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Jeweletta Stories

Jewelettas — jewel-born artificial beings — sing, cry, and quietly live beside humanity.

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-Leni and Mory-

Title
Description
12_地球へ!#04

「いよいよ明日ね」


レニは窓辺のパイプ椅子に座り、ブルーベリー・ウォーターをごくりと飲んだ。ストロベリーとグレープの中間のような味がする。


『ブルーベリーは宇宙の味よ』


レイチェルが、ブルーベリー・キャンディをレニに手渡しそう言った。

検診の帰り、ブラウン家に立ち寄ったのだ。以前と同じ26回の洗浄を経て、麻の服で入った無菌室。レイチェルのベッドの傍で、トパーズ・ガールが微笑んでいた。


『パパが言うのよ。次の誕生日プレゼントな何がいい?って。でも、ね、Refill. Topy.』

“”Tee-hee, Yet.””


声を合わせて笑うレイチェルとトピー。太陽のように弾ける笑顔。


「アンも、いつか笑うかな」


Odyssey—異星の客が帰還する。

ビゼンの家で、ビゼンやウパラと一緒に暮らして、アンが笑えますように。

斜向かいのモリーの笑顔を見ていると、そんな願いを持ってしまう。



翌朝。

レニは、冷蔵庫からウォーターを取り出した。いつものジャンパーとキャップ。ウォッチ。ゴム底ブーツ。準備オーケー。

モリーの肩にブランケットをかける。モリーは両目を細め、頬の横にうっすらと笑窪が浮かぶ。


Mory is here.

It’s my home.


Leni opens the door.

The light is morning time.


“Mory, I'm going!”

To the terra!

12_地球へ!#03

「私の祖父がこれを作った」


ムーンバレー第6区の宝石加工店ムーンライト・ストーン通称"月の石"。

店内ブースの一席に座る"アンバー・ガール"を示しクロード・ロックはレニに言った。

「フローラの件は、本当にありがとう。またショールームに出せるようになって嬉しい。君とナオキのおかげだ」

「ビゼンがすごい」

「そう。ビゼン。ほんの7日間で、私は彼に多くを学んだ」

フローライト・ガール修復の1週間。ロックとビゼンは意気投合し、ビゼンの帰航の際にプライベートの連絡先を交換していた。それから何度もやり取りがあり、今回の"Amber Girl"譲渡の運びとなったらしい。

アンバー・ガールの面差しは優しく、愛らしい。しかし、表情は虚ろだ。大きな琥珀色の瞳の焦点は遠い。

ウイスキー色の瞳の中に、不思議な形の黒い点がある。レニの不思議そうな視線にロックが虫だよ、と回答する。

「惜しくはないのですか?ロックさん」

レニの問いに、ロックは満足げに頷く。

「どんなものにも、相応しい場所があるのさ。言葉はビゼンの受け売りだが、私はずっと探していたんだ」

ロックは、彼の隣のアンバー・ガールを見つめた。

「アンに相応しい場所を。地球に帰してあげたい」

「地球に帰す?」

「アンバー。琥珀は、有機宝石なんだ。古代の樹木の樹脂が、長い年月をかけて化石化したもの」

「カセキ?」

「太古の動植物の遺骸や、活動の痕跡が地層の中に埋まり、土の中で保存されたものだ。大半は長期間かけて成分が鉱物と置き換わり「石」に変化する」

人類出現以前の地球の記憶を宿しているんだ。

レニは、ライブラリで見た地球のソラやウミのビデオを思い出す。ツチの映像を、ほとんど見たことはなかった。

「オデッセイさ」

「オデッセイ?」

「長い帰還の物語」

今度ライブラリで調べてみよう。ツチとカセキと、オデュッセイア。

レニはアンの襟元に視線を向ける。交互に重なり合った布地はシルクだろうか。

「アンみたいな服、初めて見る。これは?」

「キモノだ」

ロックは、ブルーの方の瞳をウインク。オッド・アイが空と琥珀の色で微笑む。

「ニホンの伝統衣装だよ。ビゼンの家に馴染むようにね」

12_地球へ!#02

“It’s really? Karr.”

“I'm not joking.”

“For real?"

"Yes.Leni. I request you a carrier to the earth.”

“Why me?”

“The clients appointed you.”

“Who?”

“The owner of moonlight store, and Haruhiko Bizen.”

“I understand. I’ll take care of this job.”

“The working conditions are…”

“You can just send me the details.”

“Okay. I’m counting on you.Leni.”

“I’ll do my best.”


Pi.


「モリー!地球だよ!」

レニはぴょんぴょんぴょん、と両手を頭上に飛び上がる。モリーは両目を閉じてニッコリ笑った。

「最高!嬉しい!準備しなくちゃ!」


ピ。


寝室に駆け出そうとするレニのウォッチが軽やかに鳴る。依頼詳細メールを高速スクロール。レニの口元が緩む。


ジュエレッタ"アンバー・ガール"を地球に送り届けるミッション。


ムーンバレー・セントラルステーションの宇宙港から地球、トーキョーへ。ニューハイブリッド・カーをレンタル。車でキョートのビゼンの自宅へ向かう。

出航は10日後。それまでに含む渡航手続きを会社の手配で全部行う。パスポートやビザの発行。

今日の午後14:00に第2層医療エリアで検査や検診を行うとのこと。

「カー、ありがと!」

レニは軽装に着替え、冷蔵庫から取り出したとっておきのプレーン・ウォーターをポケットに家を飛び出す。

12_地球へ!#01

Product Name: Amber Girl


Flavor: Oriental

Polishing form: Fragile

Emotion Content: 0%

⚠︎Emotion content is less than 1%(0.00%~0.99%)

Raw Ingredients:  Ceramic and Amber

Voice tone: Non-existence

Category: étranger


Serving Suggestion:

Room Temperature in the abstract night





The pottery hands are layer put on the knees.

