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Deep Sea Monster_6&7

  • 執筆者の写真: μ
    μ
  • 6月19日
  • 読了時間: 26分

6、船員

 

「彼の血液は、異常だね」

 伊奈帆はその言葉の意味を考えながら眼下の身体を見下ろした。ベッドサイドのガートルスタンドにぶら下がる二種類の輸液パウチから、上に向けた右肘裏に二本の針が刺さっている。仰向けに横たわる身体、洗い晒しのブルーの患者着の上衣を診察のためたくし上げ、胸から臍の辺りの素肌が見える。薄い胸。薄い腹。浮き出た肋。静脈の透ける肌の縦横を奔る無数の古傷。理不尽の痕跡が露わに残る肉体だった。

 船長室での会話の後、伊奈帆が船医である耶賀頼を呼びに出た数分の間に、スレインはまた意識を失った。気絶したスレインの様態を診て、先の言葉を発したのは耶賀頼である。

「異常?」

 伊奈帆が聞いた。

「色をご覧、ほら」

 耶賀頼はテーブルに広げた医療器具の並びから試験管を取り上げ、採取したスレインの血液を伊奈帆に示す。

「黒いですね」

 インクのような墨色だ。耶賀頼が首を振り、天井ライトに透かした。

「これがね。光を通すと、青く見える」

 伊奈帆は耶賀頼の隣に屈み見上げた。確かに、水面近く試験管の内側に残る血の膜は青味がかっている。

「伊奈帆君」

「はい」

 耶賀頼は試験管を戻し、スレインの衣服を整え布団を掛けた。

「マズゥールカ君から、地下室の話を聞いたよ」

 伊奈帆は、焼けと命じた部屋の映像記憶を呼び起こす。拘束具。解剖台。医療器具のずらり並んだステンレスのワゴン・カート。特注の用途不明の機械類。液体に満たされた薬品瓶。開きっぱなしで摘まれた書物。植物・昆虫のミイラ。ホルマリン漬けの人の部位。砕けた鉱石。蛍光色の液体が満ちた水泡を立ち昇らせる円柱形の水槽など。

「彼が屋敷から書物を焼かずに持ち込んだ件について、伊奈帆君は聞いているよね」

 伊奈帆は頷く。自称考古学者のマズゥールカは、貴重な書物を焼かずに持ち込んだと伊奈帆に報告済みだった。

「聞いてみてくれないか。…いや、僕も行って話をしよう」

 三日もあれば、マズゥールカは粗方の内容を解読、理解しただろう。

「赤い血を、青くする方法が載っていやしなかったか」

 耶賀頼は立ち上がり、伊奈帆も立った。伊奈帆は一度ベッドの顔を目に映し、眠りの深さを見て取った。船長室の扉を外側からロックして、二人で、学者の部屋に向かう。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「吸血鬼を、造り出そうとしたらしい」

 船長室の二倍ほどの面積の部屋、扉以外の壁面は本で埋め尽くされている。船には専用の図書室があるが、それとは別の学者の趣味の蔵書である。本の大きさも種類もジャンルも時代も様々で、棚に収まり切らない本が床に小山を形成している。点々と見える床を慎重に辿り、辿り着いたソファ―――座面と床の間に本がギュウギュウ詰めになっている―――に伊奈帆と耶賀頼は腰を下ろした。

「人体実験をしたんだな。被験者が生きて、この船に乗っているとは驚きだ」

 マズゥールカがデスクに本を並べ、栞を挟んだページを手に持ち伊奈帆と耶賀頼に向けた。身体と腕をいっぱいに伸ばして、伊奈帆はそれを受け取った。カラーの図説がある。

「焼けと言ったのに、よくこれを持ってきてくれたね」

「言いつけ通り、ほとんど全てを焼きましたがね」

 マズゥールカは両手のひらを肩の近くで天井に向け、肩を竦ませウインクをした。

「学者の性か、書物を焼くのは忍びなくて。内容を攫ってみると、活版ではない、手書きの複写だ。希少価値も高い古本だったから」

「医療用のテクニカル・タームのオンパレードだ。著者は医者か、かなりのマニアだね」

 耶賀頼が文字を追いつつ言った。マズゥールカは頷き、デスクの本を積み上げた。

「たったの五冊ですがね。こっちは歴史書の体裁のやつ、これは占星術、これは黒魔術、こいつは画集。先生が読んでいるのが一番情報量が多いね。テーマは全て所謂ヴァンパイアがテーマの希少本。予感じゃないが、いつか必要になるかもしれない、と思って、これだけ運び入れたんです」

