「モリー。メールだよ」
レニは窓際で振り返る。モリーは穏やかな微笑みを浮かべ、少しだけ首を傾げた。
レニはモリーの斜め前に自分の椅子を配置して、ウォッチの表示を拡大する。モリーの瞳の黒水晶に、光映像がくっきりと映り込む。
白い部屋に少女とオブジェ。一見すると姉妹のようにも見える構図で、レイチェルが笑っていた。
「いいフォト。ブラウン博士が撮ったのかな?」
レイチェルの屈託のない笑顔。ジュエレッタも同じように笑っている。
1週間前。トパーズ・ガールを送り届けた日のことを思い出す。
大きなトラブルもなく(スリ未遂が一件あったが、レニの顔見知りだったので穏便に解決した)ジュエレッタを購入し、第6区から搬送用リニアで移動。
第1層第2区医療エリア Southの一宅。そこにロバート・ブラウン博士の研究所兼自宅があった。
ブラウン博士は着くなり白衣姿数人に話しかけられ、スタッフ1人と指示を残してどこかに行ってしまった。
レニはジュエレッタの梱包を解き、取扱説明書をスタッフと共有。トパーズ・ガールはカートに乗せられ、殺菌室へと運ばれた。
“You come this way.”
レニは言われるがまま、白い通路をついて行った。
厳重そうな扉や青色表示のワードに、そこはかとなく不穏で、果てしなく面倒な出来事を予感し、的中した。
26回の洗浄である。
バーチャンの家で何度か見た、23世紀製の洗濯機に放り込まれたらこんな感じだろう、という感想。皮膚も髪もスポンジみたいにスカスカに感じつつ、麻でできた服を着て、レニはレイチェルに会った。
皮肉屋のレイチェル。何もかもが真っ白な部屋。静脈の透ける肌と白髪。青褪めた唇を尖らせ、赤い瞳を釣り上げ拗ねた表情は痛々しかったが、フォトフレームの中、トパーズ・ガールと笑う彼女は晴れやかに眩しい。
トパーズ。化学式Al2SiO4(F,OH)2
地球の民に、太陽の象徴として愛された鉱物。
黄金色の輝きは、人々に癒しや希望を与えるという。
"Papa went to buy memento today, …of me."
ロバート・ブラウンは形見を買いに行った。そうかもしれない。
「ちゃんと生きてるじゃん」
She said.
“Not yet.”
「私が死んだら、モリーが私の形見になるのかな」
モリーは膝の上で手を重ね、両目を細めてにこりと笑う。
答えはない。なくていい。
私は今、生きている。
そんだけ。
“Refill. モリー。バースデーソングを”
モリーは立ち上がる。銅の両腕が開演の緞帳めいて広がる。
“ええ。レニ。いけとしいけるもののかつての生誕を祝して"
Happy birthday to you…