The lips look like a petal on milk.


The amber hair scents oriental air.

The amber eyes are seeing the nothing.


“What have you seeing?”


The earth memory locked in.


Bubbles.

Insects.

Silent.

11_スイカ色の窓#04

「モリー。ただいま」

モリーはレニに顔を向け、ニコッと微笑み頷いた。レニは両目のウインクを返し、冷蔵庫からウォーターのボトルを取り出す。今日はスイカ・フレーバー。


さっきジェンに、ナオキからの就職祝いを配達した。魔改造のフローティング・カート。派手にデコった浮遊台車である。


『パスがないから、レニが届けてくれると助かる』


言う必要のないことをナオキが口走ったので、それをそのままジェンに伝えた。ジェンは、「そのうちみんなで、ステーションでランチしよ」とビデオを撮ってレニと共有。今度会った時、ナオキとナオミに見せる予定。


「ブタって何?って今日も聞きそびれちゃった」

レニは椅子に逆向きに座り、背もたれに腕を置いてウォッチで「ブタ」を検索した。

「かわいい……」

ぽよんとしたピンクのドウブツ。つぶらな瞳。鼻の形が面白い。

ーー偶蹄目イノシシ科ーー

ーー食用として広く飼育されるーー

ーーミニブタ、マイクロブタはペットとしてーー

ーー地球では、産業動物として家畜化ーー


ーーdomesticated animalーー


「野生であったものが、飼い慣らされて人間社会に適合すること……」


『善意のフルコースでブタになるのよ』


「へー。うまいな、ジェン」

レニはウォーターをごくりと飲む。スイカフレーバーはほのかな塩気があり、体に沁み入る感じがする。


『家族に見えるよ』


ナオキが言った。レニが「私とモリー、並ぶとどんな感じに見える?」と聞いたら。


ああ、そうだ、とレニは気づく。

アイスクリームを前に並ぶジェンとラピちゃん。

手を繋いで火星へ向かったキャシーとインディ。

手を振り別れ、スタスタと連れ立って歩くビゼンとウパラ。

フォトの中で抱き合い笑う、レイチェルとトピー。


思い返すと、家族のよう。


"Mory, refill.”

“Do you have any requests?”

“Song for family.”


Mory stands.

The copper hands hold a transparent steering wheel.


“The Wheels on the Bus."


Whistle.

11_スイカ色の窓#03

—J&L Ice cream shop—


「あの仕事辞めたの」

ライトグリーンの筆記体がキュートなキッチンカーのパラソル下でジェンは言った。

「いつ?」

「2ヶ月前。あの家、また新しい子を買ったのよ」

どきりとする言い方。新しい子?

「買った?」

「宝石女よ」

「ああ、ジュエレッタ」

「そ。で、ラピちゃんを退職金代わりにもらって辞めたの。あたし。」

「クビってこと?」

「自主退職。限界だったし」

「辛い仕事だった?」

ジェンはアハハ、と明るく笑った。翳りのない、以前と同じ笑い方。レニは若干うるっときた。

「ぜーんぜん。奥様もぼっちゃまも、普通だったし淡白だった。あたしの境遇?に同情して、親切にしてくれた」

使用人の仕事はね、とジェンは続ける。

「第2層出身の、専用のバトラーがちゃんといるの。来客のお茶出しや、パーティの給仕くらいはあたしもするけどさ。あとはジュエレッタちゃんたちのお世話するだけ。3食コースの、最高ランクの衣食住。楽な仕事よ。でも、楽すぎたの」

ジェンは左腕を曲げ上げて、右手の指で二の腕をふにふに押した。

「3ヶ月で5キロ太った」

言われてみれば確かに、以前よりも面差しが柔らかくなった気がする。

「もーヤダ、あたしじゃない!と思ってさ。このままじゃブタになる!って思ってスッパリ辞めたわけ」

お腹のおニクがつまめるなんて!とジェンはオーバーリアクションで肩を竦める。レニは声を出して笑ってしまった。

そして、気になったことを聞く。

「ジュエレッタちゃんたち、って?」

ああ、とジェンのブルーの瞳が少し沈んだ。

「ジュエレッタ専用のサロンがあるのよ。今使ってる子以外を置いとく部屋ね」

栗色のポニーテールを指で梳く。

「6人のジュエレッタちゃんたちが、高級な家具……。本物の木よ?専用のテーブルがあって、綺麗な椅子に座ってんの。ぼっちゃまがゲストを案内して、そこでお茶やお酒飲みしながら、小難しい話をするのね」


「あたしは、その子たちがちゃんと起動するか朝晩確認するのよ。"Refill."って」


「1人ね。可哀想な子がいた。エルバイト・ガール」

レニはウォッチで検索する。

ホログラムで表示されたエルバイト・ガールは、ジュエレッタ・シリーズの中では小柄なデザイン。彩度の高い赤髪。毛先に向かう緑のグラデーションが美しい。

ジェンが、ホログラムの脚線を指差す。ふくらはぎのカーブが豊かで滑らかだ。

「エルちゃんのオプションは走る、なの。走るって言っても、部屋の中をぐるりと一周駆け足するだけ」

そんなとこ走るために作られたんじゃないじゃん?

