シアンブルーのAライン。
ウルトラマリンのマーメイド。
ペールブルーのバルーンスカート。
ドレスは全部素晴らしかった。サイズも多少の誤差はあるにせよ、それなりにフィットしていた。
特に、バルーンスカートのドレスがレニはとても気に入った。
しかし今、レニはギャルソン姿でバーテンダーに従事している。
合う靴がなかった。
ハイヒールも、バレエシューズもミュールもブーティも、大きすぎるか小さすぎた。ちょうどいいサイズは全て貸し出し中。
レニの手持ち靴はそもそも無骨なブーツ2足。ゴム底のやつと反重力装置がついた高いやつ。
残念無念、とブルードレスに想いを馳せつつ、コリンズグラスにウイスキーを注ぐ。
ハイボールの注文が7割。100種類以上あるドリンク類で、アルコールはこれ1品。他のドリンクは、ボトルを開封して注ぐだけ。
4時間で5600ルカ。時給は安いが楽な仕事だ。あとはドレスが着られたら。
「レニ」
「ナオキ」
シルバートレイを腕に挟んだナオキが、カウンター越しに身を乗り出す。
「ごめん。この間。君の客とは知らなかった」
「眼鏡なんて売れるの?」
「コレクターがいる」
「なるほど」
「レニ、知ってる?」
ナオキは、肘をついてカウンターにもたれかかった。
彼の勤務時間は既に9時間超過。それほど忙しくもないし、と、レニは彼のブレイクに付き合うことにする。
「何のこと?」
「イースト・イースト・ダウンサイドが繁華街になんだってさ」
「それは知らなかった」
ナオキは右目を細め、額に垂れた前髪を掻き上げる。癖の強い黒髪が、ミラーボールの極色を艶っぽく照り返す。
「バーチャンち、無くなっちゃうや」
レニは消費期限が2時間後のボトルを開けて、2つのガラス・グラスに注いだ。
「そうだね」
1つをナオキの手元へ。もう1つを持ち上げる。言葉もなく、グラスの縁が音を立てる。
「時間だ。僕、行かなきゃ」
「どこへ?」
「月の石」
レニは目を丸くした。宝石店ムーンライト・ストーン。
「ジュエレッタ?」
ナオキはカーキのジャンパーを羽織りながら左目だけをぱちりと瞬く。
「中古品で50モニカ。EEDに客を取られちゃいけねえって、店長ローンで買ったんだと」
指貫グローブを装備しつつ、彼はシニカルに口元を歪めた。


