トローリーを乗り継ぎ、レニのアパートに到着。前時代的でクラシカルなロックを物理的に解除。ガチャリと扉が開く音。
「あ、ジュエレッタ!」
キャシーの大声。レニは慌てて口の前に人差し指を一本立て、シー、のジェスチャー。キャシーは両手でバッと口を塞ぎ、大きな瞳で右と左と右を見た。
室内へ。ドアを閉める。キャシーはモリオン・ガールに駆け寄った。
「いいなー。レニ、持ってるんだ。高いでしょ?自分で買ったの?」
「チップみたいなやつ」
ああ、とキャシーは大きく頷く。どうやって運んだの?と聞かれ、担いで帰った、と回答。
「私もジュエレッタ欲しくてさー。もうね、ほしい子決めてるの」
「どれ?」
「見て。インディゴライト・ガール」
キャシーのウォッチがホログラムを表示。スレンダーな長身に、透明感のある藍色の髪。肌は磁石の黒。価格は280モニカ。
「クールね」
「磁気回復機能がついてるの。歌も歌うみたい」
「へえ。私のモリーも歌うよ」
「モリーっていうんだ。私も名前考えとこ」
キャシーに椅子を勧め、レニは冷蔵庫からウォーターを2パック取り出す。キウイとパイナップル。キャシーはパイナップルの方を選んだ。
「キャシー、腕がいいのね」
「アタシ、それで食ってるから」
キャシーはパイナップル・ウォーターをごくごく飲んだ。
「今回の報酬は180モニカ。ヤバイ仕事だよねー」
口元を拭い、レニにへらっと笑いかける。レニは窓際の壁にもたれ、キウイ・ウォーターを3口飲んだ。
「怖くない?」
「こわいよー」
キャシーはパイプ製の椅子の上であぐらをかく。窓の外に送る視線の焦点ははっきりしない。
「稼いだお金は、すぐに全部使うんだ」
レニは私もそうだった、と思った。
「残高は、墓まで持っていけないからねー」
仕事を始めて1年半くらいは、稼いだ金を残らず使った。何に使ったんだっけ。ステーションで、高いものをたくさん食べたし、沢山飲んだ。あとはムービー、バレエ、オペラ、ミュージカル……。
「でもインディ欲しくて、3回爆買い我慢した。生きて月に来られてよかった」
SSS席を1日貸し切り、サーカスをぶっ通しで観たり、カプセル・プラネタリウムに行ったり。
いつから、それをやめたのか。レニは思い出した。
冷蔵庫を買ってからだ。
「ジュエレッタを今から買いに行く?月の石に連れてくよ」
「いいの!?」
レニの提案に、キャシーは椅子から転げ落ちそうな勢いで飛び上がった。
「仕事は明日の朝だし。ついでに経費でディナーしない?」
「やったー!!お肉ある!?あと野菜!!オレンジジュース!!」
「合成と遺伝子組み換えだけど、ちゃんとあるよ」
キャシーはバンザイしながらその場でフィギュアスケーターのような高速回転をした。
「わーい!今日はブロック食とさよならだ!!」レニはくすりと笑う。初給料を肉と野菜とオレンジジュースに使ったな、と3年前を思い出しつつ。