「たまんないなーと思ってさ」

レニはホログラムをクローズした。

「あたしが辞めた後に、ラピちゃんがあの部屋で泣いてるの想像したらさ。もうね、いたたまれなくて。もらってきたのよ」

レニは、ジェンの隣りに佇むラピスラズリ・ガールを見た。ジェンと同じくらいの身長に、クリスタルのボディと、ラピスラズリのストレートヘア。ショートムービーで見た"ユキオンナ"に似たイメージ。

「すんなりくれた?」

「すんなりよ。あの人たち、いいことしてるつもりなんだ」

「いいこと?」

ジェンは口元を左右非対称に曲げて笑う。

「6区の女を救ったつもりなわけ。退職の手続きする時、新しい働き口をいくつも紹介してくれた。執事長がね」

レニは、ジェンの雇い主たちは案外いい人だったんだな、と自身の印象を改めた。ジェンのシアワセのために退職金としてジュエレッタを譲り渡し、次の仕事の口利きまでするというのは誠実だ。鈍感で独善的な思考回路だとしても。

「で、今はこうして、5区でアイスクリームのキッチンカーをやってる」

ジェンは作業員たちを眺める。6区の土建屋が何人かいる。

「あたし、今の仕事が好きよ。子どもが時々買いに来る。かわいいわ」

ジェンは両目を細めて優しく笑った。

「腹ペコも、喉が渇くのもヤダけどさ。施しで生きるのはもしんどいんだってわかった。善意のフルコースでブタになるのよ」

ブタってなんだろう、とレニは聞きそびれている。何かのドウブツ?

ジェンがラピの肩を抱き寄せぱちんとウインク。

「ラピちゃん、キレイになったでしょ?この子、笑うようになったの。故障かしらね?」

だとしたら、素敵な故障だわ。レニは頷く。

「ジェンもキレイ」

「ふふっ、ありがと。ラピちゃんのおかげかも」

ジェンはラピスラズリ・ガールの手を握る。

「あたしの話に泣いてくれる。同情でも憐れみでもなく、プログラムとして、反射で涙を流してくれる。それにあたし、なんか救われたの」

ジェンは前髪を掻き上げた。小麦色の額に汗が光っている。

「幸せになりたくて生きてるわけじゃないけどさ。ナオキといた時幸せだったって気づいた。だから、今も幸せだってわかる」

ジェンにつられ、レニも自然と笑顔になる。

「ラピちゃんは歩くの?」

「担いで運んでるわ。ラピちゃん軽いし、アパートすぐそこだし」

クリスタルの比重は2.65。銅は8.99である。しかしモリーは空洞部分が多いから、実際の重量にそれほどの差はないだろう。

「力持ちだね」

「あたしタッパあるから。レニ、アイスクリームどう?奢らないけど、値引きするよ」

今日のウェザーはサマー設定。アイスクリームが美味しいはず。

「じゃあ、メロン」

「コーン?スプーン?」

「コーンがいいな」

「かしこまり!」

かけ出すジェンのポニーテールを追いかけて、ラピスラズリの瞳がきらめく。

11_スイカ色の窓#02

仕出し弁当は、3色プレートとグリーンティー。


レニの前には、ランチを前に仕事を踏ん張る、第3層の日雇い労働者たち。彼らにランチを販売するのが、レニの今日の任務である。欠員が出て急遽。カーから依頼のテレフォンが来たのはほんの1時間前なのだ。

トローリーを乗り継ぎ、検閲を経て現地に着くと、ブースが設置されていた。ロゴ入りの黒いエプロンとキャップ、ポータル冷蔵庫。


ダイヤモンド・ガールが消失した火災事件から6ヶ月。コータの事件から時を開けずに起こった第2層の大規模火災。立ち入りには、第1層からも第3層からも、通行許可証が必要となった。

第2層の復興に駆り出される彼らの心境は様々だろうが、仕事にありつき、三食と屋根付きの仮住まいを確保できて運がいい、というのが大半だろう。消費期限の過ぎていない弁当は、毎日3食食べるとしたらなかなかの出費になる。


弁当を売るのは楽だが、短時間だし時給も低い。ただ、丸一日8時間サマーウェザーの中で肉体労働するのはしんどい。レニはタフで俊敏だが、力持ちなわけではない。


「レニ?」


声をかけられ振り向くと、目と口をスイカみたいにまん丸くしたジェニファーが立っていた。ポニーテールにジーンズ姿で、ビビッドカラーのエプロンを身につけている。

ぱちん!と両手を合わせてジャンプ。ジェンの手はあったかくて、爪は短くなっていた。

「ジェン!」

「わー!レニだ!え、なに?あ、バイト?お弁当?わー久しぶりー。いつぶりだっけ?」

「5ヶ月。元気そう。笑顔で会えて嬉しい」

「やだ、泣けるじゃんもう……」

そこで話さない?、とジェンが示す先には、パステルピンクのキッチンカーと、脇に佇むラピスラズリ・ガールがあった。

11_スイカ色の窓#01

Product Name: Elbaite Girl


Flavor: Sweet and fresh

Polishing form: Healthy

Emotion Content: 68%

Raw Ingredients: Molybdenum and Elbaite

Voice tone: Pop

Category: Run


Serving Suggestion:

Room Temperature in the refresh night





“Refill. Elba.”

The legs reflect light silvery white.

