。 「ほとんど毎日会っていたけど、週4回になるんだって」 マリアンヌおばあさまは、チャリティーが大好き。ジャンに、そういうの行けってさ。 『ラジィは、ジャンに会えなくなるのがサミシイのでは?』 「そうかも」 そう。僕、ジャンがいないとどこにも行けない。いられない。このお屋敷だって、ジャンがいないと広すぎるんだ。 アメはゆっくり瞬きをした。ペリドットの虹の雨が、降ってるみたいに揺らいでる。きれい。 『ジャンのことと、新しい家庭教師のことは、別のことだ』 確かに。僕はまだ、その人に会ったこともないんだった。武術の種類だって聞いてない。 「そうだね」 『家庭教師について何か教えてもらったか?』 「猫探しに来てくれてたハケンサンだって。今日、ジャンがスカウトしたんだって」 『名前は?』 「忘れちゃった。なんだっけ……」
19_ あるいは水でいっぱいの海#02
—J&L Ice cream shop— 「都市伝説かと思ってた」 アイスクリームスタンドをアルコール布巾で消毒しつつ、ジェニーは肩を上下した。 「トシデンセツ?オカルトってこと?」 「ええ。実在していたなんてね」 居住区Cのジェニーのお店は、僕が住んでるお屋敷から実はそんなに遠くない。開店前のお店のカウンター。隣にラピ。奥にジェニー。冷凍庫からの涼しい空気が気持ちいい。 ウエストのAからCのイーストまで、歩いてほんの10分ってとこ。 「どんな話?教えて!」 「うーん……。ラジエルさま。ジャン様にはナイショよ?叱られちゃうわ」 ジャンは少し離れたところで、身体の大きな男の人たちと何かを話している。カンフーのことかな? 「僕、口が堅いんだ」 トパーズくらい、とジョークを言うと、硬度7はビミョーよね、とジェニーは返した。キレアジバツグン。だから、ジェニーと話すのが僕は好き。 「第3層には、DからZの居住エリアがあるんです。ご存知かしら?」 「なんとなく」 「あたしは、Sエリアの生まれなの。ラジエルさまのお屋敷に来る前は、Gエリアに住んでいたわ」 「へえ」 あまりよくわからないが、とりあえず頷く。全部で26の居住区があって、第3層には23のエリアがあるってことだな。 「観光地として開放されているのは、Jまで。ちなみに、ジュエレッタちゃんたちのお店はDエリアよ」 それ、絶対に行ってみたい。頭にブックマーク。後でアメと調べよう。 「で、ベルはどこの人?」 「Zです」 「ジェニーは、行ったことある?」 「まさか!」 ジェニーは両手をパッと両頬の横で広げた。目も口もまんまるい。なんか、変なことを聞いたかな? 「あ、ごめんなさい。ええっと、うーん……」 ジェニーは頬に手を当て、斜め上の方を見た。そっちにあるのはキッチンカーの天井棚だろうけど、何かを探しているわけではない。 「フクザツなんだ?」 「ええ、フクザツ。……XYZは、他のエリアと違うんです」 これは聞いちゃいけないやつだ。僕はジャンをチラッと見た。こっちを見ていない。セーフ。 ラピは瞳をうるうるさせてジェニーをじいっと見つめている。心配そうな感じ。 ジェニーはラピにウインクして、次に僕へニコッと笑った。 「歌姫ベルは、なんて言えばいいのかしら。アイドルみたいな感じ」 「そうなんだ」 「この100年ずっとね」 どういうこと? 「ベルは人間?」 「だとしたら、ものすごーくお金がかかるわ」 ジェニーは手の平を上に向ける。 「じゃあ、アンドロイド?」 「それって、ちょっとありきたり」 「ユウレイ?」 「集団幻覚でニュースになる?」 お屋敷のサロンがふと浮かぶ。 次にターコ。 銃撃の音。 破壊音。 ハスキーボイスの"Don’t move.” 『代わりに歌う』 窓から消えた金の鳥。 火星へ行った人魚姫。 「もしかして、ジュエレッタ?」 ジェニーの瞳がサファイアみたいにキラッと光る。ジェニーは笑った。 「それなら、少しステキかも」 「なんで?」 「なんでかな?多分、ラピちゃんが笑うのと同じ理由よ」 ラピを見ると、ニッコリかわいく笑ってた。ジェニーの双子の妹みたい。顔は全然似てないけどね。 「ジェニーはこういう話好き?」 「大好きよ。他人事ならね」 ジャンが来た。アイスクリームを二つ頼んで、ラピに連れられ僕らはパラソルの下に座る。
