「よ、レニ」
「オッス、ナオキ」
「ははっ、なんだそれ」
21時40分。ナオキがカウンターに現れた。前髪のセットが少し変わった。ギャルソン姿が非常にサマになっている。
「いい仕事が見つかったって聞いた」
「うん。アイキドウのセンセー」
「なる。スジがいいって、バーチャンにしごかれてたもんなー」
「懐かしいね、それ」
「うん。食うもんなくて貧乏だったけど、あの頃みんな一緒で楽しかったな」
彼の交代要員としてのスポットだった。レニは引き継ぎはすぐ終わり、22時まで残り15分。
「ジェン、あの浮遊台車使ってるよ」
「そっか。ラピちゃんだっけ。元気?」
「最近、よく笑うって」
「へえ」
カウンターの内側に2人並ぶ。手持ち無沙汰にグラスの位置をなんとなく整えたり、トーションの折り目を直したりしながら定時を待つ。
「エミーも、なんか可愛くなったよ」
「そうかも」
エメラルド・ガール。微笑みを湛えた通常モードは最初からだが、ちょっとした所作が増えた。目を見開いてから首を傾げるところなんか、ナオミの仕草によく似てる。彼女が世話をしているのかも。
ナオミが、男性とカウンターの端に座った。距離感や声の高さが、なんだかやけに親しげである。
「ナオキ、あれ誰?」
「ねーちゃんの彼氏」
言われて改めて見ると、なるほど、そういう感じに見える。ブラウンのスーツに深緑ネクタイ。30歳前後だろうか。落ち着いた感じの優男で、紙の本を持っていそうなタイプ、という印象。
「へー。いい男じゃん」
「顔はまあまあかな?2層のボンボン。3日と空けず通ってんだ」
氷をグラスに落としながら、ナオキは肩を竦めた。レニは冷蔵庫からオーダーシートのドリンクを取り出し封を開ける。
「最初は、エミー目当てだと思ったんだけどさ。来店5回目くらいかな。あの席でねーちゃんに告白して」
「ワオ」
「明後日、セントラルでディナーデートだと」
セントラル・タワーのレストランは、本物の肉や魚が最高品質で食べられる富裕層向けの高級店である。
「ナオミは乗り気なの?」
「着る服ないって騒いでた。ねだって買ってもらったら?って言ったらビンタされたよ。2往復」
喜んで10着くらい買ってくれるんじゃねーかと思うけどなー、と言いつつナオキはドリンクをカウンターに滑らせる。そういうところなんだよな、と思いつつ、定時になったのでレニはバックヤードに向かった。


