19_ あるいは水でいっぱいの海#02
—J&L Ice cream shop—
「都市伝説かと思ってた」
アイスクリームスタンドをアルコール布巾で消毒しつつ、ジェニーは肩を上下した。
「トシデンセツ?オカルトってこと?」
「ええ。実在していたなんてね」
居住区Cのジェニーのお店は、僕が住んでるお屋敷から実はそんなに遠くない。開店前のお店のカウンター。隣にラピ。奥にジェニー。冷凍庫からの涼しい空気が気持ちいい。
ウエストのAからCのイーストまで、歩いてほんの10分ってとこ。
「どんな話?教えて!」
「うーん……。ラジエルさま。ジャン様にはナイショよ?叱られちゃうわ」
ジャンは少し離れたところで、身体の大きな男の人たちと何かを話している。カンフーのことかな?
「僕、口が堅いんだ」
トパーズくらい、とジョークを言うと、硬度7はビミョーよね、とジェニーは返した。キレアジバツグン。だから、ジェニーと話すのが僕は好き。
「第3層には、DからZの居住エリアがあるんです。ご存知かしら?」
「なんとなく」
「あたしは、Sエリアの生まれなの。ラジエルさまのお屋敷に来る前は、Gエリアに住んでいたわ」
「へえ」
あまりよくわからないが、とりあえず頷く。全部で26の居住区があって、第3層には23のエリアがあるってことだな。
「観光地として開放されているのは、Jまで。ちなみに、ジュエレッタちゃんたちのお店はDエリアよ」
それ、絶対に行ってみたい。頭にブックマーク。後でアメと調べよう。
「で、ベルはどこの人?」
「Zです」
「ジェニーは、行ったことある?」
「まさか!」
ジェニーは両手をパッと両頬の横で広げた。目も口もまんまるい。なんか、変なことを聞いたかな?
「あ、ごめんなさい。ええっと、うーん……」
ジェニーは頬に手を当て、斜め上の方を見た。そっちにあるのはキッチンカーの天井棚だろうけど、何かを探しているわけではない。
「フクザツなんだ?」
「ええ、フクザツ。……XYZは、他のエリアと違うんです」
これは聞いちゃいけないやつだ。僕はジャンをチラッと見た。こっちを見ていない。セーフ。
ラピは瞳をうるうるさせてジェニーをじいっと見つめている。心配そうな感じ。
ジェニーはラピにウインクして、次に僕へニコッと笑った。
「歌姫ベルは、なんて言えばいいのかしら。アイドルみたいな感じ」
「そうなんだ」
「この100年ずっとね」
どういうこと?
「ベルは人間?」
「だとしたら、ものすごーくお金がかかるわ」
ジェニーは手の平を上に向ける。
「じゃあ、アンドロイド?」
「それって、ちょっとありきたり」
「ユウレイ?」
「集団幻覚でニュースになる?」
お屋敷のサロンがふと浮かぶ。
次にターコ。
銃撃の音。
破壊音。
ハスキーボイスの"Don’t move.”
『代わりに歌う』
窓から消えた金の鳥。
火星へ行った人魚姫。
「もしかして、ジュエレッタ?」
ジェニーの瞳がサファイアみたいにキラッと光る。ジェニーは笑った。
「それなら、少しステキかも」
「なんで?」
「なんでかな?多分、ラピちゃんが笑うのと同じ理由よ」
ラピを見ると、ニッコリかわいく笑ってた。ジェニーの双子の妹みたい。顔は全然似てないけどね。
「ジェニーはこういう話好き?」
「大好きよ。他人事ならね」
ジャンが来た。アイスクリームを二つ頼んで、ラピに連れられ僕らはパラソルの下に座る。


