「ただいま、モリー」
自分の部屋に戻ってくると、なんだか急にお腹が空く。にこっと笑うモリーに手を振り、レニはキッチンに向かった。何かあるかな、と冷凍庫を開ける。ドーナツ2つ、4食プレート3つ、あとはいつ買ったのか忘れてしまったウドンが1つ。
「ウドンかな。お箸あったっけ。……思い出した。お箸がないからずっとここにあるんだった」
レニはキッチンを捜索した。フォークを発見。今使わずにいつ使う?と1人頷き、レニはヒーターにウドンをインした。ウィン、と加熱ランプが点灯し、中のお皿がぐるぐるぐるっと回転する。
ーー人間は、もっと豊かに生きていい。
ピッポの言葉がふとよぎる。
この部屋での最初の夜。夕ご飯は乾パンと水だった。
カーテンのない窓から、6区の街のネオンがネックレスみたいにセントラルのタワーまで繋がっていた。
綺麗なもんだな、と思った。
いつからだろう。その風景を固く閉ざしたのは。
モリーが来てから、また窓の外を眺めるようになったっけ。
チン!
あったかい。湯気に匂いがちゃんとある。フォークじゃ気分が出ないけど、いいものが冷凍庫に残っていて良かったわ。
「モリー。私、変わった?」
いただきます、の後、麺を啜りながらレニは呟いた。モリーは首を傾げ、レニのほうをキョトンと見つめた。
「あなたは私に歌をくれた。私の夜がそれで変わった」
歌なんて、自分の声が照れくさい、歌ったことは一度もなかった。
でも最近は、気づくと口笛吹いてたり。鼻歌歌ってたりもする。
「明日を思う日が増えた」
照れくさくってしないことを、明日はやってみようかな、って思える。
「暮らしが変わって、仕事が変わって、見える景色が変わった」
高いところが好きだった。
今はどう?
「高い場所も悪くない」
ーー鳥になれ。
「でも、鳥にも色々いるって、私、気付いたの」
鳥の図鑑を見た。
高いところを飛ぶ鳥。
海の上を飛ぶ鳥。
沼田で暮らす鳥。
雪の中で暮らす鳥。
木々の梢で眠る鳥。
人のすみかで巣を作る鳥。
鳥だって、飛んでいるってだけじゃないわ。
「リックが、私に岸辺をくれる」
川は海へ。
海は雨へ。
雨は、そして川へ戻る。
「私、岸辺の鳥になるの」
モリーは微笑む。うどんを啜る音に重なり聞こえるハミング。
「これ知ってる。鳥の歌ね」
バーチャンが、よく歌ってた。