 耶賀頼が白衣の胸ポケットから鉛筆を取り出し、紙はないかと尋ねた。マズゥールカはデスクの引き出しから真白の紙を数枚寄越し、罫線入りの用紙が伊奈帆を経由し耶賀頼に渡された。

「本当に、人をモンスターに変えたとマズゥールカさんは思うかい?」

 伊奈帆は聞く。脳裏には、眠るスレインの青褪めた顔色と、試験管の青みがかった黒い血が代わる代わる浮かんでいた。

「こんなことされたら、普通の人間は死にますよ」

 間髪入れずに言葉が返り、失礼、と彼は椅子に掛けた。深く座り込み、皮張りの背凭れがギシギシ鳴った。

「ただの妄想、フィクションですが、奴は真に受けたのかもしれない」

 マズゥールカはそう言って、目を閉じ眉間を指で揉み解した。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 本を抱えて自室に戻る耶賀頼と通路を分かれ、伊奈帆は機械室に立ち寄った。船の推進装置を配置した区画、明るい照明に照らされた通路の先に、短く刈った金髪の後頭部が見えた。

「カーム」

 呼ぶと、彼は振り向き小走りに伊奈帆に近寄った。

「伊奈帆、あいつ、目を覚ましたって聞いたけど」

「うん。でもすぐ気絶した」

「なんだそりゃ」

 カームは外した軍手を作業着ズボンの右ポケットに突っ込み、軍手の指がイソギンチャクみたいに飛び出した。

「あいつ、スレイン、だっけ。どうする気だ?」

 発電機の近く、固定梯子の足かけ部分にカームは中腰で掛けた。伊奈帆は斜め向かいの機械のカーブに背を預け腕を組む。

「まだ決めていない。話し合わないと」

 いいやつだ。過去を変えることは出来ないが、未来に対して出来ることはしてやりたい。

 互いに対する蟠りが溶けた今、伊奈帆はスレインに対してそんな思いを抱いていた。

「デューカリオンの乗組員にするんじゃないのか?行くとこなんかないだろう」

 逃げ出して来たんだろ、とカームが身を乗り出した。伊奈帆は頷く。

「船に乗るなら、歓迎する。仕事を覚えてやってもらう。腕っぷしが強いから、戦闘員に加わることもできるだろう」

 だけどね、と伊奈帆はカームに首を振る。

「彼は“ヴァ―ス”に残ると言うかもしれない」

 レムリナへの献身とアセイラムへの思慕を思うと、その可能性は高いだろう。

 出来ることはしてやりたい。力になりたい。しかし、未来をどうするかの最後は結局、スレインが決めることだ。

「ああ、その可能性はあるか。あいつ、姫さんのいいヒトなんだろ?」

「そんな俗っぽい関係ではないと思うけど」

 伊奈帆の呟きに片目を細めて口を左右に引く表情で反応し、ライエを誘ってサロンに行くとさ、とカームは続ける。

「サロンのもう一人の姫さんも、口を開けばスレイン、スレイン」

 あ、とカームが天井を見上げた。伊奈帆はつられて視線を追うが、太いスクリュー・シャフトの回転が見えただけだった。

「レムリナ姫さん、まだあいつが女だと思ってるかもしれねえな」

「そうだね」

 それは伊奈帆も懸念している。どう切り出していいものか、言いあぐねて既に三日。

「少し、姫と話をしてくるよ」

「おう」

 挨拶代わりにカームが拳を突き出したので、伊奈帆も拳を軽く当てた。

「ああ、それと」

 三歩歩いたところで、伊奈帆は本来の目的を思い出した。

「カーム、パジャマとアップリケお願いしたいんだけど」

 カームが歯を見せ笑い。腕まくりのジェスチャーをする。

「お、久々だな。点検整備しておく。数は?」

「三機」

「了解」

 靴音が高らかに鳴る。発電機も駆動装置も、無口にそして粛々と自らの役目を果たしている。白い電気照明が曲線の多い機械の表面を厳かに暴く。

 この場所は、世界で一番静かで明るい機械室に違いない。

 

 ――――――――――――――――――――

 

 サロンの巨大水槽の前にライエがいた。

「なんだ、ここにいたの」

「いちゃいけない?」

 ライエは気だるげに頬杖をつきそう言った。水槽前の猫足のカウチに体を半分横たえて、座面に置いたハードカバーを捲っている。その家具の本来の位置は壁際である。移動させたらしい。

「スレインは?」

 内部に段差を拵えた丸型水槽。肩から上を水面に出し、レムリナが聞いた。伊奈帆はカウチの近くに歩み寄り、ライエの足側の肘置きに軽く腰を預ける。ライエが身を起こし、伊奈帆の反対側に体を移動させて座った。