The eyes sparkling like watermelon.

Red smells sweet and flesh.

“Where do I run?”

In the window.

Summer lights.

10_火星の客#06

「ただいま、モリー」


レニは冷蔵庫へ直行。モリーの瞳がレニの通り道を追いかける。

取り出したのはピーチ・ウォーター。甘い香りが喉を潤す。うん、美味しい。

「無事に終わった。何度かヒヤッとしたけどね」

先ほど、キャシーをターミナルまで送り届けてきたところ。彼女は左の頬に大きなバンソーコーを貼り付けて、インディ(Indicolite Girl)と手を繋いで大きく手を振り火星に向かった。隣並んだ座席で、インディの電磁波で癒してもらい、居眠りしながら帰るそうだ。


「私も、はじめは給料全部使い切ってた」


生活は不規則。家ではコーラか合成肉、ブロックやプレートばかりを食べていて、食生活も荒れていた。


「冷蔵庫を買ってから、なんか落ち着いたな」


冷蔵庫に冷やすドリンクは、コーラ、ジュース、ガス入りウォーターを経て、最後は水になった。冷たい水が一番美味しい。それに、朝が楽なのだ。

生活が変化する買い物がある。レニの場合は冷蔵庫と、買っていないけどチップ代わりにいただいたモリー。

仕事終わりに静かな部屋で冷えた水を飲み、きれいなオブジェが笑いかける。


贅沢な夜が、いつの間にか日常にあった。


キャシーは、インディゴライト・ガールを買った。

月の石の店内で、インディゴライト・ガールと並んだキャシーを思い出す。長身のジュエレッタと小柄なキャシーは、どことなく面差しが似て、親子めいてレニには見えた。


モリーと私は、並ぶとどういうふうに見えるのだろう。親子じゃないな。姉妹?友だち?それとも……。今度ナオキに聞いてみよう。


"Mory, refill. The mars song."

“Okay, Leni.”


Mory stands.

Copper arms open like the red curtain.


"For you…red sand melody… "


Breeze.

10_火星の客#05

“Refill.”


The pitch black arms open like a meditation.

The electromagnetic wave expends with lullaby.


“What name is this song?”


The eyes become thin.

The lips are thin too.

Like three crescent in the night.


“No name.”


Doze.

10_火星の客#04

トローリーを乗り継ぎ、レニのアパートに到着。前時代的でクラシカルなロックを物理的に解除。ガチャリと扉が開く音。

「あ、ジュエレッタ!」

キャシーの大声。レニは慌てて口の前に人差し指を一本立て、シー、のジェスチャー。キャシーは両手でバッと口を塞ぎ、大きな瞳で右と左と右を見た。

室内へ。ドアを閉める。キャシーはモリオン・ガールに駆け寄った。

「いいなー。レニ、持ってるんだ。高いでしょ?自分で買ったの?」

「チップみたいなやつ」

ああ、とキャシーは大きく頷く。どうやって運んだの?と聞かれ、担いで帰った、と回答。

「私もジュエレッタ欲しくてさー。もうね、ほしい子決めてるの」

「どれ?」

「見て。インディゴライト・ガール」

キャシーのウォッチがホログラムを表示。スレンダーな長身に、透明感のある藍色の髪。肌は磁石の黒。価格は280モニカ。

「クールね」

「磁気回復機能がついてるの。歌も歌うみたい」

「へえ。私のモリーも歌うよ」

「モリーっていうんだ。私も名前考えとこ」

キャシーに椅子を勧め、レニは冷蔵庫からウォーターを2パック取り出す。キウイとパイナップル。キャシーはパイナップルの方を選んだ。

「キャシー、腕がいいのね」

「アタシ、それで食ってるから」

キャシーはパイナップル・ウォーターをごくごく飲んだ。

「今回の報酬は180モニカ。ヤバイ仕事だよねー」

口元を拭い、レニにへらっと笑いかける。レニは窓際の壁にもたれ、キウイ・ウォーターを3口飲んだ。

「怖くない?」

「こわいよー」

キャシーはパイプ製の椅子の上であぐらをかく。窓の外に送る視線の焦点ははっきりしない。

「稼いだお金は、すぐに全部使うんだ」

レニは私もそうだった、と思った。

「残高は、墓まで持っていけないからねー」

仕事を始めて1年半くらいは、稼いだ金を残らず使った。何に使ったんだっけ。ステーションで、高いものをたくさん食べたし、沢山飲んだ。あとはムービー、バレエ、オペラ、ミュージカル……。

「でもインディ欲しくて、3回爆買い我慢した。生きて月に来られてよかった」

SSS席を1日貸し切り、サーカスをぶっ通しで観たり、カプセル・プラネタリウムに行ったり。

いつから、それをやめたのか。レニは思い出した。

冷蔵庫を買ってからだ。

「ジュエレッタを今から買いに行く?月の石に連れてくよ」

「いいの!?」

レニの提案に、キャシーは椅子から転げ落ちそうな勢いで飛び上がった。

「仕事は明日の朝だし。ついでに経費でディナーしない?」

「やったー!!お肉ある!?あと野菜!!オレンジジュース!!」

「合成と遺伝子組み換えだけど、ちゃんとあるよ」

キャシーはバンザイしながらその場でフィギュアスケーターのような高速回転をした。

「わーい!今日はブロック食とさよならだ!!」レニはくすりと笑う。初給料を肉と野菜とオレンジジュースに使ったな、と3年前を思い出しつつ。

10_火星の客#03

Product Name: Indicolite Girl


Flavor: Musk

Polishing form: Slim

Emotion Content: 17%

Raw Ingredients:  Magnet and Indicolite

Voice tone: Vibrato

Category: Relax


Serving Suggestion:

