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ベンとナオミは、挨拶回りがあるからとケーキを食べて帰って行った。2人分のイチゴのケーキの、イチゴをナオミが、生クリームとスポンジをベンが担当していた。

火星へは、今日19:30の便で発つらしい。ボストンバッグ1つを下げて、2人は家を後にした。レニは、みんなと手を振ってナオミの後ろ姿を見送った。



片付けをしての帰路は5人。大通りを左に、リックとピッポが先に歩き、レニとジェンとライカが後ろをついていく。

レニはリックの背中をつついた。リックが身体を半分レニに向ける。

「リック。あなた、すごいことをしていたのね。初めて知ったわ」

「ええっ!!??」

ピッポが大声を上げ、地面から両足が5センチメートルほど浮いた。

「ちょ、おま、あの、装置のこと、レニさんに言ってねーの!?有り金叩いて10年かけてやってんじゃん!!なんで!?」

リックがピッポに小さい声で何か言った。ピッポが口に手を当てる。

「すまん、リック」

「いいよ。でもさ、タイミングってあるじゃんか」

「悪い。そうだよなー」

歩き出す。リックは前を向いたまま、自分の首の後ろを指で掻いた。

「ごめん、レニ。……水源装置のこと、隠していたわけじゃないんだ。でもどうしても、最後はお金の話になっちゃうから」

ジェンがタタッ、と前を歩く2人の間に近づいた。

「リックくん、お金がないのは、恥ずかしいことじゃないよ?」

リックはこく、と頷く。

「うん。恥ずかしいってわけじゃないんだ。でもさ……」

レニはリックの服の裾を下方向にちょん、と引いた。リックが肩越しに振り向く。目が合った。

ああ、いいな。この瞳。初めて会った時、何色かしらと考えた。青でもあるし、緑でもある。エキゾチックな青緑は、孔雀の羽の丸い部分が1番似てる。

「リックは、私と出会う前からずっと一人で、川を作るために頑張っていたのね」

今は、見たことがない川の色かもしれないと思う。

ピッポが3回深く頷いた。

「そうなんすよ。それ以外は無頓着っていうかほんとテキトーで。今日はちゃんとしてるけど、ガッコでは……、あ!失言!……回避!」

ピッポは両腕を広げてセーフ、のポーズ。

ガッコ?大学のこと?

「ガッコウで?リック、なんか違うの?」

「……ピッポ。回避できてない」

「たびたびすまん」

「ふむ」

隣のライカが顎に曲げた人差し指を当て、首を角度にして15度くらい傾ける。

「あ。ライカ、何か知ってるの?」

ライカはうーん、と少し唸り、やがて首を左右に振った。

「ノーコメントです。男のコケンに関わります」

ジェンがパチンと手を叩く。

「ライカ、かっこいー!」

「ジェンさん、It's an honor」

リックがライカに向けて開いた右手を押し出した。

「ライカ、気を遣わなくていいから。……だってさ。デートに履いてく靴がないとか、カッコ悪い」

ジェンがちらっと下を見た。

「靴?綺麗よ?ね、レニ」

レニはナオキと3人で歩いていた時靴をずーっと見ていたから、今はリックの横顔を見ていた。

「最近は、いつもこれよ」

リックが照れ臭そうに笑い、ジーパンのポケットに右手の親指を引っ掛けた。

「うん。この前バイト代で買ったんだ。この服も」

ライカがふむ、とまた頷く。

「リックくん、大学とは雰囲気が全然違います」

「え?そうかな?」

ライカがレニに顔を向ける。きらーん、と擬音を発し、こめかみあたりで右手を上下に動かした。

あ、これはメガネのポーズね。

「レニさんがいるとcool and cute.非常にイケてる爽やか男子。しかし大学では、ぶっちゃけサエナイメガネです。万年靴と万年服で、むっつりぼーっとしています」

「そうなの?いつもニコニコしていて、所作もとってもスマートよ」

「ハイ。ワタシはとても驚きました。大学では、表面的には穏やかですが、男女問わず塩対応です。見た目に無頓着で気難しい、平均的な理系男子。よって女子からはout of 眼中です」

