「用意はいい?よーい、どん!」
ホワイト家の庭。距離はおよそ10メートル。レニの合図で走り出したのは、ラジィと一体のジュエレッタ。
「ゴール。エルバが先」
「Yeah」
少し遅れて、ラジィがジャンの地点へ到達。ラジィはぺたんと尻もちをつき、地面に両手を置いて大きく深呼吸。
「スイカ、速すぎるよー」
「Yes」
ふむ、とレニは計測器を見る。ラジィの身体能力は、トレーニングを開始してから安定して伸び続けていた。合気道の体幹と呼吸が、基礎体力を向上させているのだろう。
人工脚が、いよいよ彼の一部になったらしい。
「痛いところはある?」
「ない!楽しい!」
「ミスター・ジャン。これいいかもね」
ジャンは、好々爺全開のスマイル。
「まさしく。レニ殿に感謝ですぞ」
ひょんなことから彼が前職の大先輩であると知った今となっては、こそばゆい心地である。
「私1人のアイデアじゃないわ。ラジィ、新カリキュラムが決定した」
ラジィが、パッと体を起こした。うん。上半身の反射もグッド。
「スイカとかけっこ?」
「そう。楽しくなるね」
「いえい!」
ラジィがぴょん!と飛び跳ね、タタタ、とレニに駆け寄った。
「ねえねえ、レニ」
「何?」
にーんまり。ん?これは、何か企んでる顔?
ラジィが口に片手を当てたので、レニは屈んでそこに耳を近づけた。
「リックお兄ちゃんが言ってたよ。走って会いに行きたいくらい、レニに恋してるって」
あら。いつの間に、リックはラジィとそんなに仲良くなったのかしら。
レニはふふっと微笑んだ。
「それ、なんかわかるかも」
「なんで?」
「リックはアビシニアン・ボーイだから」
「アビシニアンって?」
「狐色の猫。とっても脚が速いのよ」
へーっ!とラジィは走る真似。足踏みの速度が安定している。
パッ、と彼は動きを止めた。見上げる澄んだグリーン・アイ。
「レニも恋に落ちた?」
走って会いに行きたいくらい恋してる、ですって?
もう。リックったら。それ、ラジィじゃなくて私に直接言ってくれていいんじゃない?
そういうシャイなところも、好きなんだけどさ。
レニはドームの天井を見上げた。
「そりゃね。もう真っ逆さまよ」
「それ、リックお兄ちゃんも言ってた。世界がひっくり返ったって。どういうこと?」
指さす先は、スプリング・スカイのアオゾラ。レニが一番好きな色。
「あの青が、地球の海に見えるくらい。そこに落ちる。いいえ、飛ぶの」
「真っ逆さまに飛んでくの?」
風を頬に感じた気がした。目を細め、見えない香りを追いかける。
きっと、それは雨の匂い。
「そうよ。私は鳥だもの」