19_ あるいは水でいっぱいの海#01
朝食はフル・イングリッシュ・ブレックファスト。目玉焼き、ソーセージ、ベークドビーンズに焼きトマト。パンは3種類。 毎朝これだけど、まだ慣れない。ちょっと多すぎ。僕はミルクを飲みつつ、ベイクド・ビーンズの端っこをフォークでつんつんとつついた。 「ラジエル、知っているかな?歌姫ベルが奇跡の復活を遂げたそうだ」 ラファエルが、ウォッチのデジタルニュースをアップにして言った。少し前に、お皿は全部空になってる。僕が食べ終わるのを待っているのかもしれない。 ちらっとジャンの方を見ると、渋い顔をしていた。うん、お行儀悪いよね。 「歌姫ベルって誰ですか?」 でも、会話に付き合うことにする。とりあえず、目の前のインゲンマメから逃れたい。 ラファエルはコーヒーカップをゆっくりと口に運び、手に持ったまま語り出す。 「デイジー・ベルは女神のように美しい。精霊のような歌声。6区の希望の象徴なんだよ」 6区って?と気になったけど、僕は神妙に頷く。なんとなく、食卓でおじさまに聞くことではない気がした。 「奇跡の復活って?」 ラファエルは、口と右目を歪めて苦そうな顔をした。 「数日前のことだがね。凶弾が彼女を襲った。しかし、彼女は蘇った」 この話を始めたことを、後悔してるっぽい顔だ。キョウダンってどっちだろう。 「人々の願いが奇跡を起こしたのだね」 ラファエルはそう言って立ち上がり、僕に微笑み部屋を出た。 要するに、ラファエルの話はこういうこと。 歌姫ベルが、撃たれたけれど復活した。6区の人たちの願いが奇跡を起こしたからだ、って。 大人って単純だな、と思いつつ、ラジエルはロールパンを指でちぎった。
17_ 縁の海のウィルオウィスプ#04
「光るジュエレッタ。なるほどねー」 「ジェニーはどう思う?ただのカイダン?」 「カイダンというよりは、悲しい童話だったね」 「童話?人魚姫みたいな?」 「そうね。似てるかも」 キッチンカーの屋根の下で、ジェニーとラピが並んで同じ方を見ている。雪。今日はウィンターウェザー。2人はお揃いのパーカーを羽織っていた。背中に大きくお店のロゴが入ってる。 アイスを買いに来るお客さんはいるのかな、と僕は少し心配になったけど、僕がいる間に3人もやってきた。みんな。体が大きいお兄さん。 そのうちの1人はストロベリー、チョコ、バニラの3段重ねを買って行った。ラピのローラースケートは、彼のプレゼントだったらしいと僕は理解した。 「ジェニーは、ラピが好き?」 「好きよ」 「それって、童話?」 「そうかもね」 「雪の女王?シンデレラ?」 「人魚姫よねー」 だったらあたしは王子様?それともお姉さんかしら、とジェニー。ラジエルは、意外と魔女かも?と考えたりした。 「僕も同じ。人魚姫」 「それ、アメくんのこと?」 「ううん。ターコ。泳ぐジュエレッタで、火星に行っちゃったんだ」 「そうなんだ」 ジェニーはパーカーのファスナーを上げた。雪は綺麗だけど冷たい。 「あの魔女、案外親切よね」 「うん」 「ジュエレッタは、泡になったりしないわ」 「うん」 「火星って、どんなところなのかしらね」 涙が出そうになったから、僕は上を見た。雪はどこから降っているのかな。ドームの天井はいつも光学スクリーンに覆われている。 「僕、行って見たい」 火星に。いつか。ターコに会えたらいいなと思うし、シャトルの窓から青い夕日を見てみたい。 「ラジエルさま、アイス食べる?」 「寒いから今度にする。またね、ジェニー」 「また来てねー」 Pipi. “Hi, Leni. What’s up?” “I’m okay. Jen. Are you open?” “We are. Looking for a cat again?” “Yes. Three cats this time.” “Do cats like snow?” “Maybe. Have you seen them?” “Sorry. If I see one, I’ll let you know.” “Thanks. I’ll come by later.” “I’ll be here. See you later.” “See ya.” Pi. 「電気猫は、きっと雪が好きなのよ」 ジェニファーは呟く。ラピスラズリの瞳が新月の三日月みたいに丸くなる。
