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Come over[R_These Days]ワンルーム#05

2252年4月。バーンズ夫妻結婚祝いパーティーの夜。
C3エリア"アベニューC3"503号室


ガチャ。

スタスタ。

ペ、ペッ、ーーカチャ。

スタスタ。

ドサ。

「……火星行きは、子どもができたからだよなあ」

料理がたくさんあったのに、麦茶とフルーツ、セキハン一口しか食べなかった。
循環都市のムーンバレーには、厳しい産児制限がある。駆け落ちだったんだろう。火星の都市部は、テラフォーミングの最先端。ここよりずっと都会で住みやすいはず。

「結婚……」

レニと出会う前は、自分には関係のないことだと思っていた。でも、最近になってよく考える。

大学では、好きな学問を自分の好きにやっていればいい。恋やサークル活動を楽しんで、研究そっちのけになってる人も稀にいるが。
衣食住が保障された環境で、暮らしと切り離されたことをずっとしてる人間たち。社会を知らない子どもなんだ。

でも6区では、17歳の男なら、家族を養うのが当たり前。14歳や、もっと前から働いて、自分の暮らしを立てている。

なのに、結婚ができない。事実婚として、夫婦のように暮らすことはできたとしても、マザーの管理の外のこと。

6区の市民には、ウォッチはあるが戸籍がない。戸籍がなければ名前がない。

名前がなければ、パスゲートに阻まれる。ステーションを出られない。
セントラル・タワーの入場口は異なるし、所持品検査や通行許可のスタンプが必要。

名前が扉を閉ざすのだ。

レニは、ホワイト家や派遣の仕事をやっているからパスがある。だから僕らは、好きなときに好きなところで会えるんだ。でも、錯覚してはいけない。レニには、マザーに登録された名前がない。正確には、6区の移送で削除された。

僕らは分断されている。未来を約束するには、その隔たりが深いと感じる。

マザーに正式に夫婦として登録する方法は3つ。
第1に、双方がそれぞれ名前を獲得して入籍すること。
第2に、ファミリーネームを所持した人間と入籍すること。
第3は、ファミリーネームを所持した人物の養子となり、入籍すること。

なんにせよ、名前が必要。
名付けーバプテスマーを受けなければならない。
Aエリアの成人、もしくはマザー。たとえ成人しても、A市民でない僕にはできない。

レニは何も言わないけれど、結婚のことは考えているはず。
そうじゃなければ、過去の仕事を僕に打ち明けたりしない。

この人を損ないたくない。ずっと、それを考えている。

傷つけたくない。
奪いたくない。
笑ってほしい。
できることなら、僕の見えるところで健やかに生きていてほしい。


……結婚のことは、一人で考えていても仕方がない。二人で相談したらいい。


「……この部屋に、レニ、呼ばないと」

いつか、いつかと思って先延ばしにしているけれど、どこかで腹をくくらなければいけない。
好きとか、ずっと一緒にいたいとか。言葉だけなら、なんとでも言える。
実際一緒に生きていくなら、自分たちで暮らしを作っていかなきゃいけない。食べて、寝て、働いて。家族になっていくってことだ。身体全部で伝えなきゃいけない。

僕は、君の幸福な生存に、一生をかけてるってこと。

「……でもなあ」

深い呼吸と、背筋のアーチ。
全ての動きの滑らかさ。
笑うと見える歯の並び。
端正な指。
白い頬。
陽だまりみたいな長い髪。
くりんと丸いスミレの瞳。

僕の名前を呼ぶハスキーな声。

もう、全部が全部、奇跡的。
こんな素敵な女の子が、この世にいるんだなって。

見つめられると動けない。かわいくて、かっこよくて、セクシーで、すっごくきれいで……。とにかく、レニの全部に夢中になって、いつだって、まともに手も握れないんだ。

なのに、……えっと。
…………。
…………。
想像できない。想像しちゃ、いけない気がした。

耳を引っ張られただけであんなに舞い上がっちゃうのに。
その先……!?
……心臓、爆発しちゃうんじゃ?

「……かわいすぎて、無理なんだって」

メガネを外す。メガネを見る。フレームの金属を指で擦る。

J.K

あの無口で無表情でぶっきらぼうでとんでもなく気難しい父さんも、女の人を好きになって、結婚して、僕が生まれたんだよな。ちょっと想像できないけど、プロポーズだってしたんだろうし。

僕の母さん、どんな人だったんだろう。

「父さんも、やっぱりドキドキしたのかなあ」

プロポーズに、なんて言ったのかな。U - I < 2(2U - I)とかかもしれない。

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