「……あのさ、ライカ。それ、今ここで、何から何までレニの前で全部言う?」

「リック、気難しいとこ出てるぞ」

「はっ!」

「レニさん。嫌いにならないであげてください」

「どうして?今、ちょっとカッコよかった。怒ったところも見てみたいわ」

「「おー」」

「良かったねー、リックくん!」

「…………うん」

「お?すげー照れてる!」

リックがピッポの肘を肘で小突いた。小さい男の子たちみたい。

「それに、服がないのは私も同じよ。デートに来ていく服がないって、慌ててワンピースを買ったの」

「えっ!そうだったんだ」

リックがパッ、と振り向いた。レニは頷く。

「黄色なんて、自分じゃ絶対選ばないけど。ナオミがこれがいいよって」

ジェンがリックの肩を人差し指で突っついた。

「リックくんさー、レニのワンピース姿どうだった?いつもジーパン。スカートは新鮮でしょ?」

「ええっ!?え、……っと……。その……。あの、……すごく似合ってて」

「モジモジしてるぞ」

「デレデレしてます」

「へー。好きなんだ?」

「……うん。きれい」

「リックくん。本当に大学と全然違います」

「な」

「あ!」

レニは、はっと思い出した。今の今まで忘れていたが、これはジェンに話したい。

「ジェン?私ね、あれ着てる時ナンパされたの。ねえねえ1人?って」

「あ、そうだった」

「えっ!まじか!」

「それはケシカラン」

「あのさレニー。そのナンパ男大丈夫だった?」

うん、とレニはジェンに頷く。

「あと1秒、ってところでリックが走ってやってきて、私の拳を止めてくれたわ」

「あははっ。危ないとこだった」

ピッポとライカがなんとも言えない顔で3秒くらい見つめ合った。レニは背中側で自分の手を組む。

「ナンパなんて初めてされたの。驚いちゃった」

「え」

リックが勢いよく振り向いた。びっくりした顔。口をぽかんと開けている。

「え?リックどうかした?」

「……レニ、あのね」

「リックどした?」

「そういえば、オフタリの出会いはどちらですか?」

「え?駅でドリンク飲んでたら、リックが、やあ、1人?って」

ぴた。

しーん。

しーーーーん。

……私、何か変なことを言ったかしら。

「ほーお。リックくんが、急に軽い男に見えてきました」

「あははっ!ナンパじゃん!リックくん、イケイケだねー」

「お前、レニさんナンパしたんか!?」

「うん」

「なぜ俺にそれを言わんかった!!??」

「ごめん、恥ずかしくて」

「やきもきしただろ!」

「うん。心配かけた。その節はありがとう」

「はあー、まあいいけど」

ガヤガヤガヤ。……えーっと。確認しよう。

「リック。あれ、ナンパだったの?」

「うん。今言おうとした」

「あら」

リックが曲げた指で頬を掻いた。

「へへ。気がついたら声掛けてた。前に一回、バイトの途中で会ったでしょ?それから、僕、レニのことが忘れられなくて」

また思い出した。猫探しのバイト。

「そういえばリック。お金の話になっちゃうけど、猫探しでチップは貰っていないの?」

「うん」

サーチャーには、学生だけを雇う専門業者がある。基本的に顧客には同じ学生を継続派遣し、猫探しの名目でチップを手渡す支援制度。

リックは見た目も頭も人当たりもバツグン。太客からのチップでかなり稼げるはず。でも、それはしないんだ。

本当に猫が好きなのね。

「リック、クールね。私なら、遠慮なく貰っちゃうわ」

ピッポがリックの脇腹を3度つつき、リックがピッポに小声で何か言った。ピッポが振り向く。満面の笑顔。

「レニさんレニさん。こいつ、スッカンピンだけど、いいヤツでしょ?」

「うん。かっこよくて優しいもん」

「…………えっと」

「お。リックくん。耳がユデダコです」

「んー?……レニさん。こいつ絶賛照れまくり中です」

「そうなの?ねえ、リック。こっち向いて?」

「……ちょっと待って」

「レニさん待ってんぞー」

「ほらほらー、リックくん」

「う……。えっと……、はい」


「えい」

ぎゅ、ぎゅー。

「わ!」


レニは引っ張った耳をパッと離す。リックは目を丸くして、ぼんやりとした動きで自分の右耳を触った。

「ナオミの真似。耳、あったかいわ」

「……レニ、今の」

「あ、嫌だった?ごめんね」

「全然!!全く!!そうじゃないよ!!」

リックが車のワイパーみたいに左右にぶんぶん手のひらを振った。

「レニ。……あの」

ぐ、と口が引き結ばれる。真面目な顔。かっこいいかも。

「今の……、……もう一回、いいかな」

リックが右手で自分の耳を指差した。

「あ、耳、引っ張ってもいいってこと?」

「うん。ぜひ」

やった!

「えい」

「わっ!あははっ」

「こっちもする?」

「うん!」

「えい!」

「あはっ!」

「ふふっ。リック、こういうの好き?」

「レニのなら、なんでも好き!」



「イチャイチャしてる」

「デレデレしています」

「へー。2人だとこんな感じなんだあ。……ずずっ」

「ジェンさん。ハンカチどうぞ」

「ライカかっこいー……グスッ」

「I’ve been there.」

32_リバーサイド・レコード#07

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