「ただいま。モリー」
アパートの扉をガチャリと開けて、レニは帰宅を宣言した。
「これ、今日買った靴」
厚さ0.2mmのショッパーから取り出し、机の上に踵を揃えてコトンと置く。
シャンパンゴールドの、ポインテッド・トゥ・パンプス。ヒールの高さは5cm。
「派手かな?黒を買いに行ったんだけどね」
レニは右の方を持ち上げ、窓の光に翳す。踵部分の曲線がしなやかで美しい。
「1件目の店員さんが、ヘアと同色にするとどんな服でも合わせやすいですよ、って」
7cmヒールの方がスマートで素敵だったが、試着したら一歩も歩けず断念した。ナオミのピンヒール姿を思い出し、あの靴で8時間も働くのは、アスリート並みの身体能力だな、と畏敬の念を覚えた今日。
「でも、しばらく出番はなさそう」
そのナオミと、3件目を出たところでばったり会った。彼女は靴の修理に来たそうだ。立ち話もなんだから、とスタンド・カフェで40分ほど雑談。
キャンディ・バーにジュエレッタ"エメラルド・ガール"が実装されて1週間。店の雰囲気が目に見えて変わったという。
静まり返っている。
BGMのボリュームは、以前の4分の1まで下げたらしい。
「エメラルドちゃんが目を伏せるのを、みんなしーんと待ってるの。昨日から、お代わり券を販売しているわ」
ナオミはカプチーノをちびちび飲みつつ、ため息混じりにレニに微笑む。
「なんか、やることなくなっちゃった。時給が下がるわけでもないから、いいけどさ」
ウェーブの黒髪の毛先を、赤い爪がくるくると巻く。
「仕事ないのにいるだけってのは、どうもね」
レニはフラペチーノをストローですすりつつ、私がキャンディ・バーにスポットする日はもうないのだな、と理解した。
「あのドレス、着てみたかったなあ」
それでも靴を買った理由は、レニ自身もわからない。無駄な買い物はしない方。しかも予算オーバー。靴屋を6件ハシゴでやっと決めた、6200ルカの靴なのだ。
レニは、ブーツを脱いでパンプスに足を差し込む。
今、履かなきゃもったいない。
ジーンズ姿だが、ゴージャスなパンプスはそれなりにマッチしていた。
「うん、いいじゃん」
しかし、痛い。
サイズは合っているけれど、ところどころ隙間があったり窮屈だったり。長距離歩行は不可能だ。
馴染むまで、部屋で履いて過ごすかな。
“Refill, Mory.
For my pumps.”
Mory rises.
Copper fingers glimmered.
“You turn into glass shoes.
Bibbidi-Bobbidi-Boo.”
Leni lifted the hem of the transparent dress.