「目を覚ましたけど、またすぐ意識を失った」

 レムリナは、しゅんとして肩を落とした。ライエは何も言わず、伊奈帆をレムリナを順に見つめた。

 襲撃の夜。ライエが操縦するボートが伊奈帆、レムリナ、スレインを母艦に運んだ。操舵技術も一通りこなすが、彼女は純粋な戦闘員。無駄口を叩かず、皮肉屋で、見せる表情は厳しい。しかし、本来は優しい性分の女性なのだ。レムリナの境遇に同情したのか、非番の時には、こうしてサロンで過ごしているらしい。

「レムリナさん。スレインのことだけど」

「はい」

 真剣な眼差し。伊奈帆は言葉に窮し、腕を組む。今後の話をする上で、はっきりさせておきたい事項が一つある。船医の診察で簡単に露呈したスレインに関する幾つかの事実。レムリナとは何度も話をしたのだが、これまでの経緯と海賊稼業とデューカリオン、“ヴァ―ス”の伝言、アセイラムについて。さらには食事、水槽の居心地など。しかしスレインのことについてはどうにも話しそびれ、そのうち、目を覚ましたら、話をしてから、と即断即決即実行の伊奈帆らしからぬ先延ばしをしてしまっていた。

 伊奈帆は物理的に首を捻り、首の後ろを右手で搔く。こういう、デリケートな話題は苦手分野だ。

「あの人は…、うん、ええと。…どう言葉にしたらいいのかな。スレインは、あんな服装だったけれど」

 レムリナが意を得た、との表情を浮かべあっさり頷きこう言った。

「ああ。男の人なのでしょう?」

 伊奈帆は拍子抜けして口を半分開いてしまった。ライエが伊奈帆の顔を見て、愉快そうに喉で笑った。

「えっと、知ってたの?」

 ライエがくすくす笑っている。冷静沈着無表情で知られる船長が、年相応に間抜けな姿を晒すのが可笑しいらしい。久しぶりに彼女の笑顔を見たな、と伊奈帆はライエを見て思う。

「当たり前じゃない」

 レムリナもくすくす笑っている。海辺の泣き顔よりも、笑っているほうがやっぱりいいな、と伊奈帆は思った。

「逃げる最中、ずっと彼の腕の中にいたんですもの。体つきと匂いで分かるわ」

「相変わらずの鈍感男」

 ライエの減らず口を聞き流し、伊奈帆はサロンを後にした。

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「貴方の話、一体どこまで本当なんです?」

 船長室に戻ると、スレインは目覚めて体を起こして本を読んで待っていた。読みかけの伊奈帆の私物、シャールの数学書だった。

 伊奈帆は部屋の中央デスクとセットの回転椅子に座った。

「どういうこと?」

 伊奈帆が聞くと、スレインは本を閉じて机に戻し、両手をシーツの上で重ね首を振った。

「目覚めた時、僕は混乱していた。全てを鵜呑みにしてしまった。けれど後になって考えて、貴方の話は荒唐無稽で到底信じがたいことが分かりました」

 頭が切れる。勘が鋭い。度胸と思い切りはピカ一。情け容赦のない足技。忠誠心と美学と涙。

 海賊として、悪くない。むしろ僕より向いている。

 スレインが鋭い眼差しで伊奈帆を真っ直ぐ見た。

「そもそもの話、海の底に行くなんて、人間には不可能ではありませんか?」

 それも、マリアナ海溝一〇,〇〇〇メートルの底と言う。

「そんな場所に生物が存在できますか?しかも、深海魚の類ではなく海底人という種族と貴方は言いました。僕には、想像つかない」

 伊奈帆は組んだ脚の膝に肘を乗せ、手の甲に顎を乗せた。

「論理的で、現実的な考え方だ。逆の立場なら、僕も多分そう言うね」

 スレインが三白眼で伊奈帆を睨む。伊奈帆は炎のような怒りの視線を正面切って見返した。

「やはり、嘘なんですね?海底都市“ヴァ―スも”、海底人も、レムリナの故郷も。…アセイラムが、彼女の家族だという話も」

 語尾が荒く激しくなる。最後まで言い切って、スレインは咳き込んだ。長い間声帯機能は止まっていたのだ。発声には訓練が必要だろう。

「いや、嘘はついていない」

 スレインが落ち着くのを待って、伊奈帆は立ち上がり部屋の扉へと歩みを進めた。スレインの視線が伊奈帆を追う。

「“ヴァ―ス”は夢物語なんかじゃない。埃を被った、海洋ロマンのフィクションなんかじゃないんだよ。海底人全てが住まう深海シティ。古代のテクノロジーを血に宿す皇族。高度な発展を遂げた“ドーム”内の未来都市」

