「誰かと思えば、リッちゃんじゃんか」
ドリンク注文に来た客の出立ちは、ニッカポッカと長袖Tシャツ。仕事終わりはハイボールかしら、それともコーラ?とレニは注文を予想する。
「あ、オヤカタ」
リックがニコッと笑って会釈した。おじさんは目の前のカウンター席に座った。
えーと。2人、知り合い?
「飲み物、何にします?」
「ハイボール。キンキンの」
「かしこまりました」
リックがグラスをテーブルに置いた。彼が氷を入れている間に、冷蔵庫から炭酸水を取り出す。ウイスキーボトルをワンプッシュ。ソーダをゆっくり注いで、銀のマドラーで3回混ぜる。
「ハイボールです」
リックがコースターの上に置く。上手だな、と指の角度と使い方をじっと見る。関節がボコっと浮き出る長い指は、技術者って感じがする。
「リッちゃん、そのうちこっちに住むんか?」
オヤカタがハイボールをごくごく飲んで、ぷはあ、と笑ってから言った。
こっちに住むって?
「リック、何の話?」
リックの瞳が瞼の縁を一周した。このチャーミングな仕草は、考え中だわ。久しぶりに見たかも。
「工事の話をしてたんだ」
オヤカタが、うん、うん、と頷く。
「リッちゃんが川造りてえ言うからよ。俺ら、それを待ってんだ」
「川を?イーストに?」
レニはリックを見上げる。
川を作る、とは言っていたけど、もっと先のことなんだって思ってた。
リックがレニを真っ直ぐに見る。見据える、と言ってもいいくらいの強い光。
「うん。ここから始めたい」
なんて綺麗な瞳だろう、と、レニはピーコック・グリーンの瞳をぼうっと見つめてしまった。
「大人しそーでナヨっとしてると思いきや、なんのなんの。頭はいいし腕も立つし、腹の坐ったいい男だぜ」
オヤカタが、ハイボールをぐびりとやってそう言った。
腕が立つ?
……リックの話だよね。
「腕が立つって?ケンカ?」
「決闘さな」
「リック、勝ったの?」
「えーと……」
「おうよ。リッちゃんつえーぞ」
レニはぴょん、と飛び上がった。
「ほんと!?リック。今度、私と手合わせしてみない?」
リックが自分の左のほっぺたを指で掻く。
「僕、レニには手も足も出ないよ」
「えー」
「見つめられると動けない……。これ、まじの話なんだ」
「私って、メー、……メ、メ、なんだっけ?髪がヘビで石にするやつ」
「メデューサ?」
「それよ!リック」
「あはっ、どちらかといえば電気ショック」
「ふふっ。逃げ出した電気猫みたい」
「それで出会ったんだよね」
「そうだった」
カラ、カラン。グラスが揺れた。
「お熱いとこ水差すけどよ。お姉ちゃん、もしやリッちゃんの彼女か?」
リックとバッチリ目が合った。彼がにへら、と笑ったので、レニはリックの左腕に肩を寄せた。
「うん。私たち、お付き合いしてるの」
「へへっ」
オヤカタがヒュウ、と口笛を吹き、背中を反らす。向こうの客が、3人こちらを振り返った。
「へーえ!!どんな女丈夫かと思いきや、すらっとした別嬪さん。今日は用心棒かい?」
空のグラスと「おかわり」。リックが新しいグラスを出して、氷と適量のウイスキーを入れた。
「そうよ。これまでも、時々バイトで来てたけど」
レニはソーダをそこに注ぐ。
「そーいや見た気もする。ああ、男の服着てたから」
「いいでしょ?その時は、合う靴がなかったの」
ぐるぐる、ぐる、とかき混ぜ完成。コースターにグラスを乗せる。オヤカタがグラスを持ち上げ、リックに向けてウインクした。


