「お、リックー!」
「ピッポ、こっち!」
セントラル・ターミナルの改札前。レニは先に合流していたリックと、トロリーを降りて駆け寄るピッポを迎えた。
「レニ。彼はピッポ、僕の友達」
「よろしく、ピッポ。私はレニ」
「ひゃい!!よ、よよよ、よろしくお願いします……!!」
ピッポの第一印象は、ザ・学生。
癖毛の黒髪にミッドナイト・ブルーのつぶらな瞳。ファッションは白Tシャツとジーンズとグリーンのネルシャツ。靴はオレンジ色のスニーカー。
ピッポと並ぶと、リックが急に学生にしか見えなくなった。ボーダーのTシャツとジーンズでいつもと同じ服なのに、なんか不思議。
レニもいつもの通り。フィットサイズの黒Tシャツに、いつものジーパン。靴は赤白。今日は髪をサイドで結んだ。少しくらい変化がないと、という精一杯の洒落っ気である。
「ほわー……。ほんとに美人レトリバーだ……」
「レトリバー?」
「あっ!なんでもないっす!」
ピッポが慌てて両手を左右に高速で振った。地球の車のワイパーみたい、このジェスチャー、リックも前にやってたわ。えーと、なんの時だったっけ?
それはともかく、お友達に彼女を紹介するのにレトリバー?
「リック?私、犬は好きだけど、もっと他の説明ないの?」
「あーいいなぁ……。やんわり叱られたい……」
ピッポがなぜか嬉しそう。リックは自分の首の後ろに手をやった。
「ゴメン、それしか言葉が出なくて」
「かわいいとか、色気あるとか、あるんじゃない?」
「もちろんいつもそう思ってるよ!で、でも……、口に出すのは……」
「いや、なんか他にも色々言ってたぞ。アオハルとかベンベンとか、アサボラケとか」
「ピッポ違う。アハルテケとベンガルとアサギマダラだよ」
アハルテケって、前も言ってた気がするわ。金色のお馬さんよね。
ベンガルとアサギマダラって何かしら?
「どんな生き物か後で調べるわ」
「レニ、全部最高なんだよ」
「わかってるけど、アハルテケ以外は、私、初めて聞いたもの」
「あのね、ベンガルは猫で……」
「ふふっ。私、犬なのに猫なの?」
「いいなぁ……はんなり優しい年上美人」
駅構内を3人で歩く。左から、リック、ピッポ、レニの順。
「ピッポ。ライカのこと聞いた。なんか大変そうね」
「いや、まー外野が騒いでるだけなんで。ライカ本人はケロッとしてますよ」
ピッポはこめかみに手をやり、そのまますかっと空振りした。
「そうなの?なら安心」
「でさ、ピッポ。新事実が判明したんだ」
リックが少し屈んで、ピッポを横からから覗き込んだ。
「新事実?」
レニもピッポを覗き込む。ピッポはリックとレニの顔の間で3往復ほど顔を半回転させた。
「そのナンパ男なら私の知り合い」
「ええっ!?」
「で、僕の友達」
「ええええっ!?」
あっはっはっは、と両サイドで笑い、周囲の人が振り向いた。しまった。ここは駅でした。
「まさかナオキだったとはね」
「相変わらず、メガネに目がないんだから」
「おおお情報量が多い……!!どーゆーことすか??」
リックが左手をくるっと翻した。見えない何かが乗っていそう。
「ライカはナオキに保護してもらったんだよ」
「保護?」
「3層は治安悪いから」
レニが横から補足する。リックが頷く。
「メガネを掛けて歩くっていうのは、カモです、ってネギぶら下げて歩いてるようなもんなんだって」
ほえー、とピッポの右手がまた額の近くを空振りした。それ、リックもよくやってるなー、とレニはなんだか微笑ましい。
「ライカ、メガネ掛けてたのか?」
「ダテメガネ。変装のつもりだったみたい」
「ああー!そういや大学でも時々かけてる!リック追いかけてる時」
「え?」
ピタ。
…………。
「ふーん。なるほどね」
「あ……しまった、失言です。忘れてください」
「あのさ、ピッポ。それ、今言う?」
「ぷっ、あははっ」
「レニ?」
「レニさん?」
「あーおかしい。2人、失言の仕方がそーっくり」
リックが額に手を当てた。隣のピッポも、全く同じタイミングで全く同じことをした。
「あちゃー。なんかすんません……」
「……僕、気をつけるよ」
「気にしてないわ、かわいいもん」
「ありがとう、レニ。でも、かっこいいって言われてみたいなあ」
「あら。そう?」
「うん」
「そのうちね」
「やった」
「おおらか美人のおねーさん……いいなぁ……」
外はスプリング・ウェザー。最近春の日が多い。ウェザー予約が同じ人なのかもしれない。
「レニ。これからどうする?」
「アイス食べない?」
「いいね」
打ち合わせ通りの成り行きであるが、なんだか楽しい。秘密のミッションやってる気分。
レニは7時の方角を示す。2層Bエリアノース。
「ピッポ。私の友達も紹介する。アイスクリーム屋さんなのよ」