 伊奈帆は扉横のスイッチを押し部屋の照明を落とした。

「光の届かぬ海底都市へ、僕らを運ぶ方舟が、このデューカリオンさ」

 窓のない船長室の暗闇で、デスクの機材が蛍のように点灯している。伊奈帆は立ったまま、デスクのカーソルを操作した。キータッチの硬質な音が軽やかに室内を飛び交う。

「ここは既に、海の中。水深四,〇〇〇の深海層だ」

 デスク正面のガラス向こうのハッチが開く。スレインは眩しくて手を翳した。太陽光ではない。白色の電気照明で強烈に照らされたのは見た事のない深海の光景。上層から下層へのグラデーションの青。光る水に泳ぐ銀色の魚の群れ。悠々と舞うカイトのようなエイ。空を飛ぶ鳥のように自由に行き来する様々の魚たち。通過する大陸棚のなだらかな斜面には薄桃の珊瑚がきらめき、様々な色合いの海藻が水流に揺れるその光景。

「潜水挺は初めて?スレイン」

 伊奈帆は得意げに片目を細めた。

 

7、海底

 

 その提案を聞き、スレインはまずこう言った。

「冗談でしょう?」

 海の幸をふんだんに使ったメニューが並ぶ食事の席でナイフとフォークを皿に置き、次に彼は首を振る。

「正気ですか?」

 伊奈帆が淡々と内容を順序だてて説明し、スレインは腕を組んで首を傾げる。

「でも、そんなことが可能ですか?」

 様々な具体物の枝葉に分かれた説明を聞き終え、最後にスレインは困った顔で微笑んだ。

「貴方の話は冗談だったら面白いけど、真実の場合は冗談以上に信じられないことばかりですね。伊奈帆」

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

「いつになったらスレインに会えるのかしら?」

 頬を膨らませたレムリナの独り言が聞こえ、ライエは本を閉じて顔を向けた。

「具合、良くないみたいよ」

 伊奈帆の言葉を端的に伝える。診察のため、船長室と医務室を往復するドクター耶賀頼を何度も見かけているのは事実。

「助けてもらって、良くしてもらって、私が子どもじみたわがままを言っているのは分かります。でも…」

 この船に二人を乗せて一週間。レムリナは未だスレインとの再会を果たせていない。最後に見たのはボートの中のぐったりとした表情。起きて、寝て、また起きる。短いスパンの繰り返し。歩けないほど酷いのだろうか。戦闘の後遺症があるのか、それ以前の生活が祟ったのか。毎日の定期検診でやってくる耶賀頼に、スレインの様態を訪ねてもはぐらかされて要領を得ない。

「好きなんだ?」

 ライエの言葉に思考は遮られ、間隙の後言葉の意味を悟り、レムリナは勢いよく顔を上げた。

「図星?顔、赤いわよ」

 自分の頬に触れてみる。確かに、ぽかぽかと温かい。上半身の人の身体は発熱すると赤くなる。血が赤い証拠だ。

 レムリナは、正面のソファに座るライエに向かって微笑んだ。この乗組員の中で、今では友人と呼べるほど、一番親しい人間だ。

「スレインは、本を見せてくれたわ。夜更けが去って夜が明けるまでの短い間だったけれど、不幸な境遇を忘れるくらい素敵な時間だったわ」

 ライエはレムリナの声を聞きながら、サロンの内装と蒐集品を眺める。幅六メートル、奥行きは一〇メートルの室内の照明は天井に埋め込まれたパネルライトは穏やかな光で室内を照らす。

 貴重な海の生物の標本がガラスケースと額に規律正しく収められ、やや癖のある字でラベルが張られている。それらには、人魚に対する配慮のために今は覆いが掛けられていた。その他には、ライエの座るソファと同種の家具類が部屋の数か所に設置されており、印象派の絵画が数枚だけが突き当りの壁に飾られている。そして水槽を設置するために追いやられたビリヤード台と機械仕掛けの大掛かりなチェスセットがオルガンの近くにとりあえずの体で置かれていた。ライトグレーの光沢のある壁と、床を埋める毛足の短いアイボリーの絨毯は、博物館より素っ気ない。

 彼女が囚われていた場所は、ここよりよほど豪華絢爛で広く明るい一室だったらしい。しかしそんな部屋、きっと好きにはなれないわ、とライエは思った。

 レムリナに視線を戻す。彼女は優しく目を閉じて、胸の上で手を重ねた。

「それまで生きてきた時間が無意味に想えるくらい、スレインと過ごす時間は私の全てだったの」

 ライエは、ボートで迎えた際に見た、未亡人の溺死体のようなスレインの顔しか見ていない。その後の様子は伊奈帆伝いでしか知らない。

「明るいところで顔を見たい。声を聞きたい。話をしたいわ」

 力の限り逃げて、そして戦ったのだ。レムリナの熱っぽい視線の意味は、分からないでもない気がした。

「スレインに会いたい。それだけなの」

 その望みは、故郷へ変えることよりもずっと大切なことなの、と人魚は言って俯いた。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「いいんじゃないかな」