17_ 縁の海のウィルオウィスプ#03
縁の海ーMare Marginisー アルタイ断崖に位置するムーンバレーからずっと西。神酒の海、ピレネー山脈、アガルム岬のムーンケイプと危機の海のさらに先にある縁の海。 そこに、鬼火が出るという。 月面都市の住民にはすっかり廃れた怪談話の一つだが、観光客には有名だ。なぜか。 星間シャトルの窓から、発光体が見えるのだ。常に、ではない。30機のシャトルの1つ、乗客200人の3人程度。 0.05% 目撃率はそれほど低い数値ではない。プロモーションでないとすれば。 「アメは、何が光ってるんだと思う?」 『鉱物では?』 「やっぱり?」 お屋敷の自室。直角に接したソファの斜向かいに座るアメにラジィは頷く。 紫外線で蛍光発光する鉱物の存在をラジエルはいくつか知っている。フローライトやスキャポライト。ハックマナイト。 「ねえ、ジャン。縁の海ってどういう所?」 ジャンはサービング・ワゴンの上のカップに紅茶を注ぎつつ、愉快そうにほっほと笑った。 「私の祖父は鬼火を見たそうでございます」 「ジャンのおじいさま?第1世代?」 「さようで。科学者であり、探検家でもありました」 ローテーブルに紅茶が置かれた。僕の分と、アメの分。ジェニーの所で僕が言ったことを覚えてくれてたんだな、ってカンドー。 「もしかして、ムーンケイプの開拓者?」 「ラジエル様は聡明にございます」 次に、お菓子の銀トレイ。イチゴとグレープ、マーマレードのジャムクッキーは宝石みたいに綺麗な色。 僕はマーマレードを選んで食べる。夏っぽい味。ジャンはアメの隣に腰を下ろした。背筋がピンと伸びている。 「私の考えたところによりますと、その鬼火はジュエレッタではないかと」 「どういうこと?」 「その鬼火は、声もなく泣くのです」 「泣くの?なんで?」 ジャンの目尻に皺が寄る。優しい顔だけど、大人の人がこういう顔をする時は悲しいことを話す時って僕は知ってる。 「月面開拓の歴史は、死と隣り合わせでございました」 エアーの不具合。ボルトの緩み。スペース・スーツの小さな穴。6分の1の重力。大気のない地表。直射する宇宙線。最初の30年。月の上で生まれた命は2度目のファボスを待たずに消えた。 「多くの人類が剥奪されました。未来を。今を生きるということを」 ニャーン、と扉の向こうでクロが鳴いた。 「人類が月で生きるとはそういうことだ、と祖母はよく申しておりした」 アメはジャンを見ていた。僕はアメの横顔を見て、行ったことのない縁の海を想像した。 「慰めとして、泣くジュエレッタが制作されたという逸話でございます」 送り火として。 ジャンは小さな声で最後に言った。
17_ 縁の海のウィルオウィスプ#02
Product Name: Adamite Girl Flavor: Electrical and Burnt Polishing form: Skelton Emotion content exceeds 99%. ⚠ Emotional overflow detected. Raw Ingredients: Baryte and Adamite Voice tone: Sob Category: Silent cry Serving Suggestion: Room Temperature in the last night “…Refill.” The green light flashes. The smell is burnt. The sound is sob. The air is out. “I’ll go to Odyssey.”
