35_ My moon.#06
「アメは、僕とレイチェルが結婚すると思う?」
夜の自室。ラジィはソファに三角座りで、アメの横顔に問いかけた。
アメの顔がラジィに向く。両目がパチリと瞬いた。解析モード開始。
「ラジィは、レイチェルと結婚したいのか?」
「うん」
「なぜ?」
「好きなんだ」
「結婚しなくても、好きでいていい」
「そうだよね。でも、ダメなんだ」
アメは首を左45°に傾けた。ペリドットの髪が額にかかる。インクルージョンの赤メッシュが、今日はなんだか血の色に見える。
「なぜ?」
「レイチェルに、触ることができないんだ」
「レイチェルは病気で、接触行動は彼女の生命を脅かす危険があるということ?」
「うん」
「なぜ、結婚になる?」
あ、それなんだよなあ。どうして、大人は誰も聞かなかったんだろう。
僕、それを考えたかったんだ。
「……口だけで好きって言うの、なんかずるい」
「なるほど」
瞳が、虹の雨になる。高速演算モード。
綺麗だなー。アメの目には、僕ってどう見えているんだろう。
アメが瞳に僕を映して、口が開く。
「僕は以前、ラジィに聞いた。どう愛す?と」
「そうだった」
それ、結構前。クララさまの舞台を見に行く前の日だ。
「ラジィは、壊れないように、あまり触らないようにする、と言った」
「うん」
「それは、今も変わらない?」
「うん」
アメは首を2回振った。
「ボクは、ラジィがずるいとは思わない」
「そうなのかな」
アメが腕を伸ばした。珍しい動作。というか、初めて。
アメの左手が、僕の右の手首をぎゅっと掴んだ。
「つーかまえた。より、触らない。の方が、ラジィの愛は深いと、ボクは思う」
アメの手は、硬くてひんやりしてて、人間とは違う。
「ラジィは、愛を消費しない。ボクは製品だ。けれど、生命があるかのように君は話す」
でも、人間みたいな触れ方だなって、僕は思う。
「触れずに愛されることは、人間にとって、結婚するより得難い愛なのでは、と想像する」
アメの手が、すっ、と離れる。アメの膝の上に、アメの両手はいつものようにすとんと置かれた。
「ラジィの愛し方は、ボクにはとても好ましい」
急に涙がポロポロ出てきた。止めようと思っても止まらない。鼻の奥が痛い。顔が熱い。目を、開けていられない。
今、わかった。
「……僕、レイチェルと、一緒に大人になりたいんだ」
肩に硬い何かが触れた。アメの手だ。
「ラジィ。それは、カナシイね」
「うん。僕、悲しいんだ」


