「レニ!ヤッホー」
「よっ、リッちゃん!」
「エリー」
「やあ、ケン」
若いカップルが入ってきた、と思ったらエリーとケンだった。エリーはダボっとしたグレーのトレーナーにデニムショートパンツ。ケンはネイビーのスポーツウェアにグレーのスウェット。
「エリー。私服がかわいいわ」
「そう?いつもこんなん。動きやすいし」
「ケン、どうして?」
「オヤカタにそこで会ってさ。2人一緒にいるとこ見に来たんだ。レニちゃん久しぶり。元気してる?」
エリーとは先週会ったけれど、ケンとは随分久しぶり。多分、5年ぶりくらい。ヤンチャそうな笑顔は変わらない。
「うん。ケンはリックと知り合いなのね」
「この辺のドカタ、みんな知ってるよ」
「彼氏、背が高いねー!」
「リッちゃん、身長いくつだっけ?」
「177」
「レニは?」
「161よ」
「「おー!ちょうどいいー!」」
「リック、そうなの?」
「うーん。スタンダードを知らない」
「へへっ、お似合いってこと!俺たち、先にメシ取ってくる」
「お腹ペコペコ。たまには外で食べようって出てきたんだー」
「うん。ドリンク用意しとく。何にする?」
「「ウーロン茶」」
「ふふっ。かしこまりました」
湯気の立つチキンライスとピラフ、ウーロン茶を前に、ケンとエリーは両手を合わせていただきます、と同時に言った。
一口食べて、顔を見合わせニッコリ。なんとなくリックを見ると、今度もバッチリ目が合った。レニが微笑むと、彼も同じように笑った。
「リッちゃん、ギャルソン似合うなー。すげーイケメン。いつも作業着だからギャップすごい。ドギマギしちまう」
「ははっ。どっちもナオキのやつ」
「そういえば、ナオキくんと身長同じくらいだね」
「うん。この前スーツも貸してくれた。僕、服が全然なくて」
「リックくん、上の人なのに苦労人なんだねー」
エリーは、チキンライスのコーンをケンのプレートにちょんちょこちょん、とスプーンで移動している。ケンは、それをライスと一緒に口に運んだ。
「リッちゃん根性あんだぜ。毎週毎週、型落ちのトランシット担いで測量しに来てんだから。レニちゃん、今日もやってたんだよ」
「リック、そうなの?」
「うん。休みだから」
そういえばリック、今日来た時に大きな荷物を持っていた。あれは測量の道具だったのね。
毎週毎週……。ガッコウもあるし、バイトもあるし、私とデートもしてるのに。何も言わずに1人でやってたの、すごいなあ。
「ねえねえ。出会いがナンパってことは一目惚れでしょ?」
エリーがリックに顔を向けて言った。ケンがええっ!?と大きな声で仰け反った。
「リッちゃん、レニちゃんナンパしたん!?そんな奥手で!?」
「へへっ。うん」
リックがへらっと笑った。男の子と話す時は、こういう顔もするのね。なんだか新鮮。
「リックね。何の用?って私が聞いたら、特に用はない、今考える、って言ったのよ」
「あはは!なにそれー!」
「リッちゃんおもしれーなあ!」
リックが少し屈んだ。イタズラっぽい上目遣い。
「レニ、それ覚えてくれてたんだ」
「考えても、全然わかんないんだもん」
「ほら。Don't think, feel.」
考えるな。感じろ。
「あ、わかったわ!」
レニはぴょん、と飛び上がった。これのことね!なるほど!
