「そりゃそうだ」
ウォーターを飲み独りごち、パントリーの棚を物色。ビスケットとチョコレートがある。
「歩行機能は必要ないもんな」
ピリ、と封を開け、四角い形のビスケットを齧る。口の中の水分が凄まじい勢いで奪われた。
2本目のウォーターを取り出す。バニラ・フレーバー。甘すぎるけど、今夜はこのくらいがいい。
「ほんとーに重かった。根本的に家具なんだね」
視線をダイニングに向ける。月面都市第一層の安アパート、1DKのすみっこ。
ジュエレッタは直立したまま微笑んだ。この部屋には、椅子が1脚しかないのだ。
「Tacit understandingとして、金目の物を持ち帰っていいことになってるけど」
私はデータベースをウォッチで表示し、宝石女を改めて検分する。
Morion Girl
Flavor: Passion and Rich
Polishing form: Full-bodied
Emotion Content: 53%
Raw Ingredients: Brass and Morion
Voice tone: Alto
Category: Sing
Product Name: Morion Girl
Serving Suggestion:
Room Temperature in the luxury night.
Price: 280 Monica
「えーっと、ざっと2800万yen?」
モリオンガールは殺風景な部屋の隅できらきらしく佇んでいる。
「あんた、いくらなんでも高すぎるしさ。バレたらやばいかな?」
上向きのランドルト環みたいな口が、光学パネルの微かな光をピンクネオンに照り返す。
この女は、歌う。
それだけだ。歌うことしかしない。
"Same here. "
あんたは歌う。私は撃つ。
それって、何か違うかな?
「ねえ、歌ってくれる?さっきみたいなサイレンじゃなく、オルゴールみたいな感じで」
モリオンガールはこくりと頷き、お代わりのハンドサインをした。
「あ、だから歌ったの?あの時」
私は可笑しくなって笑った。声を出して笑うのって久しぶりかも。
"Refill please, モリー."
クリスタルのマイクは置いてきた。
モリーは見えないマイクのスイッチを押す。
波長が変わった。境界が溶ける。
"Sweet dreams. Leni"
Lullaby.