17_ 縁の海のウィルオウィスプ#01
縁の海には鬼火が出る。 「オニビ?」 「火の形をしたゴーストよ。青白くて、喋るの」 「ふーん。それって熱い?」 「さあ?ただ、青い炎は赤い炎よりも高温よ」 「ジェニーは、それ見たことあるの?」 「ライブラリでね。イラストだったわ」 サマウェザーの昼下がり。僕はBエリアの公園で、キッチンカーのお姉さんとカイダン話をしていた。それにしても、カイダンってどういう意味だろう?上るのか下がるのか、どっちがクオリティの高い話になるのかが謎だ。後でジャンに聞いてみよう。 「ラジエル様。お待たせいたしました」 「ジャン!」 「ジャン様」 ジャンがクロを抱えて近づいてきた。無事捕獲できたみたい。僕はクロの毛並みを撫でる。つやつや。 クロはお屋敷の電気猫のうちの1匹で、昨夜のうちに脱走したのをジャンが探しにきたってわけ。業者の人に頼むことも多いんだけど、今日は僕が「探しに行きたい!」っておばあさまにおねだりして、ジャンと一緒に外に出たんだ。 マリアンヌは、子どもが外で元気に遊ぶのはいいことだって思ってるみたい。にこにこしてた。 「ジェニファー、アイスクリームを2つよろしいか?」 「喜んで!どれにしますか?」 ジェニーのポニーテールを左右に揺れる。彼女はキッチンカーに素早く乗り込み、ジャンがメニューをアップで表示した。 「ラジエル様はどれになさいますや?」 三角コーンにぽこんと乗った丸いアイス。ピンク、イエロー、ライトグリーンにライトブルー。ずらっと並んだ色とりどりのフレーバーは、宝石みたいにキラキラしてる。 「うーんとね。……この、ラムネって?」 「駄菓子の炭酸ジュースよ。甘さ控えめで、少しシュワっとするの」 なんか美味しそう。 「それにする」 「では、ラムネとピーチを」 「かしこまりましたー!そちらのパラソルでお待ちになって。ラピちゃん、ご案内!」 ジェニーが満面の笑みで腕を振った。カウンター前にいたラピスラズリ・ガールがこくりと頷き、スーッと席へ移動していく。 「元気そうで何よりです」 パラソルの下、アイスを食べつつジャンが言った。 「おかげさまで。ジャン様のおかげよ」 ジェニーがウインク。僕、ジャン、ジェニー、ラピスラズリの順でテーブル円周に等間隔で座っている。 「ラピスラズリも元気そうで。椅子に座って泣いているよりいいですな」 僕は左隣に座るラピスラズリ・ガールを見る。目があって、ラピは少し微笑んだ。透き通るクリスタルのボディと青く輝くロングヘアー。黒目がちの大きな瞳の、大人しそうなジュエレッタ。 でも、ファッションはジェニーとお揃いのポップなTシャツとミニスカートで、足の下には車輪がある。 「自走式のローラースケートをつけてもらったの。アイドルみたいでかわいいでしょ?」 ジェニーがラピの肩を抱く。小麦色の肌で表情豊か、全身で生きてる!って感じのジェニー。2人の外見は対照的だけど、なんだか姉妹みたいに見えた。 「ラジエル様も、ジュエレッタをお持ちなの?」 「えーっとね。僕はジュエロンのアメと一緒」 「じゅえろん?あめ?」 ジェニーが首を傾げ、ワンテンポ遅れてラピの首も傾いた。 「ジュエレッタなんだけど、ジュエレッタじゃないんだ」 アメのプロダクト・ネームは確かーP.P.J(Pallasitic Peridot Juvenile)ー 「うーんと。男の子で、インベーダー?インデント?インペリアル?なんだっけ、ジャン」 「インクルージョンでございます」 「そうそれ。よくわかんないけど、イッテンモノでキチョウっておじさまが言ってた」 「特注品ってこと?で、アメって名前なのね。アメはどんなことができるの?」 「喋るよ」 「へー。楽しそう」 「ラジエル様はアメ殿に懐いておいでです」 「面白いもん。アメもおやつが食べられたらなー」 「ほっほっほ」 「お友だちなのね」 ジェニーがにっこりして、僕はほっぺがかあっとなる。ジェニーはすっごく綺麗なんだ。 ラムネのアイスがシュワっと美味しい。しばらく食べることに集中。ほっぺの温度が元に戻って、頭が少しキーンとした。 「ねえ、ジェニー。さっきの鬼火の話を聞かせて」 「あれで全部よ。カイダンは詳しくないの」 「それはもしや、縁の海のウィルオウィスプのことですかな?」 「多分それ!ジャン、詳しいの?」 「怪談かはわかりかねますが、お話しできることはございます」 「聞きたい!」 ジャンは立ち上がり椅子を入れた。僕も椅子から降りて、背もたれを押して元の位置に戻す。 「では、帰ってから。アメ殿もご一緒に」 ジェニーとラピも立ち上がった。 「ラジエルさま。今度来た時、どんな話か教えてね。あたしも気になるわ」 「わかった!ジェニー、また来るね!」 手を振り、僕はジャンの後を追いかける。最近、ちょっと走れるようになったんだ。