Room Temperature in the tired night

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-Razi and Ame-

Title
Description
16_誰も寝てはならぬ#05
「ジャン!昨日カッコよかった!」 「光栄にございます。ラジエル様」 「あれなんて技?アンコールの」 「旋子でございますかな?」 「わかんないけど多分それ!」 「ラジエル様。やってみますか?」 「教えてくれるの!?」 「カンフーの基本からでよければ。マリアンヌ様からご許可をいただいておりますゆえ」 「おばあさまが?」 「昨晩は、ラジエル様のおかげで何かと上手くいったそうでございます」 「ふーん……。クララさま、お食事楽しかったのかな?」 「そういうことでございます」 Pi. “Hi, Ame. I'm learning Kung Fu.” —Congratulations, Ragi. “I asked Clara what love means to her.” —What did she say? “She said love is toe shoes. What do you think, Ame?” —I don't know. “Me too.” —She is a ballerina. “Yes.” —Toe shoes are maybe a part of her. “I see.” —Love is the same. “It may be.” Pi. "Enjoy your time." Cocoa and mooncake.
16_誰も寝てはならぬ#04
実際に会うと、小さくてびっくりした。 「ラジエル様。今宵のトゥーランドット、お楽しみいただけましたか?」 舞台衣装からドレスに着替えたクララは、なんていうか、大人の女の人って感じがしなかった。小さくて細くて、羽根があるみたいに軽やかなんだ。 「感動しました。クララさまは、えーと、ステージでとても大きく見えました」 「まあ。素直な男の子」 「ラジエル。失礼ですよ」 「あっ!ごめんなさい。えーっと……スターだなって」 「エトワール?光栄ですわ」 クララはピンクのドレスの裾をつまみ、妖精みたいにレヴァランスした。 ムーンタワー最上階フロアは丸ごと、ムーンライト家の住まいの一つ。僕とおばあさまは、公演後のクララ、彼女の夫イワンとの会食。 「ラジエル君。脚はプロステティックと聞いたよ。大変だったね」 「そんなに、です。僕は歩ければそれでいいですから」 「まあ。クール・ボーイね」 「さっきから、クララはラジエル君がお気に入りだね」 「話すことが楽しいんだもの」 「参ったな、僕はジョークは苦手なんだ」 「貴方はそこがいいんですよ」 「ははっ、クララはいい妻だなあ」 僕はおばあさまの隣で、エビギョーザをもぐもぐした。今夜のコースはチャイニーズ。回る机がアトラクションみたいで楽しい。 ジャンもいたらいいのに、と思うけど、大人の世界は色々あるのも知っている。明日は会えるはずだから、ショーの話ができるかな。ジャン、すごくカッコよかった。カンフーを教えて、って頼んでみよう。 「クララさま、一つ聞いてもいいですか?」 食べるものが無くなったので、僕は気になっていたことを聞くことにした。 「なんでしょう?」 「クララ様にとって、愛って何ですか?」 「あら」 「ラジエル。何を聞くの」 「僕も聞いてみたいな、クララ」 「まあ、貴方まで?うーん、そうね……」 おばあさまが小言を言いかけたけど、イワンのおかげで聞けそうだ。 クララは薄紫の大きな瞳を窓の方に向けて、しばらく動かなかった。その横顔は、サロンのジュエレッタに似てる。 クララはやがて大きく瞬き、僕の顔を見て言った。 「トゥ・シューズみたいなものね」 マンゴーとパイナップル、花の香りのお茶が赤い机の真ん中に置かれた。
16_誰も寝てはならぬ#03
生のオペラってすごい。 僕はすっかり感動しちゃった。これまで、スクリーンでいろんなものを観てきたつもり。ドキュメンタリーもフィクションも、実写もアニメもパペットも。今日の「トゥーランド」はだって、全編通して3種類予習してきたんだ。 なんだろう、空気かな?音の振動?それが全然違ってた。座席からの鑑賞は、アップもスローもできないはず。なのに、ジャンの演技はスローに見えたし、メイン・ダンサーのソロは、汗が光って見えるくらいのアップだった。 「クララ様は、ラジィと同じなのよ」 「ええと、プロステティックってこと?」 「ええ。第3層の流行病で。イワン様が奥様に迎えて、クララ様を救われたのよ」 「へえ……」 うーん。おばあさまはいい話をしているつもりだろうけど、返答に困る。 —奇跡のプリマドンナ、クララ・ムーンライトに盛大な拍手を! アナウンス、グッジョブ。僕は拍手をしながら、ステージでお辞儀をするバレリーナの脚を見る。白くて、ところどころに芸術的な感じで宝石飾りの装飾がある。軽くて弾性のある素材っぽい。 『謎は3つ。死は1つ。皆様には今一度、希望と血潮に満ちた生のひとときを』 アンコール・パフォーマンスがスタート。劇中よりもアップテンポなミュージック。ジャンも出てきて、クララさんとのアクロバットでスリリングな数分間は最高のエンターテイメント・ショーだった。
16_誰も寝てはならぬ#02
