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33_トリプル・トポロジーズ#06

土曜日午後2時。
2層4区A-1-1ホワイト家。応接室。


コンコン。ガチャ。
「そろそろ、終わりにいたしましょう」
ラジィが画面の端を見た。リックも見た。
現在時刻は13:55。
「あれ?ジャン、3時までじゃないの?」
「切り上げですか?」
初日からイレギュラー?何かヘマしたっけ、とリックは本日の挙動を振り返る。5分前に着いた。挨拶した。勉強スムーズ。特にどこも汚してない。服も大丈夫のはず。
ジャンはニッコリ笑った。2人のいる机に近づし、胸に手を当て上半身を傾ける。
「残りの時間は、ラジエル様の自室でゆっくりお茶でも」
「ジャン、ほんと!?」
ラジィが飛び跳ね、ジャンは頷く。ラジィがジャンの腰のあたりに抱きついた。
おじいちゃんと孫みたい、とリックは和んだ。
「リック殿。コーヒーと紅茶はいかがなさいますかな?」
「アイスコーヒーいただけますか?」
「僕、アイスココア!」
「おやつは苺のミルフィーユでございます」
「わーい!おいしそう!」
「ほんとだね。僕、初めて食べるよ」
「へーっ!!」
ラジィに手を引かれ、立ち上がる。ジャンが扉を腕で示す。
「先にお部屋でお待ちを。おお、それとリック殿」
「はい」
背筋を伸ばして身体を向ける。ジャンの白手袋の右手が上から下に一直線にすっと動いた。
「非常にスマート。スーツ姿が爽やかですぞ」
「あ、これ友だちに借りたんです。どんな服がいいか、よくわからなくて」
この間、ナオキの家でチャーハンを食べさせてもらった時、いい家だから、初回くらいはちゃんとしてけと貸してくれた。リックの手持ち服にスーツはない。スラックスもジャケットもない。もう子どもじゃないんだし、フォーマルな服を1つくらいは買った方がいいんだろうな。
ジャンはほっほっほ、と笑った。
「左様でしたか。大学の普段着で結構です。レニ殿も、Tシャツジーンズで来られてますゆえ」
ジャンからレニの名前が出て、リックは肩の力が抜けた。
「ジャンさんは、僕らのことを知ってたんですね」
ジャンがウインク。渋くてかっこいい。
「モチのロンじゃ。私はラジエル様のじいやですからの」
一見すると寡黙な矍鑠おじいさんだが、話してみると表情豊かでお茶目である。
「ホワイトさんは?」
「シフトのことは残念ですな」
「ナイショだよ、ジャン!」
「合点承知の助でございます」
「ガッテンショウチノスケ?それどんなひと?」
「ほっほっほ。リック殿にお尋ねくだされ」
「Leave it to meだよ。ラジィ」
「へーっ!!」
「では、私はお茶の支度を致します」
「うん!リックお兄ちゃん、行こ!」
「わかった」

ーーー

「ここ、僕のお部屋」
「そうなんだね」
「友だちがいるんだ。開けるね」
「うん」

ギイ、と扉が開く。手動モードにしてあるのは何故だろう、とリックは天井付近を眺めた、
そして中。
広い部屋。家具は木材。カーペットは天然毛。中央には直角に配置されたソファ。楕円のローテーブル。

ジュエロンが、ソファに腰掛けこちらを見ている。聞いた通り、少年体。14歳か、15歳くらいに見える。

「ジュエロンのアメだよ。アメ、リックお兄ちゃん」

リックは、アメの前に片膝をつく。黄緑色の双眸が、リックの瞳を追いかけた。表情は薄いが、奥行きがある。

髪や肌に、赤い線がたくさんある。
そうか。インクルージョンだ。瞳にも、針状の包有物が無数にある。

右手を差し出す。アメの手が、すっとそこに乗った。人肌ではない温度。しかし、受ける感触は冷たくはない。

「こんにちは、アメ。僕はリック。よろしくね」
「こんにちは。リック。ボクはアメ」

リックはラジィに振り向く。ラジィは、緊張した目でリックを見つめた。

「ラジィ。アメは、お話するんだね」
ラジィの目が、パッと輝く。
「うん!」
ラジィはリックの右隣に駆け寄った。
「ラジィ、アメのカテゴリは?」
「えーっとね、なぞなぞ!」
「なぞなぞ……」

リックは握手を解き、アメの瞳をじっと見た。
虹のような極彩色のチューブ・インクルージョンが揺らめいている。動きがある。

思考している。

「アメ。聞いてもいいかな?」
アメはこく、と頷いた。
「オーケイ。リック」
ごく、と唾を飲み込む。ナオキの言葉が蘇る。

ーー人間じゃあない。
ーーじゃあ、ジュエレッタって一体なんだ?

「君たち、ジュエレッタシリーズとジュエロンはーー」

歌う。
対話する。
ーー泣く。

なぜ、それができる?

「ーー何から生まれた?」

アメはすぐに唇を開く。
「イシ」
答えは2音。
「石?鉱石?」
リックが聞くと、首を振る。
「ノー」

アメの瞳が、虹色の雨に思考する。

「ヒトノイシ」

それは5音。

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