16_誰も寝てはならぬ#05
「ジャン!昨日カッコよかった!」 「光栄にございます。ラジエル様」 「あれなんて技?アンコールの」 「旋子でございますかな?」 「わかんないけど多分それ!」 「ラジエル様。やってみますか?」 「教えてくれるの!?」 「カンフーの基本からでよければ。マリアンヌ様からご許可をいただいておりますゆえ」 「おばあさまが?」 「昨晩は、ラジエル様のおかげで何かと上手くいったそうでございます」 「ふーん……。クララさま、お食事楽しかったのかな?」 「そういうことでございます」 Pi. “Hi, Ame. I'm learning Kung Fu.” —Congratulations, Ragi. “I asked Clara what love means to her.” —What did she say? “She said love is toe shoes. What do you think, Ame?” —I don't know. “Me too.” —She is a ballerina. “Yes.” —Toe shoes are maybe a part of her. “I see.” —Love is the same. “It may be.” Pi. "Enjoy your time." Cocoa and mooncake.
16_誰も寝てはならぬ#04
実際に会うと、小さくてびっくりした。 「ラジエル様。今宵のトゥーランドット、お楽しみいただけましたか?」 舞台衣装からドレスに着替えたクララは、なんていうか、大人の女の人って感じがしなかった。小さくて細くて、羽根があるみたいに軽やかなんだ。 「感動しました。クララさまは、えーと、ステージでとても大きく見えました」 「まあ。素直な男の子」 「ラジエル。失礼ですよ」 「あっ!ごめんなさい。えーっと……スターだなって」 「エトワール?光栄ですわ」 クララはピンクのドレスの裾をつまみ、妖精みたいにレヴァランスした。 ムーンタワー最上階フロアは丸ごと、ムーンライト家の住まいの一つ。僕とおばあさまは、公演後のクララ、彼女の夫イワンとの会食。 「ラジエル君。脚はプロステティックと聞いたよ。大変だったね」 「そんなに、です。僕は歩ければそれでいいですから」 「まあ。クール・ボーイね」 「さっきから、クララはラジエル君がお気に入りだね」 「話すことが楽しいんだもの」 「参ったな、僕はジョークは苦手なんだ」 「貴方はそこがいいんですよ」 「ははっ、クララはいい妻だなあ」 僕はおばあさまの隣で、エビギョーザをもぐもぐした。今夜のコースはチャイニーズ。回る机がアトラクションみたいで楽しい。 ジャンもいたらいいのに、と思うけど、大人の世界は色々あるのも知っている。明日は会えるはずだから、ショーの話ができるかな。ジャン、すごくカッコよかった。カンフーを教えて、って頼んでみよう。 「クララさま、一つ聞いてもいいですか?」 食べるものが無くなったので、僕は気になっていたことを聞くことにした。 「なんでしょう?」 「クララ様にとって、愛って何ですか?」 「あら」 「ラジエル。何を聞くの」 「僕も聞いてみたいな、クララ」 「まあ、貴方まで?うーん、そうね……」 おばあさまが小言を言いかけたけど、イワンのおかげで聞けそうだ。 クララは薄紫の大きな瞳を窓の方に向けて、しばらく動かなかった。その横顔は、サロンのジュエレッタに似てる。 クララはやがて大きく瞬き、僕の顔を見て言った。 「トゥ・シューズみたいなものね」 マンゴーとパイナップル、花の香りのお茶が赤い机の真ん中に置かれた。
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縞模様の光の影

Who's Who

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-Leni and Mory-

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-Razi and Ame-

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