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32_リバーサイド・レコード#06

「「「「「「「カンパーイ!」」」」」」」
6区イーストSエリア。ナオキの家。
正午きっかりのスタート。待つことも待たせることもなく、飲み物が行き渡った自然なタイミングでの乾杯。時間に正確な人が多く、こういう集まりが日常なのだろうな、とリックは思った。
ちゃぶ台と長机を連結したざっくり長方形の平面に、食べ物と飲み物が、文字通り隙間なく並んでいる。オードブルの大皿が4つ。中身は同じ、唐揚げ、ウインナー、フライドポテト、何かのフライ。サラダが2種類とフルーツの盛り合わせ。2カ所に設置された重箱には、薄ピンクのライスのみが入っている。セキハンというらしい。
それらの隙間を埋めるように、数種類のスナックとプラコップが幾何学的に配置されている。
この後ケーキも出てくるのだから、大・大・大ご馳走。こんなにたくさんの食べ物を一度に目にするのは初めてだから、すごく楽しい。
ちゃぶ台側の短辺で、ナオミが優雅に一礼した。
「みんな、今日はありがと。改めて紹介するわ。私の夫のベン」
「ベンです。よろしく」
ナオミの向かって左側の男性が、深々と礼をした。白地にブラウンのラインが入ったポロシャツに、グレーのチノパン。カジュアルなファッションだが上品に着こなしており、表情は穏やか。抑制された理知的な声に、文学部の教授を連想。
隣のピッポが両手を胸の前で組む。どこかの文化の祈りのポーズ。
「ナオミさん天女のようにお美しい……そして旦那かっこよー……」
「まるでマダム・バタフライの第1幕。文学的にお似合いです」
ナオミがベンの前から腕を伸ばし、ベンの隣のナオキの肩をぽん、と叩いた。
「これ、私の弟。ナオキ、あんたみんなを紹介して」
ナオキがこく、と頷いた。いつもは頼れる兄貴分で、自分よりも5歳は上に感じることがある。お姉さんの前では同い年くらいに見えて、リックはなんだか嬉しくなった。
「じゃあ、時計回りで順番な。僕はナオキ。ベン、姉貴をよろしく頼むよ」
「もちろんだ。ありがとう」
握手。ぱちぱちぱち、と温かい拍手がテーブルの周りで起こった。
「ほれ、次」
「ジェニファー。ナオミの友だちよ」
「レニ。ナオミはお姉さんみたいな感じ。小さい頃からお世話になったわ」
「リックです」
「ピッポといいます」
「ワタシ、ライカと申します」
ベンがナオミの隣のライカに向けて、体を前に傾けた。
「ライカって、『星の睡眠そして目覚め』の?」
リックはピッポを見る。小さい声で、先月、”星間ニュートン”に特集されたやつ、と教えてくれた。
「拙作をご存知とは光栄です」
ベンが前から右手を伸ばし、ライカはペこりとお辞儀をしてから右手で握った。
「あれロマンチックで素敵だったよ。論文というより詩だね。もちろんいい意味で。セントラルの学生だとは知っていたけど、こんなに可愛いお嬢さんとは」
「あ・な・た?」
ナオミがベンの右耳を引っ張る。……ああいうの、いいなあ。
「ああ、ごめんよ、ナオミ。僕は昔から失言が多くてね」
「あら。誰かさんよりずーっとマシよ」
ジェンがつーん、と顎を上げた。リックからは横顔しか見えないが、ぷんぷんしているのはどの角度からも確実にわかるだろう。
ナオキが慌ててジェンに体を寄せた。
「ジェン、そこは頼むよ。兄貴の前だぞ」
耳に手をやり、内緒話のジェスチャーであるが、困った声がリックはバッチリ聞こえたし、多分全員はっきり聞こえた。
ジェンは上半身を切れ味するどく回転させた。
「いーえ!あたしが太ったですって?」
「いや、それはその……」
ナオキにベー、と舌を出す。今にも胸ぐらを掴んで前後運動を開始しそうな雰囲気になったが、それはなかった。その代わりに、ジェンは膝立ちで片手を上げてポージング。
「「「おお〜」」」
「あ・な・た!?」
ライカとピッポとベンが拍手。ベンはまたもナオミに耳を引っ張られた。
隣のレニを見ると、目が合った。ふふっと、イタズラっぽく可愛く笑った。きっと、いつものことなんだろうな。
「このミラクル・バディが見えないっての?あんたもメガネをかけなさい!」
ナオキがジェンの隣のレニに向かって、ちょいちょい、と手を振った。
「おいレニ、ジェンに言うことねえだろぉ」
レニはコーラを一口飲んだ。リックもなんとなく同じようにコーラを飲む。糖分が多すぎるので常飲はしないが、たまに飲むと結構美味しい。
「私、親友に隠し事はしないの」
ナオキが次にリックを見た。オッケー任せろ、とリックは体を傾けて、ジェンの方へ声を飛ばした。
「ジェン。ナオキはね、すっごく綺麗になったって言ってたんだ」
「あらそう?どのへんが?」
ジェンがセクシーポーズを取ったまま、顔だけくるりと振り向いた。
「今の方が健康で安心するって」
「私も全く同じ意見」
レニがきっぱり言い切って、ジェンに深く頷いた。
「お……僕もです!」
「現在の数値はまごう事なきぱーふぇくと・ばでぃ。羨ましいことこの上なしです」
ピッポとライカも各位置から援護射撃。ジェンは天井を見上げ、うーん、と3秒。
「ふむ……。しょーがない!学生諸君に免じて許そう!」
「「「おー」」」
「ベン、すっごくノリがいいわ」
「うん。ちょっとピッポに似てる」
ナオキが床に左手をつき、体を後ろに傾けた。リックもレニの後ろに顔を出す。
立てた右手が顔の前。10歳くらいの、子どもみたいな笑い方。
「サンキュ、リック。おれたち親友な」
「とっくにそうだよ」
リックは空の右手を握る形で少し振る。ナオキも片目を瞑り、全く同じ動作をした。見えないグラスがわかったみたいだ。


「楽しいね。みんな学生?」
ベンがコップを片手に聞いた。色からすると麦茶っぽい。見ると、隣のナオミも麦茶だ。夫婦になると、食べ物の好みも似るのだろうか。それとも、もともと同じものを好きだったのかな。
ナオキがリックとピッポとライカにぶん、ぶん、ぶん、と腕を伸ばした。
「この3人。リックはレニの彼氏。今日は集まって来てくれたんだ」
ベンがグラスを振った。リックもそれに応える。
「リック、よろしく。君は何を勉強してるんだい?」
「イエス、ベン。えーと、長尺で話すことになるけど、いいのかな?」
「ねえ、リック」
「えっ?」
レニがリックの服の裾を引っ張った。くりんとした目がすっごく可愛い。
「レニ、なに?」
「私たち、ご飯を食べる時間が欲しいわ」
「うん、お腹ペコペコよ」
ジェンがひょこっと顔を出した。その向こうで、ナオキはニコニコ笑ってる。
「あ、そうだよね」
リックは笑った。見えないマイクのスイッチをオン。
「それじゃ、BGMがわりに。ナンバーはエリジウム・リバー」

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