「あははっ!2人、仲良いなあー!」
「リックくんは、レニのどこにビビッときたの?やっぱり顔?美人だからねー」
リックが、自分の首の後ろに手をやった。
「もちろん、顔も大好きだけど」
「お、じゃあスタイル?今日のドレスもセクシーだもんな!ミニスカ?」
「ちょっとケンー?」
エリーがケンの肩を小突く。ほっぺがぷくぅと膨れて、図鑑で見た子リスみたい。
「エリーむくれんなってー。服を褒めただけじゃん!」
「言い方よっ!ここから見えないスカート丈まで聞くんじゃない!」
「……」
チラッと横目でリックを見上げる。さっきのポーズのまま、向こうに顔を向けていた。
あ。耳が赤い。……うずうず。
「えい!」
「わっ!レニ?」
リックがパッ、と振り向いた。あ、耳だけじゃなくてほっぺたも赤い。
「リック、顔が赤いわ」
「あちゃー……」
リックはおでこに左手を当てる。体温を測っているんじゃないのはわかる。
「ミニスカートが好き?」
「……………………うん」
レニは、くるっとターンした。カウンター内部の狭い場所だが、タイトなドレスなのでどこにも引っかかったりしない。
「「おー!!」」
「わぁ……好きだなぁ……。……あ」
「えい!」
「わわっ!……あはっ!」
「あっはっは!イチャイチャしてる!」
「らぶらぶだねー!そんでそんで、リックくんは、レニのどこに一目惚れしたの?」
リックが、エリーとケンに向き直る。一度顔をレニに向けた。ニコニコ笑顔。
「身のこなし。身体の使い方がすごく自然で、僕、ポーッと身惚れちゃって。家帰っても忘れられなくてさ。何度かあの場所行ったんだ。でも会えなくて。で、次に見かけた時、チャンスと思って声かけたんだよ」
へえ、何度も私を探したんだ。初めて知ったわ。
「ナンパっていっても、初対面じゃなかったのかあ」
「うん」
「身体の使い方なら、私もリックの動きが好きよ」
「え!そうだったの?」
「リック、走って来たでしょ?猫みたいだなって。俊敏でしなやか。脚が鍛えられてて、動きもだけど、形もきれい」
「え、そう?走ってばかりいるからかな」
「リックが私に駆け寄ってくるの、好きよ」
「レニを見つけたら、自然に脚が動いちゃうんだ」
「歯も好き」
「え、なんで?」
「笑うとチラッと見えるでしょ?かわいいわ」
「へー。自分じゃわかんないなあ」
「えい」
「わっ!」
「反対側も!」
「うん!」
「えい!」
「あはっ!…………あれ?なんか静か」
「ケンとエリー、どうしたの?」
2人は同時に顔を見合わせて、なんとも言えない顔になった。料理は、2人ともプレートの左側に寄っている。スプーンの角度が全く同じ。
2人はウーロン茶のグラスをそれぞれ取って、同時に飲んでまたお互いの顔を見た。鏡を見ているみたいで楽しい。
「えーーーーっと。どうしよ、ケン」
ケンが一度腕組みをして、天井を仰いだ。エリーは頬杖をつき、ケンの顔を横目で見ている。
ケンが机に手をついた。重心が前に傾く。真面目な顔。
「…………あの、そのイチャイチャで、半年経って、まだキスしかしてないの?逆になんで?」
レニはリックを見上げた。リックもレニを見た。キョトンとしてる。まんまるの目がかわいいかも。
「えーと、なんのこと?」
「体の相性、バツグンっていうか……」
「かっ、からだ!?の!?相性!?」
リックが転ぶかと思って、レニは彼の肩を支えた。そんなことはなく、若干フラッとしただけで、ありがと、と言ってリックはレニの手を外した。
ピシッ、とエリーがケンの肩をはたいた。
「言い方!デリカシー!」
「だってよー!?」
「わかるけども!」
「だろーっ!?」
「「…………」」
「……メシ食うか」
「そだね」
もぐもぐもぐもぐ。
「身体にも相性っていうのがあるのね」
「え?レニ?」
「リック。やっぱり、一回手合わせしない?」
「!!??」
「「お?くるか?」」
「私は合気道と空手よ。あなたの武道って何?」
「「あ、そっち」」
「カポエラと、テコンドーを少しだけ」
もぐもぐもぐ。
「それ、すっごく面白そう!!」
「でも、独学だし。テコンドーは基礎だけやってやめたんだ」
「決闘に勝ったのよね?手合わせしたいなあ」
「うーん……」
「勝負じゃなくて、型合わせでいいの」
「レニに、脚を出すのは……」
「じゃあ腕は?」
「う〜〜〜〜ん……。ガードなら……。なんとか……」
「受け身取れる?」
「わかんない。実戦でやったことないから」
「リック、強いのね!」
「相手は、運動したことのない学生ばっかりだし」
「手合わせしたいなあー」
「うーん……」
「イチャイチャしてる……のか?」
「結局、バトルはするの?しないの?」
カチ、カチン、とスプーンが皿にオン。2つのプレートは同時に空になった。
レニはナフキンを2人の前にそれぞれ置く。ケンとエリーはそれぞれ取って口元を拭き、手を合わせる。
「ごっつぉーさん!」
「ごちそーさま!」
ケンが1人立ち上がる。
「俺たちそろそろ帰る。リッちゃん、レニちゃん、今日楽しかった。今度は4人で飯行きたいな」
リックと目が合う。あ、嬉しそう。ウォッチを操作し、リックはケンに右腕を伸ばす。
「すぐに行こうよ。ケン、連絡先いい?」
「うん……よし!エリー、金払ってくる」
「リョーカイ!ここで待ってる」
レジに向かうケンにひらひら手を振って、エリーはカウンターに肘をついた。開いた両手のひらに顎を乗せる。
「今日、2人ラストまで?」
「うん」
「リックくん、そのまま帰るの?」
「うん」
「レニ、いいの?」
「うん」
「ふーん」
エリーは、ぱちぱちぱちっ、と瞬きをした。今日はノーメイクの私服姿なので、いつもより3歳くらい幼く見える。
「へー。そういうもんなんだー」
ケンが戻ってきた。
「勘定済んだ。エリー行こ」
「うん!バイバーイ!」