「3つの謎かけだって」 『3つの謎かけ?誰が、誰に?』 「トゥーランドってお姫様が、カラフって主人公の男の人に。カラフが全て答えられたら、お姫様はカラフと結婚するみたい」 夕食の後、バス(水のやつ)を済ませて、僕は自室でスクリーンをアメと一緒に眺めていた。 プティ・フールのクッキーを飲み込んだ後、思い切ってラファエルに「ジャンのショーが見たい」と言ってみた。ラファエルは自分は予定がある、と言って一度断ったが、僕がしつこくおねだりするとウォッチを起動し、おばあさまにテレフォンしてくれた。 ーーラジィ、いらっしゃい。奥方がお喜びになられるわ。 満面の笑みでの快諾。明後日の最終日におばあさまが連れて行ってくれることになった。おばあさまは元々ショーに行く予定だったから、ついでに僕も、ということらしい。やったね。 そういうわけで、僕は「トゥーランド」の予習をしている。衣装やなんやが凝っていて面白い。ジャンのルーツはこの国なんだね。 『謎が解けなかったら?』 アメがぎこちなく口を開く。アメの返答には、タイムラグが時々あるんだ。僕はテキストを見て答える。 「カラフは姫に殺される」 『それはラブストーリー?』 「さあ?わかんない。アメはどう思う?」 『愛する人を殺すというのは、人間にしかできない行為だ』 「だから、ラブストーリー?」 『わからない。人工知能は愛するものを殺さない』 「ふーん。よくわかんないけど、人間ってフクザツなんだね」 『ラジィはどう愛す?』 「ええ?僕ぅ?」 アメの翠の瞳がじいっと見つめる。虹色のチューブ・インクルージョンがきらきらっと瞬いた。 「うーん……。壊れないように、あまり触らないようにする」 『なるほど』 「なるほどって?」 こくんと頷くアメの顔はいつものやつ。愛想や表情ってものを、標準装備してない顔面。 『ボクは愛されてるってことだね』 「それは飛躍しすぎ。ジャンもアメも真面目すぎだよ」 ぎゅ、とアメの手を掴んでみる。硬くて脆そう。 『ラジィは不真面目?』 「平均値より真面目な子ども。多分ね」 握り返す指も硬い。透けるのは結晶構造の斜線。
16_誰も寝てはならぬ#01
ハムとダイコンのマリネ オニオン・グラタン・スープ クロワッサンとバゲット サーモンのムニエル オレンジ・ソルベ ビーフ・ステーキ クレソンサラダ 3種のチーズ キウイとパイナップル チョコレート・ムース ホットコーヒー(僕はココア) アイスボックス・クッキー すごいメニュー。テーブルに置かれた紙のメニュー表を見て、僕はいつもシンセンに驚いてしまう。こんなの毎日食べていいの?って。 僕の住んでいた家(もう焼けちゃってないけどね)は、それなりに裕福で食事の水準も高かったはず。ジュエレッタを所有できるくらいの財力があった。 それでも、こんなコース料理を食べたことってほとんどない。覚えているのは3回くらい。どれも、両親にとって大事なゲストが同席していた。 しかも、生のサカナと本物のハムがある。最初の日の晩御飯、これに僕は心の底から面食らった。 ニクや野菜はプラントで作られるから、マーケットやコンビニで、区に関わらず普通にどこでも買えるらしい(ジャンが言ってた)。 サカナとハムは高級品。居住区Aでも、毎日食べてる家庭は滅多にないんだって(これもジャンが教えてくれた)。 すごいお家にもらわれてきちゃったなー。 僕は、そんなことをオレンジ・ソルベをスプーンで掬いつつ考える。これは前の家でも食べたことがあるんだ。うん。同じ味で、ちゃんと美味しい。 「ラジィ、足の具合はどうだい?」 ラファエルが、スプーンを置き僕に聞いた。僕もソルベを中断し、スプーンを置いて手を膝に置く。 「とてもいいです。今すぐかけっこしたいくらい」 「はははっ、元気で何よりだ。しかしジャンはおじいちゃんだ。ほどほどにな」 「ジャンは、今日はお休み?」 「ああ、急なことでラジィに伝え損ねたね。ジャンにはショーを頼んだんだ」 「ショー?」 「ムーンライト氏だ。あの方のお願いはいつも急でね」 「ムーンライトさんって、ムーンタワーのオーナーのムーンライトさんですか?」 「そうだよ。今日から3日、ジャンは舞台のオープニング・アクトをするんだ」 見たい。すごく見たい。 「それ、何のショー?」 ラファエルは顎に手を当て天井を見た。メイドさんが溶け切ったソルベをさりげなく下げる。 「トゥーランド。オペラだよ」 湯気の立つアントレ。ビーフの焼き加減はレアだ。
15_Moon rabbit#03
—Why does Razi say I belong here? “I think I’m a child of nowhere, maybe.” —Are you lost? “Umm. Do you know where I’m going?” —Where do you want to go? “I don’t know.” —Me too. “Tee-hee.” pi. "Enjoy your time." Cocoa and shortcake.
15_Moon rabbit#02
「お帰りなさい、ラジィ」 「ただいま帰りました。お出迎え感謝します、おばあさま」 マリアンヌはにこにことラジエルの頭を撫でた。力加減がこそばゆい。 「レイチェル様のご加減はいかがでした?」 「えっと……。僕と話している時は、とてもお元気そうでした。たくさん笑ってました」 「あら!そうなの?それは良かったわ」 よくやりましたね、えらいわ。そう言ってハグ。香水が少し強いが許容範囲、と鼻の代わりに目を瞑る。 「今日は疲れたでしょう。ジャン、この子に何か、甘いものを」 「かしこまりました、奥様。ラジエル様、こちらへ」 「おばあさま、ごきげんよう」 「いい子ね。ええ、ご機嫌よう。また明日の朝食でね」 「おばあさまは、毎晩どこへ行ってるの?」 「様々にございます」 「今日は?」 「ガニメデでございます」 「えっ、ホント!?」 「ホログラム会談を」 「なーんだ。ホントにロケット飛ばすのかと思った」 「じいやのジョークはいかがでしたかな?」 「ほら、真面目な顔して言うんだもんね」 ピピッ。 「さあ、お疲れでございましょう。お飲み物はいかがいたしますか?」 「アイスココア、ある?」 「クリームは?」 「いらないかな」 「チョコレート?ビスケット?」 「えーと、ショートケーキある?」 「もちろんでございます」 すぐにお持ちいたします、とジャンは部屋から出て行った。電子音はしたが、鍵は開いたままだ。 「この家の子って感じ。ね、アメ」 ラジエルはソファにぼすんと座って向かいに言った。インクルージョンの瞳に虹の雨が見える。