 時を同じく船長室で、伊奈帆は言ってうんうんと数度頷いた。

「鏡が無いので、自分ではよく分かりませんが」

 スレインは腕を上げたり脚を上げたり、後ろ身ごろを振り返ったり、様々なポーズで自身の身体を検めている。青の上下の患者着ではなく、白のシャツと黒のカプリ・パンツに着替えた。デッキ・シューズの足元は安定感があり、確かな回復を見て取れる。血の気の引いた顔色はお世辞にもいいとは言い難い蒼白さだが、浮かぶ表情は以前とは比べ物にならないほど明るい。

 レムリナと会うために、身支度を一通り整えたところだった。

「前よりいいよ。うん。結構イケてる」

 座って、と伊奈帆は椅子を勧めた。デスク前の回転椅子だ。

「なんか、言葉が乱れてません?」

「気のせいだよ」

 スレインがはにかみ笑いでそう言った。伊奈帆は彼の近くに丸椅子を引き寄せ腰を下ろす。スレインが脚を組んだ。ちょっとした動作も、おとぎ話に出てくるような、身分を偽った王子様のような風格がある。

 初見から常々思っていたことだけれど、スレインは美形だ。目鼻立ちのはっきりとした、端正な顔立ちをしている。病の気配が遠のき若者らしい服装をして微笑むと、爽やかで涼やかで、いかにも好青年な容貌だ。

「本当は、髪を切りたいんですが」

 腰の胸元のあたりまでの長さの髪は、首の後ろでリボンを結んでまとめている。サテン・リボンの濃紺がよく映える金の髪だ。

「仕上がりの保障をしなくていいなら、僕が切ってもいいけどね」

 やめておくのが賢明だ、と伊奈帆は両手のひらを天井に向けた。

「丁度別行動で。この船に今、ファッション通がいないから」

 スレインは何か言いたげに口を開いたが、何も言わずに首を振った。

「怖い?」

 伊奈帆が聞いた。

「少し」

 スレインが言って、膝上で組んだ両手の指を見た。

「会って、何を話せばいいのか。それをずっと考えています」

 スレインの胸元、第二ボタンまで開いた襟の間から、二つのものが覗く。父の形見のペンダント。ケロイド状の皮膚の傷。

「どうも、考えがまとまらなくて」

 出会ってまだ数日だが、伊奈帆はスレインとレムリナに対する見解を述べることにした。

「君は彼女を助け、君と彼女を僕は助けた。この関係に誤解はあったが悪意はない。そんなに難しく考えなくても、会えば全部上手くいく」

 スレインは問う目で伊奈帆をじっと見た。敵意はない。迷いもない。感情の凪いだ綺麗な眼差しだった。

「行きましょう」

「うん、行こう」

 スレインが立ち上がる。伊奈帆が案内のため先に立つ。

「彼女に会った後、船内を案内するよ。仲間も紹介する」

 歩きながら伊奈帆は言った。振り向くと、スレインは頷きはい、と返答した。

 

 

 

「スレイン!」

 サロンに足を踏み入れた途端、少女の声が名を呼んだ。

「噂をすれば影、ね」

 違う少女の声もした。スレインは前に立つ伊奈帆の肩越しに、サロンと呼ぶには無機質な一室の左手奥、水面が低い球体水層に身を乗り出す人魚の少女と、その前のソファで寛ぐ赤毛の少女の姿を認めた。

「ライエさん、出ようか」

 伊奈帆の言葉に、赤毛の少女が立ち上がる。

「命令しないで。そう思っていたところよ」

 伊奈帆とライエは、無言でサロンを後にした。扉が閉まり、一人と一人が残される。

 

 

 

 広い部屋に設置された水槽で、人魚の少女が自分を見つめる。あの屋敷の明け方に、何度も繰り返したシチュエーション。

 しかし、あの場所とは全然違うとスレインは思う。モノトーンの殺風景とも思える室内の光は眩しくないよう抑えられ、誂えられた水槽内部は尾鰭の悪い少女のために丸く白い小石で段差を作っている。底面に植えられた水草は瑞々しく丈夫そうで、水温計は彼女の適温を示していた。酸素は新鮮で、室温は涼しいくらいだ。

