「ワンピース一択よ」
「そーなの?」
その日の16時過ぎ。レニはナオミと5区のアパレルショップにいた。
平台にはキャンディーみたいにビビッドなシャツやブラウスが並んでおり、9頭身のマネキンはサマーウェザーのヘソ出しルックで決めている。
レニはこういう店は不慣れだ。クワードのハンガーを手持ち無沙汰に出しては戻す。
あ、これ。いいかも。そう思い、シアンブルーのセットアップをナオミに見せる。
「こういうのは?着回し効くから経済的だと思うんだけど」
ナオミは天井を見て肩を10センチほど上下した。
「ダーメ。男はワンピースが好きな生き物なの」
「そうかしら……」
今日のナオミのファッションは、タートルネックのサマーセーターとスラックス、オープントゥのハイヒール。色は焦茶と白と黒。
ハイネックなのにノースリーブとはこれいかに、とレニは言い出せずにいる。これがファッションだ、と言われればそうかもしれない。少なくとも、マネキンよりはイケイケである。
「着ていけばわかるわ」
「うーん、わかった」
よくわからないが、これはダメだったか、と元に戻す。ナオミの後を追いかける。移動が早い。あんなヒールで神技だ、と感心する。ナオミが、壁際のハンガーラックの一つ一つをカカカカカ、と5センチずつずらしながら口を開いた。
「レニ、サイズは?」
「M」
「号数よ」
ピタ、とハンガーがぶつかる音が止まった。ナオミがハンガーを一つ左手にキープ。
「なにそれ?知らない」
「うーん……。9号かな?身長は?」
カン、カン、とハンガーが鳴る。
「161」
ナオミがレニに顔を向けた。
「あはっ、背が伸びたねー。昔はこーんなのだった」
「ナオミったら。いつのこと?」
「うーん、10歳くらい?」
「みんなで暮らしてた時?ナオキの方が小さかったよ」
「レニこそ、いつの話?」
「13歳」
「その時は同じくらいだったよ」
右手を自身の肩のあたりで水平方向に動かす。レニは腕を組んで斜めに足を踏み替えた。
「いいえ。私の方が1.5センチ高かった」
ナオミが目を見開いて、首を傾げる。そしてくしゃっと歯を見せ笑う。
「追い抜かされたのが、そんなに悔しかったのね……」
「悔しくないもん」
あっはっは、と割と大きな声で笑った。店員が顔をこっちに向けたのがわかる。うーん、恥ずかしいかも。
ナオミは気にする様子もなく、またハンガーを左から右に送る作業を開始する。カン、カン。
「こっちに来てからよね。背が伸びたの」
カン、カン。
「14歳から3年で16センチ。関節痛がやばかった」
「ああ。言ってたね」
カン、カン。
「あの頃のレニは髪も短くて、男の子みたいだったなあ」
「そう?」
「間違えられたことない?」
「ある」
「ふふっ」
カン、ナオミがハンガーを一つ抜き取り、向きを変えてレニの視線に持ち上げた。
「これなんかどう?」
半袖のシャツワンピース。ウエスト位置で切り替えがあるだけの、オープンカラーのシンプルな作り。素材はコットン。
シンプルなデザインは悪くない。素材も夏らしくていい。でも。
「黄色?青がいい」
柄はなく、こってりとしたイエロー一色。こんな派手な色、物心ついてから着たことない。
ナオミは右手の人差し指をチッチッチ、と左右に振った。
「ノンノン、騙されたと思って試着して。靴は?」
レニは寝室の窓辺に鎮座する6500ルカの靴を思い浮かべる。キャンディ・バーでも3回履いた。スポット勤務の数時間ずつ。家でも履いて、足を慣らした。かなり履き込んだはず。
しかし、あれを履いてトロリーに乗る自分は想像の外である。
「ヒールは無理かも」
ナオミは、うーんと顎に手を当てる。
「リックくんの靴は?」
「スニーカー。ネイビーの」
「なら、レニもスニーカーでいいんじゃない?持ってる?」
「2コ。赤白のやつと黒のやつ」
「赤にして。いいんじゃない?学生らしくて」
「私は学生じゃないよ」
ナオミはふふっと笑った。今度は小さな音だったので、店員はスルーしている。ほっ。
「デート服は、相手に合わすものなのよ」
ナオミがばちんとウインクした。2、3個、星が飛んだ気がする。
「へえ。そんなもん?」
「ちょっとでもいい男に見えますように、って。せっかくデートするんだから、相手を格上げしないと」
なるほど、とレニはナオミの選んだ黄色いワンピース2サイズを受け取った。
「勉強になるわ」
7号と9号。レニは頭上に目を向けて、試着室のアイコンを探す。


