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32.5_The time has come.#02

「ナオにいーっ!」
「ん?ソルか?……ってあれ!ライカちゃん?」
「コンニチハ。ナオキさん」

午後2時。仕事場の店先に現れたソルとライカに、ホウキで掃き掃除をしていたナオキは目を丸くした。
今日のライカの服装はロゴの入ったオーバーサイズのタンクトップ、ストレートジーンズ。Lサイズのナイロンリュック。ボブヘアーを今日はハーフアップにしている。
アイテムそれぞれはいわゆる"オタクファッション"であるが、野暮ったくならず、活動的でフレッシュな印象。ボーイッシュで爽やか。
一言で言えば、とてもかわいい。初めて会った時の服もかわいかったけど、こっちが本人好きなんだな。しっくりくる。
「ライカちゃん。どうしてここに?」
とりあえず今あるゴミをチリトリにイン。3層は埃っぽい。毎朝掃除しないと店が廃墟になってしまう。
「20世紀のテーブル筐体があるとピッポくんから聞きました。居ても立っても居られず、大学から直接訪問です」
「連絡くれりゃあ迎えに行ったぜ。で、ソルはなんで?」
9歳のソルはえっへん、のポーズで仁王立ちした。イースト奥地のガキ大将で、この辺のチビの中では抜群に腕が立つ。
「ボディーガードに決まってんよ!ライカはナオ兄の彼女だろ?」
「かかかかかっ、かっ、彼女ぉ!?」
「おやおや」
「パフェをアーンしてたって、サ店のオヤジが言ってたぜ!」
「えーっとなー……」
「ふむ……」
…………。
「あ……、オレ、なんかマズった?わりー、ナオ兄!まじカンベン!」
「I understand. The time has come.」
ライカがきらーん、と擬音を発した。2人の視線がライカの顔にバキュームみたいに吸い込まれる。
「ん?ライカちゃん?」
「お!ライカ、かっこいー!なんかやる?」
ショッキング・ピンクのスニーカーがざっ!と地面を踏み締める。掃除したばかりなので、砂埃は一切立たない。
ピシッ、と人差し指がナオキに向いた。爪の形が楕円でかわいい。
「ナオキさん。今この場で、ワタシはアナタにコウサイを申し込みます」
「へ?」
………………。
ん?今なんつった?
えーと、コウサイ……?食いモンじゃねーし。
鉱滓、光彩、香菜、全然ちげーな。この流れで出てくるコウサイ……。
交際か!!
「……って、ええええ!?こ、こここ、交際!!??今、この場で!?」
ソルがヒュー!と指笛を鳴らした。音がでけえ。
「おーっ!!ライカ大胆!!フレーッ!!がんばれーっ!!」
「ソルくん。エールを感謝します。……ナオキさん」
「えっ!!??あ、ハイ」
ずずずずいっ。
あ、なんかこれデジャヴ。
「初めてお会いした日……。アナタはワタシにこの上なく親切にしてくださいました。あの時の会話を反芻するうち、いつしか心拍の乱れ打ち、体温の微上昇、上の空モードが発動するように。そして先日のパーティーにて……。段取り抜群のスムーズな進行。豪快な笑顔。繊細な気配り。時折ぐい、とやや斜めの真一文字に結ばれる口元。まさにラスト・サムライ。眉の角度も非常に硬派。さらに、アクセサリーzero なのに何故かチャラついて見えるイケイケファッション。カツシカホクサイはso cool.サブカル好きのガチのメカオタ……」
超早口。理解があっぷあっぷ。え?サムライ?チャラチャラ?イケイケ?
「……これ、おれ、褒められてる?」
「すげー褒めてる!!ガチオタサムライだってよ!ナオ兄、このこのー!」
「ソルお前褒めてんのか?」
ライカが両手でナオキの右手を握った。
「アナタの全てがワタシのストライクゾーンど真ん中を突き抜けました。ナオキさん。アナタは非常にクールです。あなたといるとワタシはとてもシアワセです。今日の服も素敵です」
右手が確保されているので、左手で自分の服を引っ張って見る。すげーでっかいシミがある。なんだっけこれ。あ、コーヒーだ。
「これ、コーヒーこぼしたTシャツと古着の作業着だけど……」
ぎゅ。
「シミの位置がセクシーです。あたかもオーストラリア大陸です」
「オーストラリアタイリク?」
「ふむふむ。これがコイハモウモク、ってやつか?」
「いいえ。ソルくん。正しくはアバタモエクボです」
「へーっ!ライカあったまいー!」
「そーなのか……?」
ぎゅ。
ぎゅーっ。
……手、めっちゃ力込めるなあ。
「ナオキさん。今、この場で答えをお聞かせイタダキたい」
「え!今、この場で?」
「Yes」
「え〜〜〜〜……………っと………………」
どうしたもんかな。
手をがっちりと握られたままである。一歩たりとも逃げられない。答えなければ、夜になってもこのままだろう。
ソルがナオキの脇腹を肘でつついた。
「……ちょいとナオ兄、女の子にここまで言わせてどーすんの?男見せろよ」
それはそうだが、それお前が言う?
「……おい、ソル。お前はおれのなんだ?アニキか?」
「弟子だっつーの!……なあなあ、ナオ兄見ろよ。……なっ、ライカはバリかわいい!そんで、むっちゃ頭いい!おにい、頭のいい子がちょータイプじゃんかー」
「うおおお!?おまえ何ばらしてんだ!!??まじで恥ずいからやめろ!!」
「お?もしや、タイプど真ん中ストライクですか?これは嬉しい」
きらりん、とヘーゼルの目が思いっきり輝いた。あー、なんかいいな。……じゃ、なくて。
これ、マジの状況か。
……。
…………。
…………。
…………うん。すげー好きっぽい。
「ライカちゃん!5秒だけ待って」
「「5.4.3……」」
「2人で数えんなってー」
…………よし。
握られた手に左手を重ねる。小さい手なのにすげー力。
「ごほん。えーと、……ライカ。僕でよければ、喜んで」
「アリガタキシアワセ」
「おー!!おめでとさん!!ヒューヒュー!!」

…………。

「あれ?キスとかしねーの?」
「キッスしますか?」
「今日はまだ……。えーっと、なんだ。……2人とも、昼飯食った?」
「はっ。失念していました」
「オレ腹減ったー」
「しょーがねーなー。おれん家来いよ。焼きメシ作ってやる」

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