33.5_[Catherine These Days]火星の恋
2252年5月。
火星都市シナイ・ドルサ
"レジデンスシナイ301号"
「ナチョー、私のパンツ知らない?」
「えっ!洗ってもうた」
ゴウンゴウン。ガコン。
「ええー!?今から仕事だよー」
「キャサリン、すまん!もうすぐ洗濯終わるんやけど」
「何秒後?」
「8分くらい」
ガコンガコン。ビ、ビ、ビ。
「あ、洗濯機止まってもた。古いでなあ」
ガン、ガン!…ーーガガ、ガ、ガコンガコン。
「遅刻しちゃうよ」
フューシャピンクの髪を、ナチョが逆手で掻き上げた。
「えーと。……ボクので良ければどうぞやで」
「……いいや、履かないで行く」
「待って、キャサリン」
「えー?あんまり待てない、忙しい」
ガタ、コッ、コッ、ガチャン!
「ボクと結婚して。今」
「……??……ええっ!?待って、まじの話してる!?」
「まじもまじ。大まじや。ボク、キミのことが宇宙で一番好きやねん」
「え……」
ガコンガコン。
…………ガガ!
「……はっ!ま、まま待って!ちょ、ナチョ見て!着替え中!荷造り中!バズーカの組み立て中!よりにもよって、この忙しい時にプロポーズする?私、今パンツも履いてないんだよ!」
「それはすまん!」
ガーッ、ガコンガコン。
ガガガガガ。ガコン、ガコンガコン。
「……えーと。びっくりしたしパニックだけど、うん。嬉しいよ。それさあ、帰ってきてからゆっくり聞きたい」
「コンバータントは、今の約束しかせん」
「そうだけどさ……」
「ボク、チビでガキで学もあらへん。身体の右側機械やし。キャサリンは、超ウルトラ級にイケとる火星美人やさかい。隣を歩く男としては、正直ボクはかなりビミョーや。けどな」
パチン、とコバルトブルーの左眼がウインク。
「ボク、アホみたいに強いで。火砲の死神イグナシオ」
プロテクトを外した合金の右手が、キャシーの左手を握る。
「キャサリン。太陽系で、多分一番強い男はどない?」
「そんなの、決まってんじゃん」
キャシーはナチョの首に抱きつき、腕に思いっきり力を込める。
「大好き!私、あんたと結婚する!」
ぎりぎりぎり、と音がした。ナチョはえへへ
と笑ってキャシーの肩を両手で抱いた。
「誓いのキス、今していい?」
「ん」
「……」
「……」
「……へへっ」
「ナチョ、もう一回」
「……」
「……」
「……キャサリン、左手」
「何するの?」
「バンソーコー。指輪の代わり」
寝巻き代わりのヨレヨレのTシャツに透けるナチョの肌は、右と左で色が違う。黒鉄色の右手を左胸に置く。
「ボクの心臓。これは、まだ機械やない」
ぽた、と雫が一つ、キャシーの頬を伝って指に落ちた。ナチョの指が、絆創膏を巻いた場所。
「薬指は、一番でっかく心臓に繋がっとる。こうやって、キャサリンの薬指に繋げとくよって」
ナチョが、絆創膏を差し出した。
「ボクにもつけてくれへんか?」
「うん」
キャシーはそれに手を伸ばす。が。
ビーッ、ビーッ、ビーッ。
「あ。待って、先にパンツ履く」
「ズコッ!ええ雰囲気やったのにー」
「だって、仕事行かなきゃだもん。アシじいに怒られる」
ナチョはずっこけたまま、わはっ、と笑った。
「じいやん、怒るとほんまにおっかないわ。なあ、武器触ってええ?組み立て、ボクがやってもええか?」
「どうぞ、私のだんなさま!」


