キャシー来訪の当日。
7:30。レニはセントラル・ターミナルのロビーでレモンソーダを飲んでいた。待ち合わせの定刻は8:15。着くのが少し早すぎたのだ。
セントラルタワーは、仕事で何度も来たことがある。マザーコンピュータ"カグヤ"を戴く、ムーンバレーの心臓部。
ブルーと白を基調としたデザイン。宇宙港の搭乗口へ向かうエスカレーターと、タワー施設へのエレベーターがエリアを分けて配置されている。レニがいるのは、アライバル・ボードがよく見える位置の円形テーブルの一席。12テーブルの人口密度は3割ほど。静かである。
こんな風にゆっくりドリンクを飲むのは初めてのことだった。通行人はあまり多くない。早朝だからかもしれない。
「やあ。1人?」
声をかけられそちらを向く。いつか会った、猫探しの青年だった。
「ああ。えーと」
「僕、リック」
「レニ」
にかっと笑って歯が見える。あの時の猫によく似てる。狐色の毛並みとビビッドなグリーン・アイ。なんで名前だったっけ。アビ……なんとか。
「レニ、1人?」
「うん」
「ここに座っていいかな?」
「どうぞ」
リックは、ディバッグを肩から下ろし、前に抱えて円テーブルの椅子に座った。レニは6時、リックは9時の位置。
「何か用?」
リックは瞼の縁に、猫目をぐるりと一周させた。チャーミングな仕草であるが、意図は不明。
「特に用はないんだけどさ。通りすがりに君を見つけた」
「へえ。このへん、よく来るの?」
「通学路」
「リック、学生?」
「セントラルの工学部」
「わお。エリート。年は?」
「17」
「私のがいっこ上」
「誕生日は?」
「5月1日」
「あちゃー、過ぎてら」
「リックは?」
「6月1日」
「そっちも過ぎてる」
レニはレモンソーダを啜る。氷が半分くらい溶けて、結露を発生させていた。
「それで、私になんの用事?」
「待って。今考える」
「今?」
「だって、君を見つけたから。条件反射でさ。思わず近づいちゃったんだ」
リックの後ろの通行人が視界に入る。さっきの話を聞いた後だからか、彼らが学生かどうか考えてしまう。
リックがレニの名前を呼んだ。
「もう少し話したい。ダメかな?」
「今日はこの後仕事なの」
「ここで、また会える?」
「今日はたまたま。私の家は6区なんだ」
「じゃあ、僕が君のところに行くよ」
3秒ほど時間が止まった。レニはカップの、赤いストローを回す。くるくるくる、と氷が回る。
「6区だよ?」
「今聞いたよ」
「そ」
ストローを啜る。ずず、と間抜けな音がした。
レニは左手をテーブル中央に置いた。ウォッチの上部にマップを表示。
「私のアドレス。気が向いたら連絡して」
「イエス!すぐだよ」
リックは右手を机に置いて、マップが彼のウォッチにイン。リックは左利きなんだな、と思ったが、特に話すことでもない。時刻は8:00。
立ち上がり、挨拶を交わしてレニは宇宙港へのエスカレーターに乗った。


