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27.5_時計仕掛けのオレンジ#02

「ライカ・ベルカが6区に行って帰って来たって」
学食でラーメンを食べていたリックは、隣に座った友人の開口一番にハシを止めた。
「え?」
「なんか、親切な人に送ってもらって、無事に帰って来たらしい。ライカって、頭はいいけど危なっかしいとこあるじゃん?顔は結構かわいいし。何もなくて良かったよなー」
時刻は15:20。食堂は空いている。近くの席に人はいない。リックはそもそも、そういう場所を選んで座った。ゼミが長引いて食いっぱぐれた昼食である。1人で静かに味わおうと思ってのこと。
「ピッポ、どうして僕にその話を?」
だから、とりあえず理由を聞いてみる。ライカは有名人だが、親しいわけでは全くない。
ピッポがわざわざ、ライカの話にしに来たのはなぜだろう。
「ええ?そりゃおまえ……」
ピッポはワリバシを割る手を止めて、勢いよく顔を向けた。
「……いや、忘れてくれ。うん。この話は終わり。俺の平穏のために」
ナンマンダブ、と言いながらピッポはワリバシをパチンと割った。地球では木でできてるってほんとかな、とリックはハシを割るたびに思う。
ピッポがカレーを3口食べた。辛そうな顔をしている。やはりというか、水を飲んだ。親指と人差し指でつまんだスプーンを前後に動かしつつ、リックに再び顔を向ける。
「それよりリック。年上のガールフレンドと、どうなんだよ」
ラーメンが伸び始めているけれどまあいいや、とリックはレンゲに持ち替えた。スープを啜る。まだちょっと熱い。
「……今度の日曜、家に行くんだ」
「いつの間に!?へー。泊まり?」
「まさか」
「ちぇ、真面目だなー」
ピッポがカレーを頬張った。リックはレンゲでタマゴを掬う。
「な、どんな子?かわいい?美人?」
タマゴの味が遠のいた。もちろんレニは最高にかわいいし、きりっとしていて美人だけれど……。それを声に出して言うのは抵抗がある。
「レトリバーみたいな女の子だよ」
「かーっ、そればっか。何度聞いても全然わかんねーっつーの」
「ピッポは、僕の好きな動物を知ってたっけ?」
「猫じゃねえの?バイトしてるじゃん。てか、なんでも好きだろ。爬虫類も昆虫も微生物も」
ハシに持ち替え、麺をすする。伸びかけの麺は歯応えはないが温度はちょうど。冷めても伸びない麺はないのかな。今度、ナオキに聞いてみよう。
「実は、1番好きなのは長毛の大型犬なんだ」
ピッポがもぐもぐもぐとカレーを咀嚼しつつ、スプーンを再び前後に揺らす。
「うん、つまりだ……。今のキンドレッド暗号を解読すると……。レトリバーの彼女は、タイプど真ん中ストライクってこと?」
あははっ、と笑ってリックはハシの先を左右に振った。
「別に暗号じゃないし、タイプってだけじゃないよ」
リックは、ラーメントレイの横に置いていたメガネを掛ける。ピッポの姿がよく見える。今日の寝癖は左側だ。
「実はさ。……初デートで、僕このメガネ掛けてっちゃって」
「ゴホッ!」
ピッポは勢いよく咳き込んだ。カレーが気管に入ると辛い。リックは背中をさすってやる。
「サンキュ、……っておいまじかよ。今時そんなだっせーメガネ掛けてるやついねーって。せっかくのイケメンが形無し。引かれた?」
「ううん。メガネってどんな感じ?って。彼女、目がいいんだ。2.0」
「ふーん。リックなんて答えた?」
「……………………それでさ」
「なんだその間。やらかした?」
忘れたくないけど忘れたい。なんであんな恥ずかしいことを……。軽い男と思われなくて、ほんとに良かった。
「えーと、それは置いといて。デートの後さ。メガネとコンタクト、どっちが好き?ってメールで聞いたんだ。僕」
「お、リックにしてはストレートかつ大胆」
「そしたらさ、彼女の返信なんだったと思う?」
ピッポは腕組みをして天井を見た。気がつけば、ピッポの皿は空になっている。リックはスープを吸ってかさの増したラーメンに取り掛かる。
「メガネ姿も好きよ、とか?まさかメガネフェチ?」
ずず、と啜って咀嚼、嚥下。水を飲む。その間10回反芻できた。声に出す。
「Either is fine. Because you are you.」
横目でピッポを一瞥すると、ぽかーんと口を開けていた。うん、わかる。そうなるよな。
「かっけー……。全世界のメガネ男子が惚れる」
そういうピッポも使い捨てのコンタクト勢。家に帰ればメガネ男子だ。
「ね。僕、感動しちゃって。しばらく動けなかったよ」
ラーメンを啜る。麺が伸び切って、スープがほとんど無くなっちゃったな。
「かっこいいし、かわいいし。レトリバーなのにアハルテケでベンガルで、アサギマダラなんだ」
「アオハル……?ガルガル?アサギユメミシ……?うーん、俺には何が何やらわからんが、なるほど。ゾッコンなわけね」
水を飲む。塩分が高くついたせいか、すごく美味しい。
「うん。大好き」
「そこで照れろよ」
ごちそうさま、と手を合わせ、2人揃ってトレイを持って立ち上がる。

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