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20_夏への扉#02

「レニが先生?いいなー!」
「うん、でもちょっと厳しい」
ブラウン博士の研究所であり自宅である最深部の一画。気が遠くなる洗浄工程を経て麻の服に着替えたラジィは、床に敷かれたカーペットの上、レイチェルの斜め向かいに座っていた。
「どんなことするの?」
「基本のカタ。えーっと、姿勢とか、体の動かし方」
「それって、今、ちょっとできたりする?」
「うん、いいよ」
ラジィは勢いよく立ち上がり、半身の構えと入り身を披露。動きが止まると、レイチェルがパチパチパチ、と拍手した。
「かっこいい!」
「ありがと、レイチェル」
ラジィはすとんと座り、頭の後ろをぽりぽり掻く。ほっぺたが熱い。こういうの、初めてかも。
積み重なったクッションに囲まれたレイチェルは、隣のトピーと顔を見合わせニッコリ笑う。左頬の笑窪がかわいい。
「レニはね、トピーを連れてきてくれたんだよ」
「へえー」
レイチェルがフォトをホログラムで表示する。

レニだ。

青い空。
緑の木々。
僕と同い年くらいの女の子。
2体のジュエレッタ。

記念写真かな。

「地球にジュエレッタを運んだって聞いたし、レニは郵便屋さんかと思ってた。アイキドウの先生だったのね」
「僕は猫探しのハケンサンだと思ってたよ」
本当の仕事はなんなのかな?レニに、今度聞いてみよう。
レイチェルはフォトをクローズし、クッションの1つをギュッと抱えた。イチゴみたいな大きな瞳がこっちを見る。
「ラジィは、大人になったら何になりたい?」
「考えたことないなー」
「そーなの?」
「うん。僕がなりたいものって何だろう……」
下を向くと、脚が見える。麻の服から覗くプロステティックは、鈍い感じの灰色。肌の色に合わせることもできたけど、やめてって言った。
顔を上げると、レイチェルも僕の脚を見ていた。透明な表情で、唇の隙間に肌より白い歯が見える。
「レイチェルは?」
「私?」
瞳をふわっと僕に戻し、窓の向こうへ。
レイチェルの部屋の窓は大きい。ガラス越しの面会室。光学カーテンはオフ。コーヒーを置いたテーブルで談笑する、ブラウン博士とラファエルが見える。
僕がここにいる理由を、僕もレイチェルも知っている。話し合ったことはないけれど。
「大人かな」
大人になること。僕はうん、と頷いた。
「僕も、早く大人になりたい」
「ふふっ、ちょっと違う」
トピーはレイチェルの顔を覗き込む。ヤー、ハー。と重なる声。レイチェルは笑ったみたいだったけど、泣いているみたいに僕には見えた。

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