24_ White Coal#05
「アメは約束破ったことある?」
「ない」
「だよねえ」
パジャマ姿でソファーにうつ伏せに寝そべり、ラジィは脚をぶらぶらさせた。今日はジャンがいない日なので、スーパー・リラックス・モードなのだ。
アメは、直角に位置するソファのこちら側のシートに座っている。ラジィの踵を追う視線が、ラジィの顔にピタッと移る。
「ラジィは、約束を破ったことがあるのか?」
「うーん、多分ない」
「多分?」
「約束をしたことがないんだ。覚えていないだけかもだけど」
「多分とは?」
ごろん、と寝返り。天井は、どうしてこんなに高いんだろう。
「僕が忘れている約束を、もしも誰かが覚えているなら……。約束を破ったことになる」
「なるほど」
アメがふむ、と頷いた。ジャンの仕草にそっくりで驚き。
「ラジィは約束がしたいのか?」
「うーん、わかんない。……あまりしたくないかも」
「なぜ?」
「だって、いつ会えなくなるかわからない」
「なるほど」
またふむ、と頷く。ジャンがいるみたいな気分になって、僕は起き上がってソファに座る。
アメが、何かに気づいたような顔で僕を見た。目をおっきくして、口をOに開いた顔。これは誰の真似かなあ。もしかして、僕?
「ボクと、何か約束する?」
「アメと?」
「ボクは、人間みたいに病気になったり死んだりしない。故障したら直せる。データのバックアップも可能」
じーんとしたけど、同時にすごく悲しくなった。
「ターコは急に会えなくなった」
だから、ぽろっと言っちゃった。泣き言はあまり言いたくない。弱い子みたいだ。
アメはトン、と指で自分のこめかみをノックした。
「ボクらのチップは、一度経験したことを忘れない。100年会えなくても、絶対に忘れない」
「リセットは?」
「リセットされるのは、表層的なデータだけだ。学習効果やデータベースは、マザーにしかいじれない」
そうなんだ。僕はただぼうっと、アメの顔を眺めた。
僕はターコを覚えてる。
でも、ターコが僕を忘れてしまっていたら?
僕にとって、家族と一緒に生きていた時間の、意味のほとんど全てがターコだったんだ。
「記憶で会える。約束は、人間にとって記憶を開く鍵なのでは?」
「そーかも」
会えなくても、覚えてる。
僕も。ターコも。
ターコは絶対忘れない。
なら、僕も忘れないよう毎日ちゃんと思い出そう。
水。
青。
宝石。
踵。
地球。
緑青の匂い。
立ち昇る泡。
そういうものに、いつもターコを思い出そう。
泣く気もないのに、涙がぼろぼろ出てきた。最近の僕、泣き虫だ。
「じゃあさ、アメもさ。約束しよう」
「うん」