15_Moon rabbit#01
「ラジィ、何歳?」 「9歳と3日」 「お誕生日だったの? トピー、Refill.」 ""Happy birthday!”” レイチェルに声を揃えて言った、彼女のジュエレッタを僕は見る。トパーズ・ガールのトピー。金のボディと金の髪。悪戯っぽい目元と口元。なんだかすごく。 「人間みたい」 「でしょ?故障かしら?」 レイチェルは赤い瞳をにいっと細めてくすくす笑った。トピーも、コマンドもなく同じように喉を鳴らして笑っている。 第1層2区医療エリアSouthブラウン博士の研究所。令嬢レイチェル。 ラジエルは気が遠くなるような入室工程を経て、彼女の世界の全てである無菌室で過ごしていた。理由には複数方位からの事情がアザナエルナワノゴトシで絡み合っているらしい。 が、トドノツマリ、ラジィがここにいる理由の大部分はラファエル・ホワイトの面子を塗り固めるためである。 ラジエルとしては外出は願ったり。しかもその相手が大人ではなく年の近い、しかもかわいい女の子である。 「故障も悪くないね」 レイチェルは肩を竦め、ませた感じで微笑んだ。目があってどきりとする。 「あなたって優しいのね。ラジィ。私は13歳と3ヶ月。4歳くらいおねえさんね」 「おねえさん、って読んだ方がいい?それともレイチェルさん?」 「あはは!ラジィはおもしろいね。なんでもいいわ。呼び方なんて」 あ、でも、とレイチェルは天井を見た。ラジエルは彼女の視線の先を追う。この上なく白い天井しかなく、見つめていると目がチカチカした。 「ウサギちゃん、だけはヤダ。サベツヨウゴよ」 「ウサギってなに?」 「地球の動物。寒い季節には体毛が白くなるの」 「へー」 「目が赤いのは、アルビノ個体だけ」 「アルビノって?」 「先天性白皮症」 「??」 「あたしみたいな見た目になるの」 レイチェルは肩先の髪を人差し指でくるくるいじる。真っ白な髪と真っ白な肌。まんまるい目はイチゴみたいな赤い色。 「ショートケーキみたい」 「え?ショートケーキ?」 「あ、いやだった?ごめん」 「ショートケーキって……、ぷっ、あはははは!!」 レイチェルはお腹を抱えて笑い出し、隣のトピーもケラケラ歌う。同じタイミングで同じように笑うから、姉妹みたいに見えてくる。 「えーっと……。ウサギの話だったっけ?」 「ふふっ、それはもういいわ。それより、ラジィ。これを見て」 「何?フォト?……あ」 「すごいでしょ?地球だって」 「この人、友だち?」 「そう。トピーを連れてきてくれたの」 「モリーってわかる?」 「知ってる。モリーは歌うんですって」 「レイチェルは、それ聞いたことある?」 「ないわ。だって、モリーはレニのだもの」 「レニ……」 金の鳥の人。
14_幼年期の終わり#05
“Raziel. This is for you.” “What is it?” “A gift to celebrate.” “What is he?” “He’s a Jewelon.” “A different kind of Jeweletta.” “Is he a Jewel?” “A Jewelon is made from inclusion jewels.” “Inclusions?” “They are rare. Little miracles.” “What’s his name?” Flavor: Faint Blueberry Polishing form: unbalance Emotion Content: 25% Raw Ingredients: Pallasitic Peridot and Spodumune Voice tone: echo Category: conversation Product Name: P.P.J(Pallasitic Peridot Juvenile) 「ピーピージェー?パラサイティック・ペリドット・ジュブナイル……」 ラジエルはジュエロンを見上げる。ほっそりとした少年型の宝石オブジェ。黄緑色のキウイみたいな瞳にも髪にも、無数の虹色ライン。それがキラキラ光ってる。 ウミ、ソラ、キリ、クモ?なんだっけ……。 「アメだ!」 『ボクはアメ?』 「え?……あ、そっか喋るんだ」 P.P.Jはクリアな瞳で首を傾げた。ターコと違ってロボットみたい。エモーション・コンテントは25%だ。ターコは75。 名前か。他に何も思いつかないし。 「うん、アメ。僕はラジィ」 『ボクはアメ。キミはラジィ』 「よろしくね」 『こちらこそ』 アメが右手を差し出した。握手だな、と僕は握る。リシア輝石は今にも割れそうに澄んでいた。
14_幼年期の終わり#04
It’s still heated. Lines. Stars. Bubbles. Feather. Not equal. Not perfect. Irregular. Lacking. Incompletion persists. Jewelon.
14_幼年期の終わり#03
