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7_不用品引き取り出張サービス

2251年2月。

すっげーお屋敷。こんなスーツで大丈夫か?

2層A-1-1ホワイト宅の前で、ナオキは自分の靴と服を確認した。
グレーのスーツと本革のローファー。店舗の制服であるジャケット。ネクタイは黒とグレーのレジメンタル。全部合わせておよそ8000ルカの古着である。ノーブランドだが、素材と仕立てはしっかりめ。シャツとネクタイはチェンジするが、知り合いの結婚式にもこれで参列する。一張羅というやつだ。

ま。業者なんだし、こんなもんだろ。ダンスパーティがあるわけじゃなし。

ピンポン。

「こんにちは。引き取りサービスで伺いました」

ガチャ。ウィン。

「お待ちしておりました。おや。店主さんですか?」
「はい」
執事のじいさん。ノッポでかっけー。アジア系だな。白髪のオールバックと髭が渋い。
灰色の目が、上から下に視線を送り、右手がその軌跡をスッとなぞった。
「スーツ姿がスマートですな」
「恐れ入ります」
「さ、こちらへ」
奥へ伸びる長い腕。なんかの武道の達人だろう。ボディーガードも仕事かな。なんでもできるハンサムじゃなきゃ、こんなお屋敷のバトラーにはなれねえのかもな。
「ジュエレッタですね」
「はい」
磨き上げられた床を歩く。硬質で、衝撃が反響する歩行感。本物の大理石っぽい。お掃除ロボが何台くらいあんのかな。


通されたサロン。壁際のソファに横たえられたジュエレッタにナオキは歩み寄る。
両目を見開いたまま、機能停止の状態に陥っている。額から顎にかけて、でかい割れ目が出来ていた。右の眼球が粉々で、奥の頭脳がまるっと見える。神経並みに細い配線が張り巡らされて、今は全ての電子信号が停止していた。
ひでえな、こりゃ。
「このジュエレッタ、どうして割れたんですか?」
執事さんは斜め後ろで首を振った。
「私は現場におりませんでしたので、目撃したわけではありませんが。リフィル・エラーと」
リフィル・エラー?初めて聞くな。
「どういうことですか?」
「このフローライト・ガールは、リフィルによって発光します」
「説明書あります?」
「こちらに」

Product Name: Fluorite Girl

Flavor: Sweet and Sour
Polishing form: Straight
Emotion Content: 12%
Raw Ingredients: Tungsten and Fluorite
Voice tone: Glass harp
Category: Radiation of light
 
Serving Suggestion: Room Temperature in the dark night

「再起動していいですか?」
「こちらも何度か試しましたが、どうぞ」
説明書の手順の通りに、耳の後ろのカバーを開く。六角の精密ドライバー2つで、そこにある2つのボタンを同時に押す。
3回やったが無反応。こんだけ衝撃受けてりゃそうだよな。
「リフィル・エラーって、どういう?」
執事さんは、おれの左隣に膝をついた。
「まず、リフィルと命じた。光ります」
こんなでっけーお屋敷のメインバトラーが、3層の業者にする所作じゃない。なんか意外。いい意味で。
「はい」
「発光した状態で、”Please wink.”とリクエストした」
ウインクしろってか。ジュエレッタを、キャバレー嬢かなんかと勘違いしてんのか?
「カテゴリはラジエーション・オブ・ライト。通じないでしょう」
「通常では」
「あ、ウインクしちまったんですか」
「左様です」
そんなことあるか?
「故障かな?でも、そんな誤作動あり得るか?」
じいさんが、ふっと笑った。灰色の瞳が室内を巡る。
「宝石の少女たちを毎日見ておりますとな。不思議なことが時々あります」
フローライト・ガールの他の、6体のジュエレッタ。ふわふわしたの。つるりとしたの。ニコニコ笑顔の。居眠りしてるの。真っ白の。あと、すばしっこそうなの。
壊れるまでは、フローラも、ここで一緒にのんびり暮らしてたんだな。
「勝手に動くのです」
なるほど。確かに今も、仕事を待ってる人間みたいに手持ち無沙汰に佇んでいる。目が合ったすばしっこそうなのが、ひらっとこっちに手を振った。
「へえ。この子たち、人と暮らして長いんすか?」
「一番古いものは、先先代からここにいますな」
「そうなんすか。学習効果かな」
「そうかもしれません」
ナオキは、ソファの上に視線を落とした。
「このフローラは、どんな子なんすか?」
「子供が好きな優しい子です」
「ウインクして、って言ったのは子供だったんですか?」
「はい。ガニメデの外交官夫妻へのサービスで会食に同席させていました。お嬢様は10歳です」
この子、直してやりてえな。
「不思議なことがあるもんですね」
「全くです。直りますか?」
けど、こんなスゲーの、おれの腕ではとても無理。
ナオキは首を左右に振る。
「僕には判断できません。電気動物なら修理の経験ありますが、ジュエレッタは取り扱うのが初めてで。購入店に運んで、修理を依頼しますか?」
「当主様は、引き取りのみを依頼しています」
老執事は立ち上がり、事務的にそう言った。
ま、そうなるよな。引き取りを依頼されて来たわけだし。
「わかりました。今から運び出すってことでいいですか?」
「お願いします。業務完了後、支払い金額をお知らせください」
「業務完了後、24時間以内にメールします」
ナオキは立ち上がり、ウォッチを操作しフローライト・ガールの寸法を取る。
「じゃ、台車で運ぶんで。梱包とか、少しバタバタします」
「お気になさらず。奥様も坊ちゃまもご不在です」
扉に向かって歩き出す。老執事の横を通り過ぎる刹那。
「店主どの」
「あ、はい」
呼ばれて振り向く。腰で手を組む、鉄骨みたいに真っ直ぐな後ろ姿。
「支払い金額の明細は、ざっくりで結構です。経理は私が担当しています」
「ざっくり、ですか」
白手袋の後ろ手は自然な感じに握られている。
「請求書の送付はいつでも構いません」
ここから顔は見えないが、微笑んでいるような気がした。
ナオキは天井を見て、うーん、と3秒考える。めっちゃ綺麗な色の絵だ。手描きかな。
「執事さんは、この子を直したいって言ってるように、僕には思えるんすけど」
「ほっほっほ」
イエス、ってことだな。「月の石」に直行して、ざっと見積もり出してもらおう。
「ははっ。後日、メールします」
「はい」

バタン。

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