 いい場所だ。界塚伊奈帆は、よくやってくれている。

 スレインは、水槽の前に立ち、水槽の縁に身を乗り出したレムリナの顔を見上げた。レムリナは息を呑んで目を見開いてじっとしている。

 スレインはゆっくり一度瞬きをして、水槽に右手の人差し指を押し当てた。レムリナが、はっと肩を跳ねさせ縁から降りる。水槽床に尾鰭をたたみ、水槽内部から彼女はスレインの指に目線を合わせた。

 スレインは人差し指を、カーブを描くガラス面に滑らせる。レムリナから見て意味を為す、鏡文字の軌跡。

 ―――レムリナ。

 指で彼女の名を呼んだ。レムリナは唇を引き結び、彼女の瞼が水中でふるりと痙攣した。彼女も指を押し付ける。反対側にカーブを描くガラスの壁に。水の中、文字を成す白い指は震えていた。

 ―――スレイン。

 彼女の両手が強く握られガラスの壁を力なく打つ。スレインは彼女の拳にガラスのこちらで手のひらを当て、彼女の肩の震えが止まるのを何も言わずにただ待った。

 

「スレイン…!」

 

 やがて水面に顔を出したレムリナが伸ばした手を握り、スレインは彼女の身体を引き上げた。

 

「レムリナ姫。よく、ご無事で」

 

 擦る背も、首に回った腕も手も、肩に抱いた彼女の髪も何もかもが水の光を纏い輝いた。

 

「スレイン…!良かった…、本当に良かった…!ああ、あなたも、よく無事で…!」

 体が離れ、顔を見る。レムリナは涙を流して微笑んでいる。泣き笑いだ。でも、それはきっとお互い様だ。

 一時は、夜に沈んだ空の瞳。今はこんなに晴れやかに青い。

 

「本の中の、どんな王子様より素敵だわ…!」

 レムリナが言って、全体重を掛けて力いっぱい抱きついた。

「えっと、その、…光栄です」

 スレインが返答に困りそう言うと、もう、馬鹿ね、と言いたげに彼女の尾鰭が水面に跳ねた。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「その言い方じゃ、人間じゃないみたい」

 ライエは欄干に肘をついた前かがみの姿勢で、斜め後ろの伊奈帆を見返った。

「青い血?ヴァンパイア?あんたたち三人、変なものでも食べたんじゃないの」

 サロン外を少し戻った通路の左右で、伊奈帆とライエは情報交換をしていた。

「どう見ても、ただの人間よ。イケメンの」

 スレインの特異体質についてのライエの所感に、伊奈帆は肩を竦ませ天井を見上げた。

「君の口から久しく聞かない、主観的な意見だよ」

 伊奈帆が順序だてて話したことは五点ある。

 

・血液を採取したところ、成分と色彩に異常が見られた。端的に言えば青い血だった、ということ。

・輸血により、裂傷、擦傷の回復速度が異常に速まること。

・味覚障害。味に対する感度が低下していること。

・本人から聞いたところでは、太陽光で酷く消耗するらしいとのこと。

・さらに、鏡に映る自分自身を認識できないということ。(しかし、伊奈帆と耶賀頼には鏡に映った左右反対のスレインが視認できた。スレイン本人は、自分の姿が見えないらしい)

 

「それ、マジなの?」

「マジだ」

 ライエは身体を翻し、伊奈帆に向き直る姿勢で手摺りに凭れ足首を交差した。俯き加減に通路の一点を見つめている。

「…どうすんの?そんなこと、あの子に言えやしないでしょう?」

 あの子、とはレムリナだ。ライエも相当入れ込んでいる。

 ライエも、か。そう。僕もだ。人のことはとやかく言えない。

「愛した男が人間やめたモンスター、ってさ」

 確かに、伝えられることでもない。

「知らないままでいいんじゃない?せめて“ヴァ―ス”に着くまでは…、いえ、その後も。人魚と人間の恋物語の方が、いい思い出になるわ」

 伊奈帆はしばし逡巡してから頷いた。

「そうかもしれないね」

 サロンの扉が開き、びしょ濡れのスレインが左右を見回しこちらに気付いた。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「水も滴るいい男って言葉があるけれど…」

 この目で見るのは初めてだったよ、と伊奈帆は忍び笑いを漏らした。

「流れと言うか、勢いで」

 スレインは既に着替えて、今は患者着の上下で伊奈帆の隣を歩いている。船内の説明中だった。その後、耶賀頼の診察をうけるスケジュールを見越し、この服装に落ち着いたのだ。

 

『君の部屋』

 

