ピ。ピー。
ライカは、ステーション"イーストIー1"の改札を抜けた。
周囲を見回す。一度来たことがある場所だけれど、初めて来たような感じがする。
2度と来ちゃダメ。
そう決めたのに、自分でも、自分の行動がわからない。
大学生協購買お菓子コーナー棚の裏。リックくんがピッポくんと話しているのが聞こえた。
日曜日に、カノジョの家でデートだってコト。
現在時刻は、その時に聞いた待ち合わせの時刻の5分後。カフェの住所はこのあたり。ストリートから見える場所に座っていてくれればいいけれど……。
ウィンドウ越しに中を見て、3件目のお店。
いた!
窓際にいる、ライカは慌てて、近くにあったメニューの立て看板に隠れる。
ライカの位置からは、リックの後ろ姿とレニの上半身が見える。
店員さんがメニューを持ってきた。陶器のカップとガラスのグラスだ。レニさんはホットの何か。リックくんはコーヒーフロートかな。それともコーラ?
うーん、何話してるのかなあ?
つい、服装を観察してしまう。リックくんは大学にいる時と同じだけれど、レニさんはTシャツにジーンズというカジュアルファッション。髪を束ねず下ろしていて、この間のワンピース姿よりずっと大人っぽく見える。
あ、レニさん笑った。リックくんは自分の首の後ろをぽりぽり。楽しそう。
こんな風にこっそり様子を見にくるなんて、不合理で時間の無駄なのわかってる。リックくんはレニさんが好きなんだもの。デートの現場を目撃しても、ワタシがミジメになるだけでメリットなし。だけど、そうせずにはいられない。
これって、どういうメカニズム?
「誰に用?それとも迷子?」
「ふええっ!?」
声をかけられ飛び上がる。左。違った。右だ。男の人が覗き込むような感じでワタシを見ている。
「上の人だろ?そんな無防備にこのへん歩くとスられるぜ」
リアルで初めて見るタイプの男性。チャラチャラというか、ヨウキャというか、どきゅんというか、うー、こういう方を、なんて言うんだっけ……。えーっと……。地球の昔のコミックで見たことがあるあれ……。
「あ、ホスト!」
「え?ア・ホストって何?」
声に出てた!うー、ワタシの悪いクセ。
ワタシは背筋を伸ばして、ちゃんと立つ。ううっ、怖いかも。でも、1人でなんとかこの場を切り抜けないと……。身を守るには、まずは姿勢よ、と言われた。
ぴしっ!
「……えっと、……レニさんに!その、……用事が」
「なんだ、レニの友だち?」
ホストさんが笑顔になった。この方、レニさんの知り合い?ワタシは心の底から安心して、ちょっと涙が出そうになる。
「僕ナオキ。レニの幼馴染」
「ワタシ、ライカです」
お辞儀をする。ナオキさんも軽くお辞儀をしてくれた。見た目はちょっとアレだけど、大学の男の子たちとそんなに変わらないのかも。
ナオキさん、こめかみあたりの空をつまんだ。二重瞼の瞳の色はチョコレート色。
「あのさ。メガネは仕舞った方がいい。目、悪い?前見える?」
ワタシは周囲を見回し、慌てて自分のメガネを取る。通行人やお店の人が沢山いるけれど、誰1人としてメガネを掛けてはいない。
先ほどの無防備、という言葉を思い出す。そうだ。ここは、大学とは全然違う場所なんだ。
「これはダテメガネ。オキヅカイ感謝します。視界はクリアです」
「えっ、ダテメガネ!ホンモノの!?」
ナオキさんが大きな声で驚いた。ワタシの持ってるラウンド型の銀縁メガネをじーっと、じーーーーっと見つめている。
「ライカちゃんあのさ!……いや、ゴメン。なんでもない」
「?」
よくわからないけれど、バッグからメガネケースを取り出し収納。カバンに戻す。ナオキさんはなんとも言えない表情で、じいっとそれを見つめている。なんでかな?
ナオキさんがゴホンと大きく咳払いをし、口を開く。
「ライカちゃん、レニと待ち合わせしてるの?待たせるなんてらしくない……」
「あ!いえ、あの、その……」
ちらっ、と思わずお店の中を見ちゃった。ナオキさんはワタシの視線をツーっと追いかける。ああっもう、ワタシのばかばか!
「はっはーん、デバガメだ」
ナオキさんがニヤリと笑った。
「うぅ……」
撃沈。ワタシ何してるんだろう……。もう帰……。
ぎゅ。
ぎゅ?
ナオキさんがワタシの手、いや、手首を握った。右手の。
「へへっ、面白そう。ライカちゃん、僕と向かいのカフェ入らない?」
「ふぇ?」
ぐい、と手を引かれて、一歩、二歩、あれ、あれれ……。
気づけば一面のマティスブルー。視界いっぱいお店のドア。ナオキさんが金の持ち手を握った。え?これ、手動ドア?
「一緒にデバガメしようぜ。あの2人、どこまでいってんのかなー」
「え、あの、ええ〜!?」
ガランガラン、とベルが頭上で鳴った。これ本物の真鍮の音。