お墓みたいな場所だなあ。 僕の感想。初めてサロンに案内された時のこと。 「好きに出入りしていい。ジャン。ラジィのこと、頼むよ」 「はい。ぼっちゃま。ラジエル様、こちらのお部屋のロックは私がお預かりしております。ウォッチでお声掛けください」 「わかりました。ありがとう」 ジャンは執事長で、カッコいいおじいちゃんだ。カンフーの達人で、時々ショーに呼ばれるらしい。人間なのにすごい。 ラファエルとマリアンヌは、ジャンを僕の教育係に任命したらしい。身体の動かし方を習うのがいいんじゃないかって。確かにね。名案。 ジャンは寡黙だけれど、聞いたことには丁寧に答えてくれる。 「おじさまたちは、どうしてジュエレッタをたくさん買うの?」 「ステータスでございます」 「へえ、そういうもの?」 「異星への贈り物としても、一目置かれますゆえ」 「うん。そうだね」 ジャンは、僕にジュエレッタたちの名前とオプション、購入年月日を一体一体起動して説明してくれた。 Product Name: Elbaite Girl Flavor: Sweet and fresh Polishing form: Healthy Emotion Content: 68% Raw Ingredients: Molybdenum and Elbaite Voice tone: Pop Category: Run Serving Suggestion: Room Temperature in the refresh night 「この子、走るの?」 「左様でございます」 「どこを?」 「そのへんを、でございます」 「ええ?この部屋?狭すぎるよ」 僕がサロンを見渡し言うと、ジャンがくしゃみしそうな顔になった。くしゃみを待ったがしなかったので、僕はどうしたのか聞いた。 「内緒でございますよ、ラジエル様」 「喋る相手がいないから大丈夫」 「これからいらっしゃるジュエレッタにも、でございます」 「お、うん!わかった」 ジャンは片膝をついて、白手袋の右手をひげのあたりに当てた。 「少し前に辞めた侍女が、ラジエル様と同じことを申しておりまして。ジャンは驚いた次第です」 「ふーん、なんで辞めたの?」 「これは言っていいものか……」 「僕、口がカタイんだ。コランダムくらいにはね」 「絶妙でございますな」 ジャンは僕の耳元に顔を寄せて、囁き声で言った。 「ブタになる、と申しまして。ブタというのは……」 「知ってる、地球のカチクだね」 「ラジエル様は聡明にございます」 ジャンは立ち上がり、後ろに両手を組んで微笑んだ。 「その人、それからどうしたの?」 「よく働く娘さんでしたので、別の仕事に紹介しました」 「ジャンはいい人だね」 「執事ですから」 僕らの会話を、椅子に座ったエルバイト・ガールはスイカ色の瞳に映して微笑んでいた。
14_幼年期の終わり#02
ターコは火星に行ってしまった。 ターコイズ・ガールは、6歳の誕生日の、両親からの贈り物だった。大きな円柱形の水槽と一緒に、僕の部屋の中央に現れたジュエレッタのオプションは”Swim” ターコの踵には、大きな宝石があった。 水から出したら、立てないし歩けない。歩行機能のオプション追加は、ほとんどのジュエレッタで可能だけれど、ターコだけは無理なんだ。 だから、選ばれた。それを見て、僕が満足するように。 くそったれ、って思うよ。今でも。ぐちゃぐちゃにすりつぶされた悪意だ。いくら息子思いの親のパウダーでトッピングしても、こんな欺瞞は飲み込めやしない。 それに、そんなに簡単なことじゃない。 僕は2年ターコと過ごした。水槽の中にゆらゆら浮かぶ綺麗な女の人に向けて、僕は色々と話した。 どこから来たの? 何を見てるの? 寒くはない? ウミを知ってる? ここから出たい? 僕は、別にどこに行きたいわけでもなかった。 僕には、やりたいこともなりたいものもなかったから。 部屋から出られず、ターコと過ごすだけの日々。 別に虚しくもない。 ウォッチがあるし、ライブラリ・スクリーンもある。知りたいことはなんでも知れたし、見られた。 ターコと一緒にウミを見た。 ソラも。 モリも。 トリも。 ツキも。 それで、別に良かった。執事さんたちは無口だし、両親は僕に無関心だったから。 僕の世界は過去で、虚構で、生産性のないものだった。それで良かった。 未来は遠い。僕の脚には。 息子の脚を治すか交換することくらい、簡単にできたんだ。ジュエレッタのオプションよりも、少し高いくらいの手術費。それをしなかったのは、勝手にどこか行かれては困るから。 子どもが勝手に行くところなんて、2層のどこにあると思っていたんだろうか。今になっても謎思考。多分、子どもが嫌いな親だったんだろう。 両親は死んだ。その夜、僕はトリを見た。 “Why don’t you listen to a mermaid song?” ターコは火星に売られちゃったけど。 今でも僕は、聞かなくて良かったと思う。 “Mory sings me home.” モリー。歌うジュエレッタ。 「あの人の名前を聞いておけば良かったな」 金の鳥のお姉さん。笑い方がカッコよかった。
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縞模様の光の影

Who's Who

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白い大理石のテクスチャ

Jeweletta Catalog

-Leni and Mory-

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-Razi and Ame-

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