top of page

面会室の伊奈帆とスレインーガーネット・スターー

  • 執筆者の写真: μ
    μ
  • 7月26日
  • 読了時間: 1分

「彗星の色?」


 スレインは、おうむ返しで伊奈帆を見つめた。彼は、テーブルの上のチェスピースを指先で転がしながらこくんと頷く。


「すれすれを通って行った。その時の、カタフラクト装甲を掠めていった氷の色に似てると思う」


 この朴念仁にしては柄にもなく、詩人みたいなことを言う。


「それが君のやり方なのか?瞳の色を、星の色に例えるのが」


「やり方?なんの?」


「こっちを見てみろ。界塚伊奈帆」


「見てるけど」


「そうじゃない」


 蛍光灯が明滅した。ロールシャッハのように抽象化される影は残像。


 そうして見えた星の色。ああ、なるほど。


「太陽の1000倍か」


「どの星のこと?」


 伊奈帆の問いにスレインは口を歪めて肩をすくめた。

 
 
 

最新記事

すべて表示
新聞部の少女["Here we are"表紙SS]

雨上がりの庭は雫がきらきら光って、アニメ映画の世界みたい。花の名前はわからないけど、オレンジや黄色の花々は夏らしくてとても好き。  中庭の見える窓際席に一人で座り、私はメニュー表をまた広げた。もう注文は済んでいるのに、手持ち無沙汰で何度も開いてしまう。写真のないメニュー表はレトロな感じが物珍しい。左下の余白に、それほど上手ではない素朴なクリームソーダのイラストがある。  メロンソーダ、早く来ないか

 
 
 
灯台のコウモリ_9

夜光雲が星を覆い、灯台は闇に包まれた。人影は夜に溶け、虹彩の一つの赤と二つの碧が彗星のように光る。 「僕の左目の話をしようか」  伊奈帆は左目の眼帯に指で触れた。額を横切る斜めの紐は、ビショップの刻印めいて彼の容貌に溶け込んでいる、とスレインは思う。 「この左目について、君は一度僕に聞いた」  その時のことを覚えている。左眼をどうしたのか、と僕は聞いて、伊奈帆はそれに答えず僕の感想を尋ねた。 「は

 
 
 
灯台のコウモリ_8

三六六、三六七、三六八……。  一段一段、螺旋階段を上る。下から吹き上げる風に抱えた木箱がカタカタ鳴る。波の音は遠く、星の声が近い。  地下室には誰もいなかった。錠はなく、扉は簡単に開いた。テーブルからずれた位置の彼の椅子は、主人を失い途方に暮れていた。  三七〇、三七一、三七二……。  これで終わりかもしれない、という諦念と、これが始まりかもしれない、という願望。世界の中のいくつかの物語の交錯を

 
 
 

コメント

5つ星のうち0と評価されています。
まだ評価がありません

評価を追加
bottom of page