35_ My moon.#04
「おじさまは、結婚したいと思ったことはありますか?」
「急にどうした?ラジィ」
日曜日。朝食の卓。ラジエルとラファエルは、長テーブルの端と端で向かい合っていた。メニューはオムレツ、ベーコン、ベークドビーンズに焼きリンゴ。パンはバターロールとクロワッサン、ブリオッシュ。いつも通りのリッチなメニュー。完食を心がけているけれど、ベイクドビーンズにいつも負けちゃう。今日はなんか、他のお料理も入っていかない。
おじさまは全部食べ終わって、コーヒーのおかわりもストップしてる。何度かウォッチを確認した。あ、今も。
言わなくちゃ、と息を吸って口を開く。
「僕、レイチェルと結婚したいんです。今すぐ」
おじさまは、俯き加減で上目遣いに僕を見た。首を振る。
「…………それは、無理だね」
「子どもだから?」
「そうだよ。まだ早い」
「早いですか?」
「ああ。結婚は、16歳をすぎてから。それまでは、この家の子供らしくしなさい」
リンゴジュースをごく、と飲んだ。なんか、今日は濃い気がする。お水が欲しいな。
「……大人って、ちょっとずるい」
おじさまが、僕を睨む。ずっといい子にしてたから、こんな顔、初めて見る。
「ラジィ。変な口の利き方だ。よしなさい」
「ごめんなさい。ラファエルおじさま」
ぺこ、と頭を下げる。顔を上げると、おじさまはぎこちなく微笑んだ。
大人って、時々、僕より子供みたいだ。
「いいんだよ。大人になったら、ラジィとレイチェル様で豪華な結婚式をしよう。ハネムーンは地球だね」
そんな日が来ないって、僕が知らないと思ってるんだ。
どうして?僕、イイナズケだよ。
「…………」
大人になれないから、今すぐ結婚したいのに。そもそも、そこをわかってないんだ。
「ふむ……」
おじさまは、顎をぽりぽり指で掻く。おばあさまは、ほっぺたに手を当てる。
リックお兄ちゃんに会いたいな。お兄ちゃんは、僕の話を、ちゃんと全部聞いてくれる。
生きてるうちにレイチェルと結婚したいって言ったら、そうだね、って言ってくれた。
そうだよね。死んじゃったら、結婚できなくなるんだから。
なんでそれが、おじさまには、わかんないのかなあ。
「ごちそうさまです。僕、お部屋に戻ります」
パチン、と僕は手を合わせた。残しちゃったけど、もういいや。これ以上ここで、ご飯を食べる気になれない。
椅子から降りて、扉に向かう。おじさまが僕の名前を呼んだ。振り向く。気弱そうな表情で、おじさまは微笑んでいた。
「土曜日に私と母さんと3人で、クララ様の舞台を観に行かないか?」
「……はい」
「クララ様のステージは夢だ。ラジィも元気になる」
クララさまなら。2人きりなら、僕の話を聞いてくれる。
「……はい」
僕、クララ様に聞いてみよう。クララさまが、前に言ったなぞなぞの答え。
ーー愛は、トゥ・シューズのようなもの。
「僕、行きます」
「ああ」
パタン。


