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「それは、レニ殿がラジエル様を救ってくださった、とマリアンヌ様とラファエル様がご理解されたからでございます」


ラジエルの家族を殺した私を、本当に雇っていいのか。


雇用についての最終調整でホワイト家に来訪した時、レニはジャンに聞いた。その答え。

「どういうことですか?」

テーブル上に展開された雇用資料のウィンドウ越しに、レニはジャンの顔を見る。彼は両手を机の上で綺麗に重ねた。

「アサシンがレニ殿でなかったならば、ラジエル様はご両親と同じ結末を辿ったと考えられたからでございますね」

それには私も同意します、とジャンは加えた。


クリストファ一家抹殺依頼。もう、1年近く前のこと。


レニは単独で屋敷に忍び込んだ。

カーの依頼書にあったターゲットは3人。

最後の一人を探し、エマージェンシーの鳴り響く屋敷を駆け回った。


「相手は子どもだよ」

「それでも、です」


屋敷のどん詰まり。渡り廊下の先の塔。駆け上がった扉の先にいたのは発光する水槽の前に座り込んだ子どもだった。


「見逃してくれた。助けてくれた」

ジャンの声。レニは口をへの字に曲げる。

「あの一件でのレニ殿の振る舞いを、我々はそう受け止めています」

そんなに綺麗なことじゃない。

そんなに単純なことじゃない。

どんなストーリーで塗り潰しても、レニにとっての事実は一つ。

仕事で人を殺した。

何の感情も介入させず、子どもから親を奪った。

救ったなんてとんでもない。成り行き。それだけのこと。

それに。レニは後で、少しだけ後悔したのだ。


「わからないわ」


殺したほうが良かったのかもしれないと。

それが誠意だったのでは、と。


「そういうところが、理由でしょうな」


しかしその後悔は、ジャンの存在を知り霧散した。この人がいれば大丈夫。レニは今になって、あの子どもの未来を奪わなくて良かった、と心から思った。


レニは、雇用契約書のサイン欄に記名した。ジャンが光学パネルを操作して、ウォッチに内容の写しが届く。


時給3リベカ。

週3日。

勤務時間は10:00〜19:00。

休憩1時間を含む9時間勤務。

昼食の賄いつき。

ボディーガード業務が発生した場合は別途手当があるそうだ。この上ない好条件。


「ジャン様は、ラジィがかわいい?」

「もちろんです」

「私をそこまで信用できる?」

「Of course. Yes.」

「どうして?」

「殺しはやめた、とおっしゃった。殺しをやめた殺し屋ほど、匙加減が信頼できるものはおりません」

経験則といたしましてな。ジャンはニヤリと悪戯っぽく口角を上げた。

「ラジエル様もすっかり懐いて。じいやは少しばかり寂しいですぞ」

20_夏への扉#01

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