 最初に客室の一つを示され、これからのスレインの自室であると告げられた。伊奈帆の言葉をそのまま借りれば、「元気になったし」「信用できる」「そろそろベッドで眠りたい」とのこと。船長室でスレインの身柄を預かっている間、驚くべきことに伊奈帆は椅子で眠っていたらしい。スレインは呆れて、自分を客室や、耶賀頼の医務室に預けても良かったのでは、と純粋な疑問を伊奈帆に問うと。

 

『君が一人でおめおめ死んだら、二人の姫に合わす顔が無い。君が暴れて船員を殺したら大変だ』

 

 信用されていなかったんだな、と多少不満に思ったが、伊奈帆との出会いを考えれば致し方のないことではあった。

 

 客室から始まり、図書室、食堂、厨房、乗組員室のいくつか、医務室、そしてブリッジを経由した次の場所は機械室だった。

「ここは、機械室」

 視界を埋め尽くす巨大な機械の群れ。地上の、振動が激しく煩い機械と比べ物にならない静かな作動音。止まっているかのように動いている。機械の怪物が眠り込み、その体内に入り込んだかような奇妙な感覚。

「すごい…!」

「うん、すごいよ」

 伊奈帆は笑みを浮かべた。スレインは数日の間に、伊奈帆の無表情に慣れきっていたので、今の彼は相当機嫌がいいなと察した。

「電気だからね。ナトリウム電池。海水中のナトリウムと水銀」

 専門用語をぽんぽんぽんと投げかけられても何の事だか分かりはしない。伊奈帆は説明を続けたそうだったが、若い男が駆け寄って来て伊奈帆はそちらに注意を向けた。濃色の金髪がツンツン短い、作業着姿の明るい雰囲気の青年だ。鼻の頭に散ったそばかすが、一段と親しみやすい顔にしている。

「技師のカーム。君の声帯圧迫装置を外した」

「カーム・クラフトマンだ。よろしく」

 差し出された手を握る。胼胝の硬い、技師の手だ。

 スレインはカームに向かって頭を下げた。

「お世話になったようで、ありがとうございます」

 数年ぶりに自分の声を耳にしたあの感動を、カーム与えてくれたのだ。

「なんのあれしき。それはそうと、今度のパジャマは驚くぜ」

 カームは照れ笑いでウインクをした。

「パジャマ?」

「後で話すよ。じゃあ、カーム」

 なんのことかと首を捻るスレインの腕を伊奈帆が押して、機械室の扉に向かう。

 パジャマ?寝間着のこと?それとも何かの暗号か?

「伊奈帆。三機ったけど、お前とスレインと、あと一人は誰なんだ?」

 機?

「ライエさん」

「ああ。なる」

 ライエとは、レムリナと一緒にいた赤毛の少女だ。ライエ・アリア―シュ。自己紹介でびしょ濡れだったことが恥ずかしい。ライエは終始苦笑いを浮かべていた。聞けばスレインとレムリナを船へを運ぶため尽力してくれた恩人である。もっとちゃんとした格好で、と後で言ったスレインに、「ライエさんがあんなに笑っているのを久々に見たよ」と伊奈帆がフォローを入れていた。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「伊奈帆。貴方は、アセイラム姫とはどのようなご関係なのですか?」

 診察の後、自室となった客室で、スレインは食事の支度の整ったテーブルの対面に座る伊奈帆に聞いた。スープと前菜、メインの皿とパンとジャム。料理は出来立てではないが、冷めていない。最初の食事の時に聞いたが、これらの大部分は、小麦とワイン以外の食材は海の幸からなるらしい。スレインは、失っていた食欲が戻ってきたわけではないが、これらの独特な風味の料理については多少手をつけることができるようになってきた。それが栄養となっているかは心もとないことなのだが。

 手にしていたグラスの水を半分ほど一息に飲んで、伊奈帆はふむ、と頷き言う。

「命の恩人」

 スレインは姿勢よく座り、伊奈帆の言葉に真剣に耳を傾けている。

「お互い様だけれどね。僕が彼女を救命し、彼女もまた僕の命を救った」

 運命の歯車が、ほんの一瞬噛み合っただけ、と伊奈帆は思い出す。あれは、もう一年以上。十九ヶ月も前のこと。

「アセイラム姫に、僕は会うことができますか」

 スレインが薄青の患者着の上から胸の中心を握り締めた。アセイラムから伊奈帆へ、そしてスレインへと渡された古びた銀のペンダント。

 

『このペンダントの持ち主を、どうか探してくださいませんか』

 

 忘れ得ぬ人の子。いなくなった砂浜に落ちていたもの。人魚姫は、嵐の中で雷鳴を反射する銀を見つけて彼を救った。その彼に、一目会いたいという少女の願いを、その時の伊奈帆は複雑な気持ちで預かった。

