17_ 縁の海のウィルオウィスプ#01
縁の海には鬼火が出る。
「オニビ?」
「火の形をしたゴーストよ。青白くて、喋るの」
「ふーん。それって熱い?」
「さあ?ただ、青い炎は赤い炎よりも高温よ」
「ジェニーは、それ見たことあるの?」
「ライブラリでね。イラストだったわ」
サマウェザーの昼下がり。僕はBエリアの公園で、キッチンカーのお姉さんとカイダン話をしていた。それにしても、カイダンってどういう意味だろう?上るのか下がるのか、どっちがクオリティの高い話になるのかが謎だ。後でジャンに聞いてみよう。
「ラジエル様。お待たせいたしました」
「ジャン!」
「ジャン様」
ジャンがクロを抱えて近づいてきた。無事捕獲できたみたい。僕はクロの毛並みを撫でる。つやつや。
クロはお屋敷の電気猫のうちの1匹で、昨夜のうちに脱走したのをジャンが探しにきたってわけ。業者の人に頼むことも多いんだけど、今日は僕が「探しに行きたい!」っておばあさまにおねだりして、ジャンと一緒に外に出たんだ。
マリアンヌは、子どもが外で元気に遊ぶのはいいことだって思ってるみたい。にこにこしてた。
「ジェニファー、アイスクリームを2つよろしいか?」
「喜んで!どれにしますか?」
ジェニーのポニーテールを左右に揺れる。彼女はキッチンカーに素早く乗り込み、ジャンがメニューをアップで表示した。
「ラジエル様はどれになさいますや?」
三角コーンにぽこんと乗った丸いアイス。ピンク、イエロー、ライトグリーンにライトブルー。ずらっと並んだ色とりどりのフレーバーは、宝石みたいにキラキラしてる。
「うーんとね。……この、ラムネって?」
「駄菓子の炭酸ジュースよ。甘さ控えめで、少しシュワっとするの」
なんか美味しそう。
「それにする」
「では、ラムネとピーチを」
「かしこまりましたー!そちらのパラソルでお待ちになって。ラピちゃん、ご案内!」
ジェニーが満面の笑みで腕を振った。カウンター前にいたラピスラズリ・ガールがこくりと頷き、スーッと席へ移動していく。
「元気そうで何よりです」
パラソルの下、アイスを食べつつジャンが言った。
「おかげさまで。ジャン様のおかげよ」
ジェニーがウインク。僕、ジャン、ジェニー、ラピスラズリの順でテーブル円周に等間隔で座っている。
「ラピスラズリも元気そうで。椅子に座って泣いているよりいいですな」
僕は左隣に座るラピスラズリ・ガールを見る。目があって、ラピは少し微笑んだ。透き通るクリスタルのボディと青く輝くロングヘアー。黒目がちの大きな瞳の、大人しそうなジュエレッタ。
でも、ファッションはジェニーとお揃いのポップなTシャツとミニスカートで、足の下には車輪がある。
「自走式のローラースケートをつけてもらったの。アイドルみたいでかわいいでしょ?」
ジェニーがラピの肩を抱く。小麦色の肌で表情豊か、全身で生きてる!って感じのジェニー。2人の外見は対照的だけど、なんだか姉妹みたいに見えた。
「ラジエル様も、ジュエレッタをお持ちなの?」
「えーっとね。僕はジュエロンのアメと一緒」
「じゅえろん?あめ?」
ジェニーが首を傾げ、ワンテンポ遅れてラピの首も傾いた。
「ジュエレッタなんだけど、ジュエレッタじゃないんだ」
アメのプロダクト・ネームは確かーP.P.J(Pallasitic Peridot Juvenile)ー
「うーんと。男の子で、インベーダー?インデント?インペリアル?なんだっけ、ジャン」
「インクルージョンでございます」
「そうそれ。よくわかんないけど、イッテンモノでキチョウっておじさまが言ってた」
「特注品ってこと?で、アメって名前なのね。アメはどんなことができるの?」
「喋るよ」
「へー。楽しそう」
「ラジエル様はアメ殿に懐いておいでです」
「面白いもん。アメもおやつが食べられたらなー」
「ほっほっほ」
「お友だちなのね」
ジェニーがにっこりして、僕はほっぺがかあっとなる。ジェニーはすっごく綺麗なんだ。
ラムネのアイスがシュワっと美味しい。しばらく食べることに集中。ほっぺの温度が元に戻って、頭が少しキーンとした。
「ねえ、ジェニー。さっきの鬼火の話を聞かせて」
「あれで全部よ。カイダンは詳しくないの」
「それはもしや、縁の海のウィルオウィスプのことですかな?」
「多分それ!ジャン、詳しいの?」
「怪談かはわかりかねますが、お話しできることはございます」
「聞きたい!」
ジャンは立ち上がり椅子を入れた。僕も椅子から降りて、背もたれを押して元の位置に戻す。
「では、帰ってから。アメ殿もご一緒に」
ジェニーとラピも立ち上がった。
「ラジエルさま。今度来た時、どんな話か教えてね。あたしも気になるわ」
「わかった!ジェニー、また来るね!」
手を振り、僕はジャンの後を追いかける。最近、ちょっと走れるようになったんだ。


