top of page

レニは朝日で目が覚めた。


本物の朝日はすごいなー、と大きく伸びをする。ショウジを開けると、庭の草木が輝いて見えた。簡易的な履き物があったので、それをひっかけ地面に降りる。土と草の感触がふかふか。しゃがんで見ると、葉や花びらを水滴が覆っていた。触ると冷たくさらさらしていて、指紋に染み入る感じがする。

私、地球にいるんだ。

ユカタの裾を少し払って、着替えのために部屋に戻る。朝食の時刻まで、あと10分。



「おはよう、おねえちゃん!」

「おはよう。ワカバ」

オザシキの襖を開けると、朝食の支度は整い、長机の向かい合った長辺のそれぞれに、ビゼン、ワカバが並んでいた。ウパラとアンは食卓には着かず、庭に面した木板の通路に美しく佇んでいる。ボディースーツで長身のウパラと、キモノ姿で小柄なアン。デザインの世界観はチグハグだけれど、エンガワの風景は絵画的に調和が取れて美しい。"Jeweletta"が、銀河系で最高の評価を受ける調度品たらしめるのはこういうところなのだろう。ハルモニアス。

レニはビゼンの向かい、ワカバの隣に腰を下ろす。そこにザブトンがあったから。

朝食メニューはパン、サラダ、フルーツ、エッグ、コーヒー、オレンジジュース、ミルク。昨晩のジャパニーズ・クィズィーンとは打って変わり、レニも馴染みの深いウエスタン・スタイルである。

「レニさん、よく眠れましたかな?」

いただきます、の合唱のあと、ビゼンはコーヒーを一口飲んで口を開いた。ビゼンのファッションはカジュアルな麻シャツとジーンズ。昨日のキモノ姿よりも8歳くらい若く見える。

「はい、ぐっすり。夜に何か音がしたけど、あれは?」

「ああ、蛙だ」

「カエル?」

「おねえちゃん、蛙見たことない?」

ワカバが微妙な顔でくし形オレンジの皮を剥いている。食事中だが、レニはビゼンに一言告げてウォッチを操作。「カエル」を検索。ホログラムで現れたのは月面都市で見たことのない緑のイキモノ。いや、何かのロゴにあったかな?

「古典ムービーに出てくるエイリアンみたい」

「あはは!」

ワカバが笑った。レニは画像を閉じて卵料理に手を伸ばす。ふわふわのスクランブル・エッグは味が濃厚。地球の食べ物はどれもとても美味しい。

「月には、動物はいないのかい?」

パンにイチゴジャムを塗りつつビゼンが聞く。レニは絶品エッグを嚥下。ミルクを手に取る。これも美味しい。

「ペットの電気猫は、時々捜索依頼があります」

「電気猫が逃げるの?AIだよね?」

「それがマーケティングなのよ、ワカバ」

「ほっほっほ。手間と無駄が富の証というわけですな」

「そういうことみたいです」

ウパラとアンは、並んで座りこちらを見ている。見ている、というより眺めている、という感じの姿勢と視線。

髪や肌の鉱物の照り返しが、畳に柔らかなプリズムを落としている。

「アンはこのお家で?」

「今のところは」

「今のところは?」

ビゼンは箸を置いた。コーヒー椀を両手で持つ。

「寄贈も考えています」

「どこへ?」

「国際地球博物館」

レニのパンを千切る手が止まる。ビゼンを見て、アンを見て、もう一度ビゼンを見た。

「アンを展示するの?」

「いや」

即答。ビゼンはコーヒーを啜る。レニはミルクをごくりと飲んだ。

「考古学の案内係に。順路を守ってきちんと歩く子だから」

レニは、月からここまでの道中を想起する。アンの運搬方法は自走。最初は不安だったが、月の石から空港までの移動ではっきりわかった。アンは歩く。主体的に。エモーション・コンテンツは0表示だが、思考が無いわけではないのだ。

「道具とは、人と関わり磨かれていく。琥珀を宿すアンバー・ガール。地球で生まれ、月で磨かれた。そしてまた地球へ。時と場所を越えるアンには、ナビゲーターが相応しいと思うのだよ」

国際地球博物館は、地球を訪れる観光客の定番スポットの一つ。異星の客をアンが導く。数千万年前の琥珀の右目に虫の化石を伴って。

「私も、アンのガイドで歩いてみたい」

レニはフルーツに手を伸ばす。ビワは素朴で柔らかい味がした。

「今度地球に来るときは、プライベートで連絡してください。ワカバも喜ぶ」

「ありがとう、ビゼン」

食後のグリーンティーをワカバがお盆で運んできた。美しい金継ぎのコーヒー茶碗は竹のような深緑。湯気の香りはムーンバレーの3倍濃い。

13_A visit of Kaguya#03

白(透過背景) .png

隐私政策

Cookies政策

© 2025 μ 使用Wix.com创建

bottom of page