「うん。一緒に行こう」

 今素直に、そんな言葉になったのは。お姫様の思い人が、思っていたより感情豊かで分かりやすくて、誰かの為になりふり構わず捨て身になれるお人好し。

 いいやつだ。だから伊奈帆ができることはしてやりたい。

 伊奈帆は冷製ポタージュをスプーンで掬いつつ新たな話題を口にした。

「既に太平洋、二日もあれば海溝の底に着く。でもその前に、散歩に行こうと思うんだ」

 スレインは首を傾げた。伊奈帆はスープを啜っている、

「散歩?陸地に戻るのですか?」

「いや。海の底を歩く。水中散歩」

「冗談でしょう?」

 スレインが大きな声を出して、伊奈帆は匙を脇に置いた。

「いや、本当だけど」

 水深一〇メートルの大陸棚の平原を歩くんだ、と伊奈帆がホエー・ミルクで練ったパンに手を伸ばしつつ簡単に告げ、スレインは信じられないものを見る目になった。白昼の幽霊を見ても、こんな顔にはならないだろう。

「正気ですか?」

 パンをちぎって口に放り込む。噛んで飲み込み口を開く。

「いたって正気。重力の影響が無いから、陸の上より快適だ」

 伊奈帆が淡々と内容を順序だてて説明し、スレインは腕を組んで首を傾げる。

「でも、そんなことが可能ですか?」

「疑り深いね。ま、僕も逆の立場なら、同じことを言うだろうけど」

 伊奈帆はハンド・ジェスチャーをするためパンを置いた。

「潜水服にタンクを背負って歩くんだ。柔軟性のあるスーツはガラス製のヘルメットと隙間なく接合できる。エンリッチド・エアを高圧で満たしたタンクは引き金を引くとバルブが開いて、潜水服内部に空気を送り込む。この仕組みで、水の中でも息ができるんだ」

 その後も続く伊奈帆のマニアックな講釈が続き、スレインはそれを聞きつつ自身の食事を進めた。説明が終わる頃、テーブルの上には空の皿が幾つも並んだ。

「貴方の話は冗談だったら面白いけど、真実の場合は冗談以上に信じられないことばかりですね。伊奈帆」

 スレインは眉をハの字に下げた何とも言えない表情で口元に笑みを浮かべた。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 翌日、スレインは伊奈帆に連れられ機械室の近くの一室を訪れた。扉を開くと先客がおり、スレインはあっと声を上げた。

「レムリナ姫…!それに、ライエさん」

 モス・グリーンの潜水服を着用したライエと、運搬用荷車に乗せた小型水槽に尾鰭を伸ばしたレムリナがいた。

「なんだ、話してなかったの?」

 ライエがツン、と伊奈帆に顎を向けた。

「伊奈帆、まさか姫も?」

 スレインが隣を見ると、伊奈帆は壁にかかった潜水服を取り外しているところだった。

「水深一〇メートルの浅瀬なんて、姫は初めてだって言うからさ」

 すっとぼけた顔で両手に持った一着を押し付けられ、スレインはそれを受け取り順繰りに顔を見る。

「水中散歩も、悪くないわよ」

 ライエはシニカルに微笑み。

「スレインと海の中を泳げるなんて、嬉しいわ」

 レムリナは目を細めて声を弾ませそう言った。

「着替えるからさ、出てってくれない?」

「あんた、女子?」

 伊奈帆とライエがちょこちょこ話し、ライエはレムリナの台車を押してさらに奥の部屋へと移動した。

 

 

 潜水服、ヘルメット、タンク、ライトを身に着け奥の部屋に四人が揃った。とても狭い。伊奈帆だけ銃を持っている。密閉性の高い装備のため、互いの声は聞こえない。

 伊奈帆がスイッチを押して、船内側の扉が閉じた。照明の無い完全な暗闇の中、足元からスーツ越しに冷たい感触が上ってくる。水だ。腰、胸、ヘルメットの下方から上方。一室は海水で満たされた。

 船外側の扉が開く。水流が体を押した。

 海の底のその光景は、想像とは全く違っていた。

 とても明るい。太陽の光は水深一〇メートルを様々な濃さのプルシアン・ブルーに染め、グラデーションは上下左右前後に展開している。その透明度は素晴らしかった。

 伊奈帆が先に出て、スレインはレムリナに手を伸ばした。見るとライエも同じくしていて、レムリナは左右の手をそれぞれスレインとライエに引かれ船外へ出る。ヘルメットのガラス越しにも、彼女の顔が晴れやかな笑顔で輝いているのが分かった。

 伊奈帆の後に続き、海の底の砂を踏む。皺ひとつない海底の砂の上。スレインは一度振り返った。足跡一つ残っていない。太陽光を反射して、砂は白く輝いていた。


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